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貴族……貴族……貴族。右を見ても左を見ても洒落た格好の奴等が立っている。目がチカチカしてくる。
どうしたもんか、あたしはガキを連れている。金髪で、精一杯お洒落を決めた七の男の子だ。
「父上と母上が、いつもお世話になっております」
「いえいえ。こちらこそ遠流路さん夫妻には御世話になっておりますわよ。偉いわね、坊や」
「……失礼します……」
〝坊や〟って単語に過剰反応丸分かり。
どうしょうもない事実だけど受け入れたくないということかね。「ガキ」で十分だっての。
「なあ、お前の両親や姉貴はどうしたよ? 来てないわけじゃないだろう」
「父上も母上も姉上も、遠流路っていう看板にお高くとまってる。警察とも太いパイプで繋がっているから、ほかの貴族からの風当たりも気にしてない」
「姉貴のこともかい?」
「確かにマイナスにはなってしまったよ。だから、今日の集まりに僕と御付きだけを向かわせたんじゃい」
「自分等は姿を見せず、同情を買いそうなお前を行かせたあたり、遠流路ってのはクズの一族なのか?」
「く、クズとはなんだ! 言葉がすぎるんじゃ!」
「お前の家族以外にも遠流路はいるだろう。どうして誰も来ねえ。ガキのお前に遠流路を背負わせて、どこのどいつも来ねえとはどういう了見してんだ」
「そ、それは……じゃ……」
「三代とかで来てる一族からしたら、遠流路は終わったって思うだろうよ。同情されるどころか、反感まっしぐらだ」
「……ぐっ!」
「未来ある人間に過去を擦り付けてトンズラ……遠流路を表すとこうか?」
「いい加減にするんじゃい!」
涙を浮かべ、小さな拳をぶつけてくる。七歳の力じゃ大したことはない。が、痒くはない。痛みはある。
遠流路家を背負わされた無垢な男の子。けど、あたしの目に映るのは、遠流路家を背負う覚悟を持った男の姿だ。言葉では言い表せない喜怒哀楽を、あたしに拳で伝えてきた。
「……もう、いいのかい? 遠流路懐琉。文句なら平衡が受け付けるがよ」
「い、今の遠流路の体質は腐ってるんじゃ。驕っているんじゃ! 婆様も爺様も、お手上げ状態の蚊帳の外同然。父上が仕切り、母上が決める。そんな両親を見て育ったのが姉上……。僕に向けられる視線は遠流路に対する怨み……憎しみばかり。ははは」
こいつは、大人びてるんじゃねえ。大人びてしまったんだ。ガキなのに、ガキであることを諦めてしまったんだ。大人の都合で……貴族であるが故に。
「懐琉。正直に言え……死にたいか?」
「うぇあ!? し、死ぬ!?」
「遠流路から解放されたいか?」
「……僕は……〝普通〟がいい! 名誉も誇りも見栄もお金も〝普通〟でいい! 貴族なんか要らないんじゃい!」
「ほう。言っちまいましたねぇ、坊っちゃん。言ったことには責任を持てよ? 懐琉」
「な、なんじゃい」
「懐琉、家出しろ。あたしん家で面倒看てやる。お前の両親が迎えに来るまで好きにしろ。なーに、遠流路家には報せてやるよ。御宅の息子さんが家出に来ていますってな」
「なんじゃと!?」
「遠慮すんなっての。あたしのお父、貴族が嫌いだから丁度いい」
「比良さん。流石に厳しいのでは」
側で事のあらましを聞いていた灯可里が口を挟んできた。でも、本気で止める気はないみたいだよ。厳しいなんて遠回しな言い方して。灯可里も遠流路と何かあったのかねぇ。
「ふふふ。この一週間でパワーアップした平衡比良に、不可能など有り得ん!」
「仕方ありません。貴族の問題は貴族で片付けるのが礼儀ですから。私も付き合いましょう」
仕方なさそうに言ってるが、その緩んでいる口元はなんだね? もしかして楽しんでるのかい、灯可里よ。




