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あたしの名前は、平衡 比良。
馬鹿にしてるのか? と言われれば「そうだ!」と言い返す自信が絶対ある。
「平衡さん、どうぞ」
「なにこれ」
クラスの男子がチョコを差し出した。
何故チョコを持ち歩いているのかなんて気にしない。あたしは大の甘党だ。
「マッズ! ゲロマズ! クソマズ! バカマズ!」
「そうですか?」
「殺す気か! このクズ!」
あたしは甘党。なのにチョコはビター。吐き出した。
「あ~。平衡さんに睨まれるなんて最高だーい!」
馬鹿で良かった。変態で良かった。苦味は最悪だ。
「平衡さん。あの?」
「あん? 今、超機嫌オーバーヒートだっての!」
甘味を欲していた。話なんか御免な気分だ。
「待って!」
「駄弁る気にならねえ。あとにしな」
あたしは、苦味を吹き飛ばすかのように教室の扉をおもいっきり閉めてやった。向かうは安全地帯!
※ ※ ※
「屋上……だぁ……」
目の前に最悪な野郎が居た。最も会いたくない人間の一人に。
「比良。待ってたぞ」
「死ねや、消えろや!」
この比良様の機嫌がナナメの時に、その気に障る笑顔をだすな。
「滅びろや!」
あたしは渾身の拳を炸裂させた、のに。
「いいパンチだ、合格!」
痛みを快感の如く受け止める変態幼なじみ。
二戸、である。
「今すぐ消えてくれ。あたし、機嫌が悪いんだ」
「どうしたの? 理由を聞かせてよ」
なんでこうも聞きたがるんだ。訳が分からない。
幼なじみなんか要らないのだが、それでも存在してる以上、無視に出来ないのが歯痒い。
「甘党が苦いのを食わされた。以上だ」
「あはははは! くだらない! つまらないよ、それ!」
二戸の悪い癖。相手を誰彼構わず、指を指して馬鹿笑い。そこに遠慮も配慮もない。
「あたしを怒らせたいのか」
「いいんじゃない? 比良は、どんな顔も可愛いよ?」
二戸の口説きには飽き飽きしてる。
ストレート過ぎて受け入れ難い。
「ね、これからデートしよ」
「あの世でか?」
あたしは、もう一発キツいのをお見舞いした。
余計に機嫌が悪くなった。こういうときはゲーセンに限る!
※ ※ ※
「ふん! チンケなゲーセンだ」
歩いて五分と掛からない。だから生徒の溜まり場と化しているオンボロ屋、通称〈錆びれ〉
「比良ちゃん、どうした?」
あたしの隣に女子が居る。あたしとは釣り合わない見た目と雰囲気。一緒か。
とにかく、あたしの大親友の来蘭ちゃんだ。
「なんでもない。それよりも付き合わせて悪かった」
「ううん。比良ちゃんの非行には慣れたもん。気にしないで」
彼女は天然だ。よって、彼女には裏表が無い。
つまり悪気はないのだが、何でも正直に言ってしまうのが結構くる。
「比良ちゃんは、絵に書いたような非行少女だね!」
うわっ! 笑顔で言う言葉じゃねえ。天然故に無垢なのだ。眩しすぎるよ、天使ちゃん。
「ねえねえ、そこの彼女。俺とお茶しない?」
後ろから声がする。キモい声。女子高生相手に「お茶」はねえだろう。せめて「ティー」だ。
「ねえねえ、聞いてる?」
「聞いてるっての。聞きたくもねえ声を聞かされて、また再び最悪気分再熱だ、コノヤロー」
あたしは、紐ネクタイを外して野郎に迫る。
もちろん脅しだが、ナンパ目的の相手なら大抵驚く。
「メガネじゃないよ。隣の可愛いほう」
そんなの知っている。あたしを誘う野郎なんか一人しか知らない。来蘭ちゃんが誘われるほうが圧倒的に上だ。
「え、わたし? うーん……ごめんなさい。お茶は飲みたいけど、男性は要りません」
相変わらずの正直さだ。笑顔で断りつつ、お茶を飲みたい気持ちは素直に言っている。
「いいじゃん。行こうよ」
「言った筈ですよ? 男性は要りませんって」
来蘭ちゃんの決め文句『男性は要りません』キター! こんな可愛らしい見た目なのに、残念ながら来蘭ちゃんは百合っ子なのだ。
「じゃあ、メガネでもいい!」
「あたしは余り者かよ。残念だが興味ない。何も言わずに消えてくれ」
「俺の誘いを断るとは、いい度胸だ。後悔するぞ?」
「力ずくでモノにするってパターン? そんなんだから来蘭ちゃん、百合に走っちゃったんだ」
「男の魅力に気付いたら、あっという間に元通りになるさ」
「無理だ。無謀だ。不可能だ! 野郎が魅力ないんじゃ話にならんぜ」
どう見たって一昨日来やがれ。二戸の方が百倍マシに思えるレベルだ。
「言ってくれんじゃん!」
野郎が殴りにきた。どうでもいいが、あたしは普通だ。何もかもが普通。特別ケンカが強い訳でも、可愛い訳でも、頭が良い訳でも、運動が得意な訳でもない。
「覚悟、いい?」
しかし、周りから見れば、あたしは普通じゃないらしい。五階建のマンションから突き落とされても平気だったし、大型トラックに轢かれても平気だったし、刺されようが沈められようが平気だった。
でも、あたしにとっては〝普通〟だ。
「がは……あ……あ!?」
野郎の首に、気持ちいい具合に紐が絞まる。
普段は味わえない特別な感覚。本当の口止めだ。
「比良ちゃん。そろそろ勘弁してあげて。死んじゃったらお仕置きにならないよ?」
「そうだねぇ。ゲーセンでナンパされて困って殺しちゃったなんて通用しねえよねえ」
あたしは、込めていた力を緩めた。
いつまでも絞めてるだけじゃ飽きるだろうし。
「あは!? ……ごの……」
「女子に飢えると見境ないのかい。誰でもいいじゃ、女の子を捕まえるのは至難の技だね」
あたしは、メガネをかけ直しながら言ってやった。
女子にだって選ぶ権利はあるし。
「覚えとけ!」
野郎がだらしなく去っていく。情けないナンパ師だ。
「比良ちゃん。アキバ行こ」
「アキバ? まあいいよ」
あたしは天然が最強だと思っている。




