紙袋をかぶって 4
あっけにとられたみいちゃんをそのままに、美子ちゃんは続ける。
「アンタ、関西に来たら、その顔だけで人気もんやで。ネタには困
らへんからな。けどな、うちもアンタに負けてへんでぇ。この顔、
スゴいやろ? 何と言ってもこの歯がチャームポイントや。わざと
整形したんやで? 頭の後ろをトンカチで叩いてなぁ」
これを聞いて、中の誰かがプッと吹き出した。小さい声で
「生まれつきだろ」
と、突っ込んだんだ。これでその場は和やかなものになった。
「やだ、美子ちゃんたら!」
「美子ってばホントに面白いなぁ」
女の子も男の子も笑顔になる。
みいちゃんはまた目を閉じて、心の中の声を聞いていた。
「みいちゃん、アンタだって前はみんなが笑ってるのが好きだった
じゃない。笑顔は幸せの印、でしょ? 自分が笑顔なら他人も笑顔
になる。ね? そうだったでしょ?」
天使のみいちゃんが真剣な声でそう言う。
「みいちゃん、今こそコイツにも思い知らせてやるんだ。事実を
突きつけてやるんだ。それでもまだ笑っていられるのかってね。
ほら!」
悪魔のみいちゃんの声は、まさに悪魔のささやきにも聞こえる。
「助けてよ…わたし分らない…」
ジャッジのみいちゃんは頭を抱える。
「みいちゃん、大丈夫よ。あの子なら大丈夫だから。ほら、美子ち
ゃんに助けてもらうのよ。言ってみて!」
天使のみいちゃんが背中を押す。負けずに悪魔も言葉を続ける。
「言えよ! それであの美子の化けの皮を剥がしてやるんだ! み
いちゃんの苦しみをアイツにも味あわせてやるんだ!」
「大丈夫! 言うのよ!」
「言うんだ!」
みいちゃんの中を、天使と悪魔の声が突風となって吹き抜けた。
瞬間、ジャッジのみいちゃんは覚悟を決めた。
目を開けたみいちゃんが、ついに口を開いた。
「ブス…」
「ん?」
美子ちゃんはきょとんとしてる。
「確かにわたしはホントのブスだ。でもね…」
【助けてよ!】
祈りながら、でも、口から出たのはこの言葉だった。
「アンタもホントにブスなんだよ!」
周りのみんなはこの言葉で静まり返ってしまった。みいちゃんの
言葉だけが響く。
「ふざけて、おちゃらけて、事実から目を逸らすなんて卑怯だよ!」
みんなには何のことだか分らなかったかも知れない。でも、美子
ちゃんにはすべて分っていた。だから、美子ちゃんはまるでお母さ
んのようにみいちゃんを抱きしめた。
「それは違う! うちは向きおうたんや。うちはホントのブスやっ
てな。だから笑えるんやで」
この美子ちゃんの言葉は、みいちゃんの心にスーッと沁みていっ
た。悪魔のみいちゃんは、この言葉によって眠りについていくよう
でもあった。
涙がこぼれた。ずっと欲しかったものに手がかかったような気が
した。
「ねえ、みいちゃん、どうしちゃったの?」
駆け寄ったルナちゃんが背中をさすってくれた。みいちゃんはそ
んなルナちゃんの顔を見て笑おうとしたけれど、目からあふれる涙
を止めることは出来なかった。
そんなみいちゃんを見て周りのみんなはまだきょとんとしていた。
そんなみんなとは対照的に、みいちゃんは声を上げて泣き出した。
みいちゃんの大きな泣き声は、新しいみいちゃんの産声のようにも
聞こえた。
かたくなだったみいちゃんの心。美子ちゃんによってその扉は開けられたようです…みいちゃんは誰かに助けて欲しかったんですね。そしてみいちゃんは…5に続きます。