四話 天才は思春期の少年となる
「――――なさい……ごめんなさい……」
数日前にも似たようなことがあったことを思い出し祐は意識を回復していた。数分前……理不尽な音速の拳を体に受け意識を時空の彼方に飛ばしていた祐もようやく生還したようだった。
「前の世界で花畑が見えた気がする……」
祐は体に異常がないか確かめつつ、自分の意識を時空の彼方へ飛ばした相手から色々と言い訳じみた説明をされていた。
「ごめんなさい……私も殴るつもりはなかったんです……ちょっと取り乱してしまって……私のことはレインと呼んでください。先ほども名乗りましたがバラッド王家のものです……はい」
自演していた神様キャラも捨て本当に申し訳なさそうにしているレインは、反省の意味を込めて正座をしていた。
「その王族様が他家の敷地の中で彫像に成りすまして神様ごっこですか? しかも無抵抗の人間相手にとんでもない拳をたたきこんでくるし死ぬかと思いましたよ!」
「う……すいません! 私も自分が、あんな体術を会得しているとは気づきませんでした!女の子の秘密ってやつですね♡ えへ♡」
「げふんげふん……可愛くいってもダメですからね……」
前の世界で暇も持て余しテレビに出ているアイドルに詳しい祐であっても彼女の姿は――美しい金髪に深海を思わせる深い青の瞳、一流の彫刻家が数十年かけて辿り着いた最高傑作のような顔や体……美の化身に愛されたような神々しい魅力を放っており、ふざけて笑っているレインに顔を赤くしながら祐は咳払いをして話を戻す。
「それで……なぜ僕を狙ったんですか?」
「あれ? やっぱり気づいてましたか……私が偽の地図を渡して社まで来てもらったことを……」
「偶然にしては出来すぎてますからね……こんな手の込んだ演出までして僕にどうして欲しいんですか……そもそも普通に出会う選択肢はなかったんですか?」
「まぁそこはノリというか若気の至りといいますか……エヘヘヘ♡ やっぱりユウグリッドは私が見込んだ男の子ですね♡」
可愛らしいポーズをしながら話すレインを見るたびに祐の心臓は早鐘のように響き、どうしてしまったのか顔の火照りが消えなかった。
「その……僕のことを前から知っているみたいですが王族の方に知り合いはいませんし侯爵家といっても三男の僕が表舞台に出たこともないハズですが……」
「分からないのも当然です。私が一方的にあなたの事を調べて知っているだけですから……」
「調べる? 何をいってるんですか……」
「ユウグリッド・シュバルツ! あなたは特別な能力を有しています。ステータス欄に知恵の極みという記述があるでしょう? あれは誰にでもある能力ではないの……というよりこの世界の人間ではありえない能力なのよ……」
「つまりレインは、僕がどういう存在なのか知っているということですか?」
「あなたを知ったのは偶然……というより天啓があったからよ……バラッド王家には代々巫女の力を受け継ぐ巫術という能力があってね……我がバラッド王家は後数年で崩壊すると天啓があったの」
「この国が崩壊する!? その天啓って本当なんですか??」
「天啓は予言された一つの未来……だからこそ回避する方法も存在するの」
「それが僕だとでも言うんですか?」
「そう……あなたというより……あなたの能力が破滅を回避する唯一の方法だと天啓があった」
「具体的に僕にどうしろというんですか?」
「分からない……天啓は絶対ではないの……ただ一つ言えるのはバラッド王家はあなたを失うわけにはいかないということです。」
「僕の体調と関係してますかね?」
「そこまで気づいていたのであれば分かるでしょう? あなたの命を狙ったのは、バラッド王家を破滅させようとする一派のものです。」
「たかが侯爵家の三男相手に毒を仕込むとか回りくどい相手ですね……暗殺者を直接送り込めば一瞬で終わる話だと思いますが……」
「そこまでは分からないけど我々バラッド王族はあなたを全力で保護するために私が来たというわけ……」
「保護してもらう相手に殺されかけるとか笑えませんね……」
「……も、もうユウくん! お姉さんさっきの事は忘れてほしいな♡」
「お姉さんってレインは僕と変わらない歳だよね?」
「うん?どこ見ていってるのかな……? 私はこれでも8歳よ! あなたより3つも上のお姉さんなんだから! ユウくんに警戒心を持たれないように私が選ばれたんですからね」
大きな胸を張って上から目線で話を再開するレインに呆れつつ、今回の話を吟味する。
「確かにレインの話は分かったけど証拠がないな……すべてレインからの話であって僕が検証する余地がない……これで信じるというのは余りに軽率じゃないかな……せめてレインが王族である証拠とかないの?」
「さすがね! ユウくん! 私も今の話だけで信じてもらおうと思ってないわ! これが証拠よ!」
いつの間にか馴れ馴れしい口調に変わっていることに祐も気づいていたが、ここねと違いレインに愛称で呼ばれるのは心地よく胸のあたりがポカポカしていた。そんな祐には目もくれずレインは勢いよく立ち上がると、大きな胸元をさらけ出しバラッド王家の紋章を見せようとする。
「代々バラッド王家は直系の者にのみ体のどこかに王家の紋章が浮かび上がるというのは、さすがに知ってるわよね? これが私の紋章よ」
どこか諦めたように祐は目を逸らしながらレインに答える。
「レイン……疑って悪かったよ……だけどこれは不可効力だし気をしっかり持って……ね?」
レインは、ふと自分が見せている部分に目線を落とし、顔を赤くしながら後づさる少年の姿を認識した。
「キャ―――――――――――――――――――このド変態ぃぃぃぃ―――――――――――」
恐るべき速度で彼女の膝が祐のみぞおちに向けられる、祐は遠い目をしながら――膝も音速なのか……とどうでも良いことを思いながら回避不能の凶撃に顔を引きつらせていた。
守られるべき相手から容赦のない一撃を受け次元の彼方へ意識を刈り取られていく中、祐は最後の力でつぶやき崩れ落ちる。
「またこの展開か……」
世界は再び暗転していくのだった。
恋愛系って表現難しいですね……ついついお笑いにもっていきたくなります(笑)