一話 天才は世界を見限り逃亡する
佐藤祐――百年に一人の天才である。
0歳にして言葉を操り三歳で小学校までの全学課過程を理解し五歳で高校卒業、十歳で複数の博士号を取得し十三歳で世界最高学府の教授に就任するという異例中の異例を成し遂げてきた。
祐は世界に絶望していた。今まで夢中で取り組んできたフェルマーの最終定理を証明したあたりで生きる意味を失ってしまったのかもしれない。彼を夢中にさせる問題は世界に残っていなかった。
「日番谷君、僕もう限界だよ……」
「お姉さんと楽しいことしましょうか♡ ……ふふふ」
「日番谷君、僕十三歳だから犯罪だからね?」
「知ってますよ。教授と禁断の絡み愛……萌えますね! 成長をするのが待てません」
「犯罪性が増してきてるね……」
「教授……責任はとりますよ?」
「冗談だよね!? 無理だよ僕十三歳だよ!」
「ふふ……そうですね」
舌なめずりしている日番谷ここねに祐は顔色を青くしながら一歩下がる。
十三歳にして眉目秀麗な容姿と天才教授……世界中のマスコミに取り上げられ数千万人規模のファンクラブが存在する。さらに考案する研究すべてがノーベル賞クラスの革命をもたらし……暇つぶしで始めた株やFXは一夜にして大富豪へ……現代において向かうところ敵なしの佐藤祐は当然のように世界から最重要人物として優遇される。
彼の天才性は特に数学分野と化学分野で発揮され、博士号取得の際に発表したバイオ燃料研究で世界に燃料革命をもたらし各国の研究機関は利権を求め第三次世界大戦が勃発する。
泥沼の展開となるが戦争を良しとしない祐は核兵器を超える超伝導兵器を開発……各国の人工衛星を一瞬で破壊するというデモンストレーションをおこなうと世界が沈黙した。しかし世界は祐の天文学的価値を逃すまいと団結……国連の共有財産として監視対象とする。
その後、危険思想の革命家やテロ組織からの襲撃を恐れた祐は家族はおろか日番谷ここね以外の誰もいない隔離研究所に自らの意思で軟禁され生活を送ることとなる。
世界から隔離された天才はすべての興味を失い数年の月日が経とうとしていた。
「日番谷君そろそろお別れだよ……」
「教授なにからお別れですが? ……私達はまだ始まってもいませんよ?」
「あはは……日番谷君の冗談はキツイよね」
「冗談? 私はいつも本気ですが!?」
日番谷ここねの雰囲気に真剣みが増し顔を近づけてくる。
危険を感じた祐はさらに一歩下がると話を再開する。
「うん……近づかないで……怖いよ日番谷くん!?」
祐は無表情で寄ってこようとする変態の機先を制しながら話を続ける。
「僕は疲れたよ……自由の無い世界……楽しみも無い世界。戦争したがるオッサンも利権絡みで煩い研究所も……口を開けば下ネタばかりのショタコンも全部……」
「最後に悪口を言われた気もしますが……分かります」
「それでね……世界から消えようと思うんだ」
「教授は自殺するということですか?」
「そんな度胸ないさ……だから異世界に逃げる」
「異世界? 先日調査に行ったワームホールですか?」
昨年の春、太平洋上空で突如巨大な爆発が起きた。
世界各国は第三国からの核兵器使用と判断し核戦争一歩手前となる騒動が起きた
その後国連から緊急声明が発表され戦争は回避されたが何が起きたか確認ができず爆発現場まで調査隊が派遣することになる。そこで発見されたのが後にワームホールと言われる巨大な重力場だった。ワームホールは、それ自体が重力場を形成している以外爆発をおこした理由も見つからず調査隊は成果を持ち帰ることができなかった。そこで百年に一人の天才である佐藤祐に白羽の矢がたった。
あらゆる問題を解き尽くし暇を持て余していた祐は願ったり叶ったりの状況に小躍りして調査隊に合流する。
その後国連決議がおこなわれ佐藤祐の派遣が決定……一か月ほど前に、ここねを伴って調査をおこなった経緯がある。
「あれは国連の意向で機密扱いだけど調査した結果……異世界の門というのが有力な仮説なんだ……その仮説を証明できないかと思ってね……異世界の門細工したんだ」
「そんな話をされて私はどうすればいいのですか? ハっ!? まさかこれが噂の駆け落ちまでのプロセスというやつですか! なるほど不束ものですが宜しくお願いします」
「よくこの状況でそこまで自分を見失えたね……尊敬するよ」
「当然です教授の助手ですから」
「尊敬だけ言葉を拾わないでね……褒めてないから……」
「ここねと呼んでください。」
「飛躍してるよね!? 聞いてたよね……日番谷くん?」
「こ……こ……ねです♡」
「うん……落ち着け……こ、ここね!お願いがあるんだ」
「はい、あなた♡」
「もう突っ込むのも面倒だから進めるね」
「突っ込むって……♡」
「十三歳相手に犯罪だからね。それでここね……本題だけど僕の体はこの研究所に置いていく……あくまでも精神体のみ異世界に転送されることになる」
「ということは体は好きにしても良いですね!」
「……うん? 聞かなかったことにして話を進めるけど……体を管理してもらいたいんだ。知っての通り人間の体は精神と大きな繋がりを持つ……どちらが死んでも存在できない……一時的に切り離すことができても無くすことはできない」
「私が祐くんを自由に……ふふ……ふふふ」
「呼び方まで変わってきてるね……本当にしょうがないんだ……お願いできるかな?」
「不肖! 日番谷ここね、祐くんの体を自由に弄びつつ管理させていただきます」
「言葉も選んでくれなくなったね……帰ってくるか分からないけど……僕は異世界で凡人になって静かに余生を送るから」
「キスしてください」
「じ、じゃあ時間だからバイバイ」
「あ……もう恥ずかりがりやさんなんだから……♡」
ここねの言葉を最後に世界が膨大な光に満たされていく……世界とここねの毒牙から逃れるため祐は旅立ちを決める。
初投稿になります。
生暖かい目で見てもらえると助かります。