バッドエンディングからはじめましょう
うーん。
よくわからない作品になっちゃったかも…
うーん
ここ学校内よね?
私の目がおかしいのかしら…
訪れた母校で…
そこで見たモノは普通だったらありえない光景でした。
堂々と
人目の多い
食堂で!
1人の少女に複数の男性が群がって愛を囁いております。
少女は恥らいながらも場所を移動しようともせず
男性陣からの愛の囁きをうっとりとした表情で聞いております。
周囲の白い目や憎悪の視線に気づいていないようです。
いや、あれは気づいていながら気づかないふりをしておりますね。
だって、愛を囁いている男性陣からは分からないように勝ち誇った笑みを
自分たちを見ている人達に向けて浮かべているのですら…
そして完全に彼らは彼らだけの世界を作り上げておりました。
ここに通っているイトコから聞かされていたのである程度予想はしておりましたが、
本当に予想通りの展開が繰り広げられているとは……。
****
私の母校であり、イトコが通っているのは偏差値はさほど高くはない普通の私立の中高一貫校。
生徒達の自主性を尊重し、他校よりも校則が緩いが、不良が蔓延る学校でもない普通の学校だ。
唯一他校と違う所を上げるとしたらこの学校は行事を行う度に一般公開していることだろうか。
まあ、創立以来ずっと行って来ていたことなので在校生たちはこれが普通だと思っております。
ええ、私も思っていましたよ。
大学に行って他校出身の子の話を聞くまでは!
うちの学校……学校行事が他校よりも多かった……
入学式や卒業式、体育祭、文化祭は他校でも行われているのは知っております。
しかし、この学校は
4月入学式&新入生との親睦会
6月体育祭
7月七夕祭
8月水泳大会
9月は校舎裏にある学校所有の畑での収穫祭
10月文化祭
12月クリスマスパーティー
1月餅つき大会
2月は節分大会とバレンタイン
3月卒業式
と、何かしら毎月イベントがありました。
無かったのは5月と11月くらいかしら?
それらのイベントごとはすべて生徒会が中心となって行っております。
しかし、現在その生徒会が全然機能しておらず、イトコから卒業生である私に泣きの電話が入ったのです。
私はすぐさまイトコに会い、事細かに話を聞きました。
イトコにはいくつかアドバイスをして今後の対策を授けました。
実は私は知っていました。
こうなることを……
なぜなら、この世界はゲームの世界ですからね。
そして、現在、主人公がエンディングを迎えた後である事もわかりました。
私は、漫画やライトノベルで流行っている『ゲームの世界に転生』した者です。
頭のネジが一本抜けたと思ってくれても構いません。
私だって半信半疑でしたからね。
私が『過去の記憶』を完全に思い出したのは大学を卒業し、とある企業に就職して2~3か月がたったころなので2~3年前です。
あ、ちなみに私、現在25歳です。
記憶が蘇ったのは22~23歳の頃ですね。単純計算で考えると…
記憶が蘇ったのが舞台となる学校を卒業した後だったので関係ないと思って放置しました。
ええ、自分には関係ないと思ったので放置しました。
だって、卒業した後で思い出しても高校生には戻れませんからね。
まあ、一般的には主人公やライバルキャラなどに転生というのが二次元の世界では主流ですが、私はなーんの関係もないキャラに転生したのも放置した理由かな?
そう、ゲームとは全く関係ないキャラです。
今のところはね。
まあ、関係があるとすれば彼らの先輩という立場という事でしょうか?
現在、機能していない生徒会に私も学生時代は所属しておりました。
高等部時代は一応副会長をやっておりました。
うん、当時の会長に無理やりやらされたんだよね。
本当なら書記になるはずだったんだけど…
まあ、やるからには手抜きなどしませんでした。
ただ、ちょっとやり過ぎた感はありますね。
従来のイベントだと面白みがないと当時の会長と結託していろいろと改造していったので……
OB・OG会からは度々苦言をいただきましたが、理事会からは褒められました。
伝統を守りつつ、新たな伝統を作るという意味で褒められたんだと思う。
まあ、今ではいい思い出です。
さて、話を戻しますか。
今、食堂で繰り広げられているのはいわゆる逆ハーレムです。
ええ、きっぱりと言います。
逆ハーレムです。
1人の女に複数の男が群がる。
芸能人をファンが取り囲むのとは違います。
ただの女に盲目的に群がる男共。
二次元の世界なら有かもしれないが、現実世界ではお目にかかりたくない風景ですね。
「ここ学校内の食堂よね?」
私の声にいち早く気づいたのは逆ハーレム要員の一人だった。
彼は私の顔を見ると一気に顔色を無くした。
「す……純玲……」
「ごきげんよう。中務先生」
にっこりと微笑んで挨拶をする私に彼・中務真人はさらに顔色を悪くした。
「ずいぶんと賑やかですのね。一瞬、ここが学校の食堂である事を忘れてしまったわ」
「こ、これは……」
「弁解はいりませんわよ。あなたが何をしようと私にはもう個人的には関係ない事ですから」
中務真人
高校教師
27歳
高校時代から付き合っていた私の元恋人
去年一年、彼の様子がおかしかったので探りを入れたら…
まあ、年下の少女に翻弄されていたというわけですよ。
その翻弄している少女というのが逆ハーレムを築いている彼女というわけですけどね。
ちなみに、別れは私からしました。
ええ、浮気をされたので、きっぱりと振って差し上げました。
あの日は両家揃っての食事会……結婚前提のお付き合いの報告の場でした。
私の両親には前もって報告していたので『好きにしなさい』と許可をもらったので、彼のご両親の前で去年一年の出来事をこと細かく報告しました。
偶然その店に居合わせた友人たちが…
会食の場は某ホテルのレストランだったので周りには少数ですが他のお客様もおりました。
そこに、偶然友人たちが来ていたのですよ。
ええ、本当に偶然に…(にっこり)
彼のご両親は顔を真っ青にさせて何度も謝ってきました。
彼のご両親の謝罪は受け取りましたが、私は彼の謝罪を受け取っていません。
未練がましく言い訳ばかりして、誠意を感じませんでした。
私はどうやら彼のキープちゃんになっていたみたいです。
彼女に振られても私がいると……
冗談じゃないわ!
そんな男、こっちからお断りよ!
記憶を取り戻した時の私は楽観していた。
攻略対象の一人が自分と付き合っているからゲーム通りにならないだろうと。
ただ名前が偶然一致しただけだろうと。
しかし、昨年主人公が高等部へ編入してきたことで一変した。
彼は主人公に堕ちたのだ。
去年一年は私の仕事が忙しくて会えない時間が多く(それでも、電話やメールのやり取りは毎日していました)、その間に彼は身近にいた主人公の手に堕ちたのです。
あとは、先ほど述べたとおり。
私も悪かったと思っているけど、彼には裏切られた気分です。
別れを告げた後も何度もしつこく電話やメールをしてきて復縁を迫ってくる彼。
ウザイので彼からの着信拒否をした私。
友人たちにも協力してもらって完全にシャットダウンです。
さらに、イトコから報告される主人公と彼のアレコレ……
正直、いろいろと疲れました。
そして、イトコから主人公に堕ちた生徒会役員が使いモノにならないという報告。
どうやら主人公ちゃんは逆ハーレムエンドその2を迎えたようですね。
逆ハーレムエンドその2は主人公ちゃんはイケメンに囲まれてウハウハですが、イケメン君たちは主人公ちゃんを中心に行動するので、本来やるべき仕事を放棄し堕落していきます。
ちなみに逆ハーレムエンドその1の場合は攻略対象者は仕事をこなしつつ、主人公ちゃんと愛を平等に育みます。
攻略対象者は全員生徒会役員。
それにしても学園モノの乙女ゲームの攻略対象者に生徒会役員が必ずいるのは何故なんでしょう。
しかも圧倒的に多いのが会長・副会長ポジション……まあいいわ。
主人公ちゃんに堕ちた彼らは当然のごとく仕事放棄し、堕落していきました。
伝統行事の準備は全く行わない。
いや、主人公ちゃんが興味のある行事のみ行うという嘆かわしい事態に発展。
わが校の行事は創立以来途切れることなく続いてきた伝統行事であり、ご近所様たちの楽しみでもあります。
在校生から事情を聴いた卒業生達が陰でいろいろ動いて昨年度後半から今年度前半にかけての行事を取り仕切ってきました。
生徒会が動かないので各行事毎に実行委員会を設立させて表向きは生徒会ではなく実行委員会が運営という体裁と整えました。
理事会にもOB・OG会にも承認させました。
理事会とOB・OG会は最初は難色を示しましたが、生徒会の負担を減らすためという理由が自主性を重んじる大先輩たちに好感触を与え承認となったのです。
実際、私が生徒会に所属していた頃は生徒会だけでの運営は物凄く大変だった。
有志で手伝ってくれる子達はいたけどね。
「中務先生」
「は、はい」
「午後一で理事会役員を交えての職員会議を開くという報告は受けていないのかしら?」
「え?」
私が食堂に足を運んだのは職員会議を開くというのに姿を現さない教師を連れて行くため。
「ちょっと待ってください。いきなり現れて何を言い出すんですか、あなたは!」
主人公ちゃんが私に向かって怒鳴る。
私は小さくため息を吐いた。
私のため息は思いのほか食堂に響いたようだ。
数人の生徒がビクリと肩を震わせ、顔色を悪くしている。
「職務を放棄している教師を連れに来たんですが何か?」
ニッコリと微笑んでやる。
「どうして、あなたが?」
「あら、私のこと知らないの?全校集会で紹介してもらったけど……それに学校側から保護者宛に通知文も配布したはずよ?」
「え?」
「生徒会長、あなたも私が何者か分かりませんか?確か数か月前に生徒会役員とは個別に顔合わせしましたよね」
「…………」
「副会長、あなたも忘れたのかしら?」
「…………」
「書記の二人は?」
「…………」
次々と生徒会役員に問いかけるが誰も答えない。
その様子に主人公ちゃんは気を良くしたのか
「ほら、誰もあなたのこと知らな…………」
「理事長!ここにいらしたのですか!」
食堂の入口から校長が大声を上げながら入ってきた。
見物をしていた生徒たちは校長の妨げにならないように道を開けてくれる。
うん、みんなイイ子ね。
「校長、全校生徒に紹介してもらったけど、彼らは私の事は知らないそうよ。他の子達は私のことを知っているのに、生徒の代表である彼らは知らないんですって」
意地悪く言う私の言葉に校長は汗をぬぐいながらヘコヘコと頭を下げる。
周囲の生徒たちは驚きの表情で生徒会役員を眺めている。
年若い女理事長ということで生徒の間では強烈に印象に残っているとイトコから報告を受けている。
「まあ、生徒会が腑抜けでも各実行委員会は優秀な人材が揃っているようなので表向きは学校の面子は保たれていたのね」
「はい、その通りです」
「校長、私は会議室に戻ります。そこにいる職務放棄の処分を早急に決めましょう。これ以上他の先生たちの時間を無駄にするわけにはいきません」
私は茫然としている彼らににっこりと笑みを浮かべて
「今の貴方たちを見て、他の生徒たちが何もしてないと思っているようでは貴方たちは終わりね」
それだけを言い残して食堂をあとにした。
さあ、次の舞台に移りましょうか。
新たなゲームのスタートです!!
2nd主人公ちゃんが転入してくるのは来週。
それまでに舞台を整えなきゃね。
1st主人公ちゃんが腐敗させた生徒会と新たに立ち上がる新生徒会との攻防戦を描いた次なる舞台へ
1st主人公ちゃん
あなたは主人公ポジションからライバルキャラポジションへ変更です。
あなたはもう主人公には相応しくありません。
皆から愛される主人公になりたいのなら、生徒会役員を堕落させてはいけなかったのです。
1st主人公ちゃんが迎えたのは『逆ハーレムエンド』ではなく『バッドエンディング』
『バッドエンディング』から始まる新しい物語はスタート間近
2nd主人公ちゃんが転入してきたら開始です
~余談~
純玲が1年間忙しかったのは理事長就任の為の引き継ぎの為です。
真人は純玲が理事長就任の為に忙しくしているのを知りながらゲームの主人公ちゃんの手に堕ちた人です。
度々出てくるイトコ君のお話はまた別の機会に……