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一人目の攻略対象キャラクター

 

 

 

 

 

「じゃあ、貴女にこれを渡しておくわ。」


 脇役ポジションの彼女は、私に日記帳をくれた。

 これはゲーム内に出てくるアイテムだ。

 ゲーム中、攻略対象キャラクターとの愛情度チェックが出来たりセーブが出来たりする重要アイテムである。


「ゲームに出てきたものと全く一緒なんだ…。」


 そう呟きながら、日記帳の1ページ目を捲って見ると、そこには攻略対象キャラクターの名前が刻まれている。

 今は名前と年齢や身長体重など軽い設定のみが書かれているが、出会いイベントが発生すると愛情度メーターが出現するらしい。

 どこからどう見ても普通の日記帳なのに、自動的にメーターが出現するとは、まさにゲームって感じよね。

 …まぁそこはかとなくリアルなんだけど。



 このゲームの攻略対象キャラクターは全部で七名。

 後輩が二人、同級生が二人、先輩が二人、教師が一人。

 ゲーム内の難易度で言えば同級生その1が一番簡単で、教師が一番難しい。他は大体同じくらいだったはず。

 あぁ、ゲーム発売当初は隠しルートだか最難関だかで逆ハーレムエンドがあるらしいって噂もあったけど、あれはガセだった。

 まぁ逆ハーレムなんてパッと見は華やかだけど一人に絞りきれないだけだし、結局は誰か可哀想な目に遭いそうだし、私は無くて良かったと思っている。


 難易度設定がゲームのままだったとしたら、ここは一番簡単な同級生その1でクリアまで頑張るか…。

 でも同級生その1って、兄弟になるのよねぇ。義理だし、形だけだけど。

 さっき脇役ポジションの彼女が、今は高校二年生に上がる直前の三月末だって言ってたから、近々母親に…いや、正確にはヒロインの母親に『再婚する』と告げられるのだろう。

 そして新たな父の連れ子、それこそが同級生その1の正体だ。

 同じ家に住むことになるわ同じクラスだわで愛情度がずば抜けて上がりやすい。

 上がりやす過ぎて他のキャラクターを攻略する時、邪魔になるような奴だ。

 プレイヤーからは邪魔なシスコン、略して邪魔シスという異名を頂く程度には邪魔だった。

 邪魔シスとのシナリオはそこまで好みではないが…難易度だけで選ぶなら奴が適任だろう。


「…あの、ヒロインさん、大丈夫?」


 私が暫く考え込んでいたので、心配そうな顔でそう問い掛けられた。

っていうか、


「ヒロインさんって呼び方止めてもらえる?私は望月あかり。」


 ヒロインさんは無いだろうヒロインさんは。恥ずかしいったらないよ。


「えぇと、望月あかりさん。」


 きょとんとしながら、私をフルネームで呼んだ脇役ちゃん。

 そういえば、ゲームの中じゃこんなシーン無いよな。

 脇役ちゃんって名前すら無かったんじゃないだろうか。


「何でフルネームなの。あかりで良いよ。で、あなたの名前は?」


 私がそう尋ねると、


「私は希崎なずな…」


 彼女はおずおずと名前を教えてくれた。


「そんな名前だったのね。私がやらなきゃいけないみたいだし、一応頑張ってみるよ。よろしくね、なずな。」


「よ、よろしく!」


 なんだかとても嬉しそうな顔をされた。

 可愛いじゃないの脇役ちゃん…いや、なずなか。


「とにかく、私はさっき言った通り恋愛は苦手だから…協力してね、絶対よ?」


「うん!うん!じゃあ今日は一旦帰るね!また、学校で!」


 この世界の話をしていた彼女はとても真剣でどこか大人びて見えていたのに、名前を名乗ったあたりから突然幼くなった気がするんだけど気のせいかな?

 そっちの方が可愛いけど…。


「って!ちょっと待って!連絡先教えて!番号はさっきので良いのよね?メールアドレスとかその辺の!」


 私がそう言うと、なずなは一瞬きょとんとした後、ぽわーっと頬を染めた。

 何その反応。


「えっと…どうやれば良いのかな…?」


 は?

 どうやって?と聞けば、何やら彼女はメアドの交換方法が解らないらしい。


「今までどうやってたのよ…」


「だって、アドレス帳には家と両親と祖母と祖母の病院しか入ってないもの…。」


 なずなはそう言ってしょんぼりしてしまった。


「ってことは、私が友達第一号ってことで良いの?」


 二台のケータイを操作しながら尋ねれば、うんうんと元気良く頷かれる。

 何この子…私この子攻略したいんだけどどうしたら良いの?

 なんてアホなことを考えている間に、連絡先交換は完了した。

 なずなはこの後もやるべき事があるらしく、急いで家に帰っていった。


 さて、私も家に戻らなくては。

 戻ってすぐに同級生その1との出会いイベントとかだったらどうしよう…。

 確かゲームの最初は引越しからだった気がするんだ。

 リビングに入ると邪魔シスが居て、母に再婚することを聞かされて、邪魔シスが引越しを手伝ってくれて、と、そんな流れ。


 心の準備とか全然出来てないんだけど、どうしたものか…。

 いや、そんなに不安がっていてはいけない!

 頑張るの、頑張るのよ私!

 そう、これは私のためでは無い。

 なずなのためなんだ。彼女に頼まれたから頑張るの。

 自分のためだけではない、そんな風に考えれば、きっと頑張れる!


 そう意気込んで、ガチャリ、と玄関を開けた。

 するとそこには、さっきまで無かったはずの靴がある。

 母の物と思われる靴と、男物の靴。

 これ、絶対出会いイベント始まってんじゃん。

 あああやっぱ一旦外に出て、もうちょっと時間を置いて


「おかえりなさい、あかり。ちょっとお話があるから、早くリビングに来てちょうだい。」


 ですよね!時間なんて置けませんよ。


「ただいまー…」


 チラリとリビングを覗くと、そこには案の定邪魔シスの姿があった。

 うわぁ…イケメンだなー…


「あのね、あかり。お母さん再婚することにしたの。突然ごめんなさいね。でも、新しいお父さんってばとってもとっても素敵な人なのよ!」


 知らんがな!

 っつーかそもそもこの人だって設定上母なだけで実質私の母じゃないからな!

 そして前のお父さんも知らんからな!

 心の中で、そんな風に叫びつつも、私は平静を装う。


「…あぁ、えーっとおめでとうございます。」


 私のその言葉を聞いた母は調子に乗ってぺらぺらと喋り始める。


「この子は美原紅貴くん。あなたの新しい兄弟よ。」


 ゲーム中は大して何も考えていなかったが、これは本当に…超展開だな。

 突然再婚するって聞かされて突然兄弟が増えるとか。

 目の前でそんな事が起きたら何も言えなくなるんだな。


「おう、よろしくな、新しい妹。」


 何だ、お前同い年だろう。

 何勝手に妹とか言ってんだよ、中身年齢的にはお前が弟だろう。

 と、内心文句たらたらなわけだけど、


「…よろしくおねがいします。」


 口から出る言葉は大体こんなもんなんだよな。


「あら、あかりったら畏まっちゃって。緊張しているの?」


 おほほ、なんて笑っている母。

 笑えない。全く笑えないから。


「はい。」


 素直にそう返事をすれば、母はさらに笑い出す。


「紅貴くんがあんまりにもカッコイイからってそんなに硬くならなくても良いのよ!」


「いえ。」


 そういうわけではありません、と首を振って否定すれば、母は一瞬固まった。

 おかしいなあ、ゲームじゃもっと和やかな空気だったはずなんだけどなあ。


「…変な奴。」


 美原紅貴には変な奴認定されてしまったし。

 ゲーム通りに戻さなければ、今後の攻略に響いてくるんじゃないか?

 確かゲームでは面白い奴、って言われるはずだったから…

 だから何だよ、どうすりゃ良いのよ。


「さぁあかり、さっさとお引っ越ししちゃうからね。紅貴くんに手伝ってもらってね。」


 母はそう言ってどこかへ行ってしまった。


 リビングには私と美原紅貴がぽつんと残されているのだが、これをどうしろと?


「じゃあさっさと片付けようぜ。お前の部屋二階だろ?」


「はい。」


 リビングのソファから立ち上がり、歩き出そうとしていた美原紅貴の背を追おうとした。

 それなのに、奴は突然立ち止まり、私を睨みつける。


「なんで敬語なんだよ。」


「え、初対面ですし。」


「今日から嫌でも家族だろうが!俺だって我慢してんだからお前も取り繕うくらいしろよ!」


 何か超怒鳴られましたけど。

 うわーもうダメだ、どうやったらシナリオ通りに話を持って行けるのか全然解らない。

 ゲームは良いよな、選択肢出るから。

 ここはゲームの世界だし、目の前に居る人物もゲームの登場人物だ。

 だけど、起こっていることは全て現実で、選択肢なんて出てくれない。

 それでも心のどこかでシナリオ通りに進んでくれると思ってた。

 きっとなんとかなるだろうって。

 こんなに全然なんともならないとは思ってなかった!


「えーっと、あのー…ごめんなさい。」


 とりあえず謝ったが、奴は不機嫌そうに顔を歪めたままで。

 許せよ!許してくれよ!大幅にシナリオからズレてるんだからお前もシナリオ通りになるように頑張ってくれよ!

 なんて言いたい気分だが、彼等はシナリオなんて知らないんだろう。

 そりゃそうだ、私以外の人達はここがゲームの世界だなんて思っていないんだろうし、彼等にとってはここがリアルなんだから。

 そして、彼等にだって心も感情もあるんだから。人間なんだから。


「…ったく、次敬語使ったらお前とは二度と喋らねぇからな!」


「えっ、それは困る!」


 二度と喋らないとなると攻略出来なくなるじゃないか!

 一番難易度の低いお前が居なくなったら私はどうすれば良いと言うの!

 私は咄嗟に美原紅貴の服の裾を掴んだ。

 だが、奴は何か気に入らないらしく、それをバッと振り払って階段を上がり始めた。

 …どうしよう!


「おい、早く来いよ!片付けんだろ!」


 あ、一応片付けは手伝ってくれるんだな。よかった…

 私はこっそりと胸を撫で下ろし、奴の後を追った。



「お前の名前、なんだっけか。」


「あ、望月あかりで、よ。」


「『でよ』って何だよ『でよ』って!」


「だ、だって敬語使ったら喋ってくれないって言うから…!」


「…あっはっは、お前案外面白い奴なんだな!」





 

邪魔シスはこんな子でした。

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