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乙女は歌う  作者: ふとん
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震えて

 ふと、人の気配を感じて潤子は目を開ける。

 暗闇では無かった空気の流れがある。

 そうして、澱んではいるがここが少なくとも文明の中なのだと、いつのまにか横たわっていた石床の上に手をついて知った。

 冷たい石床から起きあがると、自分が不思議な方陣の中に居ることを知る。

 先ほどまでの体のしびれは何処にも残っていない。


「……潤子?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、見慣れた親友が心配顔で、知らない若い男と立っていた。

 硬そうな黒い鉄の鎧を着込んだ装いはいかにも暑苦しいが、長身の彼は白晳の顔に汗一つかいていない。背中の半分を覆うほど伸びた黒髪を一つにまとめ、アジア圏の人にも見えたがその容貌はひどく整っている。そして潤子を見据える瞳は蒼かった。


 男の睨み据えるような視線は気になったが、とにかく親友が無事であることに安堵した潤子は息をつく。

 だがその途端、右腕が震え出す。

 訝しんで自分の右手にいつのまにか握られている物を見つけて、悲鳴を上げた。

 一振りの黒い剣だ。

 鞘どころか柄まで黒いその剣は、博物館で見た刀のように細く整っていたが、右腕一本で持つには重く感じるほど重量がある。

 柄に貝でくるむような装飾がある以外は、柄から鞘にかけて一筋の文字のような銀の装飾があるだけで、他は刀身を抜いてもいないのに磨かれて黒光りしている。

 その剣は、潤子が己を確かめたことを待っていたかのように、鼓動を打つような振動を始めた。

 息を呑んだ潤子は、自分の喉がひどく痛いことに気づいた。

 先ほどまでの、暗闇で自分の身に起こったことは夢ではなかったのだ。

 おぞましい記憶に唇をふるわせた潤子だったが、自分の左手が勝手に動き出したことに目を見開く。

 潤子の意志に背いて左手は震えながら、黒い剣の柄を握る。

 かちり、と金属の感触が自分の手を伝わって、潤子は唐突に理解した。


「逃げて!」


 剣が、この場に居る人間全てを皆殺しにしようとしている。


 嫌だと抵抗しても、潤子はゆらりとその場に立ち上がった。

 さすがに不審に思ったのか、千里と黒髪の男の手前に鎧姿で剣や槍を持った人々が現れる。  

 歯の根の合わないほど潤子の体は震えているというのに、左腕はゆっくりと黒い刀身を抜き放つ。


「いや……」


 鞘とは違い、鏡のように自分の顔を映す刀身に、本能的に潤子は恐怖を覚える。

 しかし、潤子の恐怖を楽しむかのように、剣は潤子の体を強制的に操って、剣を構えさせる。


「いやぁああああああっ!」



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