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乙女は歌う  作者: ふとん
31/41

乗って

 いくつかの折衝を経て商隊と別れたあと、ガルカンダはディナンとジェニに街で簡単に食事をとらせて自分たちの定宿にジェニたちを招いた。大きくもなく小さくもない宿には山賊を捕まえたにしては少ない七人だけが残っていた。

 おざなりに名前だけ紹介したあと、不思議そうな顔のジェニにガルカンダは最後に答えた。


「他の奴らは山賊を警邏に引き渡してすぐに発ったんだ」


 何頭かいたはずの馬も先行した彼らが連れて行ったという。だからガルカンダたちが連れているのは幌馬車で、がたがたと揺れるものの頑丈そうなそれは二頭立てで庶民が個人的に持つには大きく立派な馬車だと思われた。 


 宿にそのまま一泊し、日の昇る前に起き出して荷物を馬車に詰め込むと早朝ガルカンダの後続は連れだって街を出発した。

 男たちは鎧を馬車に一切合財詰め込んで剣だけ佩いた軽装だ。ガルカンダも例にもれず、意外にも仕立ての良さそうなシャツとズボンに頑丈そうなブーツを身に着けていた。そうして黙っていれば休暇中の騎士にも見えそうだ。それは他の七人の同行者にも言えて、傭兵という肩書きにしては大人しい、普通の兵士に見えた。


「ジェニ、疲れたら馬車に乗っていいよ」


 七人の中でもひときわ強面で目には物々しい眼帯をかけた男が、子供が見れば泣きだしそうな風貌に似合わず穏やかにジェニに声をかけてくる。彼はセオンといって、ガルカンダの副官だという。

 セオンはジェニを年端もいかない子供だと知ってか、歩きながら腰を折るようにして馬車を指す。

 馬車には御者台に一人乗っている以外は荷物しか乗せられていない。他の同行者たちはゆっくりと進む馬車の周りを取り囲むようにして各々歩いている。しかし、ジェニが何か答える前に、


「歩け」


 後ろをのっそりと歩いていたディナンがぼそりと口を挟んだ。

 セオンとジェニが振り返ると、ディナンはすでに言葉を尽くしたというように視線を外す。

「ディナン…」とセオンが呆れたようにディナンを見遣った。


「いくら弟子だと言っても厳し過ぎないか。まだ子供だろう?」


 セオンの諭すような言葉に今度はディナンが呆れたように溜息をつく。


「俺はこいつの親じゃない。師匠だ」


「それでも保護する立場だろう」


 セオンは容貌と違って思慮深い性格のようだ。ジェニがセオンを見上げると彼は口の端を柔らかにあげるようにして安心させるように微笑んでくれる。だが、


「甘やかしたところで何の役にも立たない」


 吐き捨てるように言ったディナンの言葉がすんなりとジェニの耳に入ってくる。


「……わたし、歩く」


 ディナンは師というには厳しく気遣いも優しさの欠片も持ち合わせていないが、だからといってジェニが誰かに甘えていては何の役にも立たない。いつも誰かに助けを乞うようでは生きてはいけない。


「ごめんなさい、セオン」


 舌足らずなジェニの返答にセオンは少し驚いたような顔をしたが「いいや」と首を振る。


「私の考えが甘かったようだ。邪魔をして悪かったね、ジェニ」


 ジェニの言葉が拙いことをすぐに分かったのか、一つ一つの単語を区切って話してくれるセオンは、やはり優しい人であるらしい。



 しばらく広い畑を臨む街道を歩き、山岳地帯に差し掛かったところでガルカンダが馬車を停めて休憩を呼び掛けた。

 その頃にはジェニの足は棒のようになっていたが、他の男たちは休む間もなく野営の準備をし始める。

 ディナンはそれには混ざらず、少しだけ山を見回したあとジェニに慣れた手つきでナイフを投げ渡した。いつも渡されるナイフは一本だが、今日は二本ある。

 受け取ったジェニはディナンを見返すが、彼はいつものようにジェニに腰にある剣を早く渡せと手を差し出してくる。


「……なぜ二本?」


 尋ねながらジェニが剣帯から剣を外すと剣はがたがたと暴れ出したが、ディナンはそっけなく剣をジェニから取り上げる。


「今日は人数が多いだろう。五匹は捕まえろ」


 ディナンに二言はない。

 ジェニは渋々いつもの狩りに出かけることになった。




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