爪切り
パチン パチン
パチン パチン
部屋の中に、爪を切る音だけがこだまする。
(はやく、終らないかな……)
光は心の中で願った。
そんな彼女の前には、光の手の爪を切る健一の姿があった。
何故健一が光の爪を切っているかというと、それは約10分前のこと。
健一の家に遊びに来ていた光。
最初のうちは普通に、話したり勉強をしていたのだがそのとき、健一があることに気づいたのだ。
『お前、爪伸びてる』
光の手を見て、健一は怪訝そうに言った。
光は『あ、ホントだ』とちらっと見ただけで、気にせず勉強を続けた。が、見つけた健一のほうは立ち上がり、机の引き出しをガサガサと漁りだした。
そして、目的のものが見つかったのか、何かを持って光の横に座った。
『手』
『手?』
光は?を浮かべ首をかしげた。
それに腹を立てたのか、健一は『グイッ』っと光の右手首を掴んで引き寄せた。
『な…なに!?』
『爪』
『爪?』
『俺が切ってやる』
『い…いいって!!』
驚く光。
しかし、健一は気にせずに光の爪を切りはじめたのだった。
「…まだ……?」
「後2本」
異様に丁寧な健一は、切っていくたびに鑢で丁寧に砥いでいく。
そのため、普通に切るだけなら5分足らずで終わりそうな作業も、10分以上経っていた。
(いちいち細かいっての……あっ…)
いやそうな表情で健一を見ている光だったが、よくよく考えれば健一より高い位置に、自分の顔があることに気づいた。
(こいつが今、私のほう見たら上目遣いになるんだよね…)
そんなことを考え、光は『じぃ』っと健一を見た。
と、その時健一が顔を上げた。
「ぅあっ!!」
驚きのあまり、素っ頓狂な声を出す光。
そんな光を不思議そうな顔で健一は見た。
「何驚いてんだよ」
「い…いや、別にっ!!」
慌てる光を見て、健一は『フッ』っと笑った。
その表情をみて、光の体温は一気に急上昇した。
(上目遣い&その笑顔は反則でしょ!!)
健一が聞いていたら『何が反則なんだよ』とでも言いそうな光の心のツッコミ。
しかし実際に健一の耳には届いていないので、彼は不思議そうに首をかしげていた。
「何、顔赤くしてんだよ。気色悪ぃ…」
そういって健一は光の手を離し、爪切りを引き出しの中に片付けた。
「べ…別に赤くなんかしてない!!」
引き出しに爪切りを片付ける、健一の背中に向かって光は怒鳴るように言った。
とそのとき、くるりと顔を光に向けた健一と、視線がかち合った。
「十分赤ぇよ。タコ」
健一は口元に笑みを浮かべながらいった。
「ほっといて……」
そんな彼の表情を見て、光は俯いて顔をそらした。
そして…
(可愛すぎるのよ……馬鹿…)
と、心の中で呟いた。
−完−