エトナ改級軽巡
某日・タラント軍港
『うむ、典型的な対空艦であるな!』
港に停泊している艦を見て、百目鬼大佐は子供のように笑った
『しかし、あなたが海軍艦艇に興味があるとは思いませんでしたな』
これは玖部大佐の言だ、大使館の駐在武官の長である二人が連れ添うことは珍しい
『違うなぁ、あんな化け物と戦えるってのが興味深いのさ。そこでさ、こいつを改造したいんだが、無理かな?』
『・・・改造の具合によるんじゃないんですか?』
掛かる手間と時間、この艦はペアであるプリニーを失っているので、編成上の鬼子になっている関係上もあり、やりやすかろうが
『艦はあんまりいじらない、砲内筒を取り外すだけだからな』
『ははは、ご冗談を、そんなことをしたらライフリングがなくなって正確な砲撃が出来なくなってしまいます』
ありえないと玖部は肩をすくめたが、百目鬼は笑わなかった
『海軍は先の遭遇で二回ほど近接戦闘を強いられたと記憶しているが?』
『ええ、まぁそうですが』
一度目は核砲弾を使用する羽目になり、二度目はムッソリーニを囮に皆でタコ殴った
『こいつに有翼被帽撤甲砲弾(APSFDS)を使わせるんですよ、敵との距離は六千から四千の間合いを想定してね』
『たしか、新型の戦車砲弾として開発されていたものか?』
こちらの戦車の備砲が90ミリ砲なのに対して、英仏独がそれ以上の口径を搭載した戦車を主として装備しはじめている事への小細工
『空気抵抗を減らし、とてつもない高初速をもって装甲の概念すら超越したそれです』
ただ、回転はその威力発揮の阻害となる。だからライフリングは撤去しなければならない
『命中精度もその程度の距離であれば無意味です、撃ったその時には既に命中といった形になりますから』
最初の照準さえ正確に出来るならば考えなくていい
『しかし、かの砲弾は爆発したりするものではないと聞きますが?』
それではただ刺すだけになってしまう。爆発させて傷口を広げなければ
『玖部大佐は注射は大丈夫な方ですか?』
『ん?刺すだけだからな』
百目鬼は笑う
『それが十本なら?それが例えば百本ならば?』
『・・・分225発だ、片舷の3in砲も加えるなら300発、なるほどな』
それなら、意味があるかもしれない
『ああそうか、例の陶器装甲を貼るのも、内筒を外すことでの重量軽減と相殺できるわけか』
うまく出来ている
『あとはやるかどうか、です』
百目鬼はイタズラっぽく笑う、まったくこの男は
その、日本大使館側からという馬鹿げた提案に、伊海軍当局側も困惑した。彼らにも彼らのプランがあったからだ
新式の152ミリ53口径連装砲への換装計画である
純粋な砲戦力の強化、実にオーソドックスであり、伊海軍当局の思考はまっとうなものである。単艦での運用が必要とされるなら、改装を行うならば、なんにしても現状より強くあらねばならぬ、その意志の具現化である
いや、本来であればこの砲こそがエトナ級には搭載されるはずだった。だが、なされなかった。出来なかったのだ。
この砲は意欲的なもので、分15発の発射速度はこの口径で世界最速(史実ウースターより三発早い)のものだったのだが、あまりにも反動が強く、対空にも遠距離射撃にも不向きであったからだ
だけれども、今現在イタリアが戦っている相手は対空だの遠距離砲戦だのに上品に付き合う必要は無い。それは戦艦に任せれば良い・・・いや、実際の所戦艦以下の砲艦が価値を低下させている現状ではかなり問題であった。そして、暴発的な発射能力と砲弾本来の徹甲してのちの爆発は当局にとって魅力だった。
そしてそれを決定すべき海軍上層部は悩んだ挙げ句、更に高位決定機関へと問題を棚上げした
ドゥーチェ・ヴェニト・ムッソリーニ本人に
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