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第78話 二次元世界の囚われ人と、お残しを許さない神殺し

 ピコ、ピコ、ピコ。


 無機質な8ビットの電子音が、絶対的な絶望のカウントダウンのように響く。

 画面外の「プレイヤー(神)」が操作する巨大な白い矢印カーソルが、ゆっくりと、しかし確実に【モモの軍門に下る】という選択肢へと近づいていく。


「(やめて! 私の誇りを、そんな安っぽい選択肢で勝手に決めないでェェ!)」


 ジュリアは心の中で絶叫した。だが、二次元のドット絵に変換された身体は、プログラムされた敗北のモーションに従い、屈辱的に膝を折ろうとしていた。

 モモ・ピーチが、テキストウィンドウの中で勝ち誇った笑みを浮かべる。


▼寵愛のヒロイン・モモ

「これで終わりよ。さあ、私を引き立てる最高のモブとして生きなさい」


 矢印カーソルが選択肢に触れる。決定のボタンが押されようとした――まさにその刹那。


 **ボリッ、バキバキバキッ!!**


 突如、ペラペラの二次元空間に、およそ電子音とはかけ離れた、生々しく暴力的な咀嚼音が鳴り響いた。


『……え? なにこの音。バグ?』


 画面外のプレイヤーが戸惑う声が響く中、ジュリアは信じられないものを見た。

 二次元の立ち絵のまま固定されていたはずのライラが、無理やり枠を押し広げるようにして、立体(3D)の腕をテキストウィンドウの外へと突き出していたのだ。


「……冷めたポップコーンなんて、美味しくないのよ」


 ライラの瞳に、極悪な捕食者のハイライトが戻る。

 彼女は、自分を縛り付けていたテキストウィンドウの枠を両手でガシッと掴むと、そのまま大口を開けた。


「いただきまーす!!」


 **ガブゥゥゥゥッ!!**


 ライラの強靭な顎が、二次元のテキストウィンドウを、文字ごと噛み砕いた。

 パリンッ!とガラスが割れるような音と共に、画面にノイズが走る。


▼寵愛のヒ□■モ※

「なっ!? あ、あんた何して……ギャアアアア!?」


「んぐ、もぐもぐ……。ペラペラで味がない。紙切れみたいね」

 ライラはテキストウィンドウを飲み込むと、今度は頭上に浮かんでいた巨大な【白い矢印カーソル】を鷲掴みにした。


『は!? ちょ、カーソルが動かない!? コントローラー壊れた!? ていうかこのキャラ、画面突き破ってきてるんだけど!? ウイルス!?』

 画面外のプレイヤーが、本気のパニックを起こして絶叫する。


「お残しは許さないわよ。このふざけた世界ごと、私が全部食べてあげる!」


 バキィッ!

 ライラがカーソルをへし折り、そのまま咀嚼して飲み込んだ。

 選択肢を決定する存在カーソルが物理的に消滅したことで、ゲームの進行フラグが完全にへし折られた。


【システムエラー:致命的な論理矛盾(カロリー超過)が発生しました】

【強制終了します――】


 パァァァァァンッ!!

 ペラペラの二次元世界が、内側からの圧倒的な質量と食欲に耐えきれず、粉々に砕け散った。



 世界が、鮮やかな色彩と立体を取り戻す。

 轟音を立ててエンジンが唸り、超機動接客要塞オモテナシオンが三次元の空に完全復活を遂げた。


「嘘よ……! 私のシナリオが……ゲームの世界が食べられた……!?」

 絶対寵愛神兵トゥルーエンドのコクピットで、モモが発狂したように頭を抱える。


「よくも……よくもわたくしに、あんな惨めな敗北ポーズを強制させましたわね!」

 復活したロザリアが、コクピット内で怒髪天を突き、ドレスを破らんばかりの広背筋をパンプアップさせる。

「あの屈辱……筋肉の重みで百倍にして返して差し上げますわァァ!」


「お待たせいたしました、ジュリア様」

 通信機越しに、オトモの冷徹な声が響く。

「幻影の時間は終わりです。これより、現実リアルのお会計を始めましょう。……強制取り立てモード、起動」


 オモテナシオンの胸部ハッチが展開し、内部から巨大なケーブルが射出された。それはトゥルーエンドの装甲に突き刺さり、モモが生命力を搾取していた生体バッテリー(ヘリオス王子たち)の接続プラグを、物理的に引っこ抜いた。


「あっ! 私の魔力タンクが!」

「他人の力に頼り切っただけのスッカラカンな機体で、万事屋に勝てると思うなよ!」


 厨房のキッドが、超高圧の蒸気バルブを開放する。

「食らいな! これが現実の旨味だ!!」

 オモテナシオンの排気口から、極濃豚骨スープの熱気を帯びた高熱のスチームが噴出し、トゥルーエンドの視界を完全に奪う。


「ヒロインは……私のはずなのにィィ!」

 モモがヤケクソで全兵装を放とうとするが、魔力供給を絶たれた機体はただの巨大なガラクタと化していた。


「さあ、ジュリア! あんたのその鬱憤、全部ぶちかましなさい!」

 ライラが隣の席から、ニヤリと笑ってゴーサインを出す。


「言われなくてもやってやるわよォォォ!!」

 ジュリアは操縦桿を力いっぱい握り締め、オモテナシオンの巨大な黄金の拳を振りかぶった。

 白磁の隊長の執念と、万事屋の極上のおもてなしパワーが一つに融合する。


「万事屋流・極上お会計パンチィィィ!!」


 ズドォォォォォォォォンッ!!!!


 黄金の拳が、絶対寵愛神兵の禍々しいハート型コアを真正面から粉砕した。

 ヒロインの妄想で作られた機体が、圧倒的な現実の質量を前に木端微塵に砕け散る。


「私の……トゥルーエンドがぁぁぁ……!」

 モモの悲鳴と共に、巨大な爆発が帝都の上空を真紅に染め上げた。



 数日後。

 帝都の空は、何事もなかったかのように青く晴れ渡っていた。

 墜落したトゥルーエンドから救出されたヘリオス王子たちは、激しい魔力枯渇により一生ベッドから起き上がれない体となったが、命だけは取り留めた。モモ・ピーチは全ての力を失い、国家反逆罪で地下牢へと送られた。


 そして、帝都外縁の荒野。

 ジュリアは、部下のザックス、ニコ、ミレイと共に、土煙を上げて爆走していく真紅の巨大要塞――参号機スカイ・オモテナシの背中を、サーベルを構えたまま見送っていた。


「逃がさないわよ……! 絶対に、地の果てまで追いかけてやるんだからァァ!」


 ジュリアの叫びに、参号機の窓からライラが身を乗り出して大きく手を振り返した。


「はははっ! 捕まえられるもんなら捕まえてみなさいよ、ポンコツ隊長!」

 ライラは片手に巨大な骨付き肉を持ち、幸せそうにかじりつく。


「やれやれ。常連客というのは、時にしつこいものですね」

 オトモがハンドルを握りながら、涼しい顔で紅茶を啜る。

「ですが、逃亡生活も悪くありません。世界にはまだ、私たちが手を加えていない『凝り固まった客』がたくさんいますからね」


「おうよ! どこへ行こうが、俺の料理で全員の胃袋を掴んでやるぜ!」

 キッドが厨房で包丁を鳴らす。


「フフフ、わたくしの筋肉と商才で、いつか必ず帝国を買い取って差し上げますわ!」

 ロザリアがジャージ姿のまま、鉄扇を開いて高笑いする。


「新しいパーツ、いっぱい拾ったわ。次は宇宙まで飛べるように改造するから」

 ミルカがゴーグルを光らせて不敵に笑う。


「ボクも、もっと美味しいもの探すナビゲートするよ!」

 ドラが太い尻尾を揺らしながら笑顔を見せた。


「さあ、次はどこへ行こうか!」

 ライラが空高く拳を突き上げる。


「美味しい匂いがする方へ、全速力で進めェェェ!!」


 ブオオオオオオオオオンッ!!!


 亡国の王女と最強執事、そして規格外の仲間たちを乗せたボロ屋台――いや、超機動接客要塞は、極彩色のネオンを瞬かせながら、どこまでも続く青空の彼方へと飛んでいく。

 彼らの「過剰なおもてなし」の旅は、まだ始まったばかりだ。


■ 最終G-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ(超機動接客要塞)

【総合評価】 ★SSSSS(計測不能)

【現在地】 次なる美味しい食材トラブルを求めて世界を爆走中


【従業員最終ステータス】

店長ライラ:【永遠の腹ペコ王女】二次元のシナリオすら食い破る最強の胃袋。

執事オトモ:【完璧な悪徳執事】どんな理不尽な客も極上のツボ押しで黙らせる。

料理人キッド:【魂のシェフ】泥臭い命の味で、神すらも唸らせる。

整備士ミルカ:【狂気のエンジニア】屋台をロボットに変形させる真の天才。

・スポンサー(ロザリア):【物理ゴリラ令嬢】筋肉と商魂で運命を切り開く。

・ナビゲーター(ドラ):【大地の竜人】重さを誇りに変え、空を翔ける。


【営業状況】

本日の営業はこれにて終了です。

またのご来店を、万事屋一同、心よりお待ち申し上げております!

―― 完結 ――

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