第73話 殲滅砲火の炙り牛丼と、泥犬の宣戦布告
帝都外縁の特別防衛基地に、絶望的な駆動音が鳴り響いた。
モクモクと黒煙を上げる数十台の最新鋭重戦車が、参号機スカイ・オモテナシを半円状に包囲し、その太い砲身を一斉に突きつけている。
「基地内に謎の極彩色ネオン施設。腑抜けになった精鋭部隊。そして、千人分の高級食材の不正発注。ジュリア隊長、これは横領および国家反逆罪に値するな」
冷酷な目をした特別監査局の査察官が、ジュリアを見下ろした。
「ち、違います!これは……!」
「言い訳は聞かん。全砲門開け。このゴミ共を、チリ一つ残さず完全焼却しろ」
冷徹な処刑宣告。ジュリアとアトラスは「終わった……」と死を覚悟し、ぎゅっと目を閉じた。
だが、その絶望の静寂を破ったのは、狂喜に満ちた叫び声だった。
「おいオトモ!見ろよあの極上の火力を!」
参号機の厨房から、キッドが出刃包丁を片手に身を乗り出していた。
「千人分の肉を一気に炙るには、うちのコンロじゃ火力が足りねぇと思ってたんだ!最高のタイミングだぜ!」
「……撃てェッ!」
査察官の号令と共に、数十台の重戦車から凄まじい爆炎と熱線が放たれる。ジュリアが悲鳴を上げた。
しかし、砲弾が参号機に直撃する寸前。
「……作動。源泉掛け流し・超高圧ウォーターシールド」
オトモが静かにコンソールを叩いた。
ドバアアアアッ!!
参号機の周囲に張り巡らされた配管から、超高圧の沸騰した温泉がドーム状に噴出した。戦車砲の物理的な衝撃を分厚い水壁が強引にそらし、熱線をすさまじい水蒸気爆発と共に相殺していく。
「なっ!?戦車の砲撃を、ただの湯で防いだと!?」
査察官が驚愕の声を上げる。
「当館自慢の打たせ湯の応用です。……ですが、源泉の無駄遣いですね。早急に調理の熱源としてリサイクルしましょう」
「おうよ!極上の火力、いただくわ!」
オトモの言葉に応え、ミルカがアトラスのトラックの荷台を展開させた。彼女の手から放たれた錬金魔術の光が、剥き出しになった荷台の金属を瞬時に再構築し、一滴の肉汁も逃がさない完璧な密閉性を持った超巨大鉄板を組み上げる。
「最高だぜェェ!」
キッドがその巨大鉄板に、千人分の霜降り牛肉を豪快にぶちまけた。
オトモが受け流し、ミルカが鉄板の下へと誘導した殲滅砲火の熱エネルギーが、超巨大なガスコンロとして機能する。
ジュワァァァァッ!
一瞬にして肉の表面がカリッと焼け、極上の直火炙り牛丼が完成した。
暴力的なまでに香ばしい特製ダレと肉の匂いが、戦場を完全に支配する。その匂いは、装甲越しに戦車の中へと忍び込み、引き金を引いていた帝国兵たちの集中力を容赦なく削り取っていった。
「なんだ……この暴力的な匂いは……!思考が……胃袋に持っていかれる……!」
過酷な労働環境と味のしない固形食に耐えてきた兵士たちの理性が、極限の空腹感によってショートする。次々とハッチが開き、戦意を喪失した兵士たちがフラフラと匂いの元へ歩み寄ろうとする。
「き、貴様ら!持ち場を離れるな!撃て!撃たんか!」
激怒する査察官のもとへ、ライラが満面の笑みで歩み寄り、レンゲに乗せた熱々の牛丼をその口に無理やりねじ込んだ。
「んぐっ……!?こ、こんな脂と糖質の塊……美味すぎるゥゥ!」
査察官は目から大粒の涙を流し、その場に崩れ落ちて丼を貪り始めた。敵の精鋭部隊は戦車を捨て、基地の広場は完全に機能停止した。
すっかり大人しくなり、口の周りをタレで汚した査察官に、オトモが静かに銀のトレイを差し出した。
「では、お支払いをお願いします。アトラス様の手配した食材費と、当店自慢のケータリング代、そして……大砲による迷惑料とガス代です」
オトモは査察官の懐からブラックカードを抜き取り、強制的に決済を完了させる。
「さらに、本日はポイント還元キャンペーン中です」
オトモは機能停止した戦車群に近づくと、その分厚いレアメタル装甲をベキベキと素手で引っぺがした。そして、それをアトラスのボロトラックに魔力で溶接していく。
数秒後、アトラスのトラックは七色に輝き、大砲の直撃すら弾き返す謎の無敵装甲車に変貌していた。
「俺はただの運送屋なのに、こんな目立つ車でどこへ向かえばいいんだァァ!」
アトラスが頭を抱えて絶叫する。
「ごちそうさまー!次行くねー!」
すべてを巻き上げ、ライラとオトモが参号機を発進させた。極彩色ネオンを瞬かせながら、空高く舞い上がっていく。
その瞬間、我に返ったジュリアがサーベルを抜き、土煙を上げて猛ダッシュを開始した。
「逃がさないわよォォォ!」
彼女の目には、もはや恩人への盲目な憧れはない。あるのは、帝国軍人としての矜持と、絶対に彼らの性根を叩き直してやるという強烈な執念だけだった。
「地の果てまで追いかけて、絶対に私が逮捕してやるんだからァァ!!」
「た、隊長ォ!空飛んでる相手に走って追いつけるわけないっすよ!」
「あああ!腰が!待ってください隊長!」
ミレイ、ニコ、ザックスの三人が泣きながらその後を追う。
遠ざかる参号機の窓から、オトモが地上のドタバタ劇を見下ろして微笑んだ。
「おやおや。素晴らしい背筋です。立派な追跡者が誕生しましたね」
夕日に向かって、泥水すすって出世した白磁の隊長の声がこだまする。
ライラとジュリアの永遠の追跡劇が、今ここに高らかに幕を開けたのだった。
■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】 万事屋オモテナシ(参号機スカイ・オモテナシ)
【現在地】 帝都外縁から空の彼方へ絶賛逃亡中
【従業員ステータス】
・オトモ:【怪盗執事】軍のレアメタル装甲を剥ぎ取り、査察官のカードで全額決済を済ませる。
・ライラ:【直火炙りの覇者】戦車の火力で焼いた牛丼を完食し、満面の笑みで逃亡。
・キッドとミルカ:【調理コンビ】砲撃の熱を巨大鉄板に誘導し、千人分の肉を焼く神業。
【追跡者と被害者ステータス】
・ジュリア:【白磁の追跡者】恩人への幻想を捨て、地の果てまで追いかける永遠のライバルとして覚醒。
・第十三独立遊撃隊:【苦労人部隊】暴走する上司の背中を、悲鳴を上げながら追いかけ続けるハメに。
・アトラス:【無敵装甲の運送屋】レアメタルを強引に溶接され、七色に光る無敵のボロトラックに頭を抱える。
・帝国戦車部隊:【機能停止】過酷な労働環境の不満が爆発。牛丼の暴力的な旨味の前に戦意喪失。
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