第71話 白磁の隊長と、すっとぼけ大〇戸温泉
あの日、泥だらけの私を救ってくれた、奇妙な紫の屋台を見送ってから六十八日が過ぎた。
「――各員、傾注!」
帝都外縁の特別防衛基地。その作戦指令室に、私の声が凛と響き渡る。
ドブネズミと呼ばれていた私は、あの日教えてもらった「真っ直ぐな背筋」を決して曲げなかった。
アブラッシュ隊長の不正を皮切りに、帝国の腐敗を次々と物理的かつ合法的に摘発。結果、私は異例の特進を果たし、今や帝国特別監査局・第十三独立遊撃隊の『隊長』としてこの重要な基地を任されていた。
「本日の標的は、現在帝国全土を騒がせている極悪指名手配犯です」
私は黒板に、一枚の巨大な手配書を貼り付けた。
そこに描かれているのは、憂いを帯びた瞳で見つめる、絶世の美少女。透き通るような肌にまばゆい銀髪と気高いオーラを放つ悲劇の亡国ヒロインのような似顔絵だ。
「容疑は、S級国家反逆、軍事資産の破壊および重要物資の強奪、思想テロ、皇族への不敬および無許可のボッタクリ営業。……そもそも存在自体が違法です! 主犯は、亡国の王女ライラ。そして、悪逆非道な片眼鏡の執事」
私が指揮棒で手配書を叩くと、前に並んだ精鋭部下たちが一斉に頷いた。
帝国に見捨てられ、私が鍛え直した優秀な部下たち。
腰痛を気合で克服した歴戦の副隊長ザックス。
ダサくて分厚い眼鏡を公認させ、封印されし魔眼をフル稼働させる特務狙撃手ニコ。
そして、ガングロ肌のまま通信兵のトップに上り詰めたギャル兵士ミレイ。
「隊長。一つよろしいですか」
ザックスが、手配書の文字を指差した。
「この極悪犯罪組織の名前……『万事屋オモテナシ』となっていますが。これ、隊長がいつも恩人だと語っている方々との関連性は……?」
「私の恩人の店舗名は、『リラクゼーションサロン・オモテナシ』です!」
私はバンッ!と机を叩き、怒りに震える拳を握りしめた。
「許せません! 私の大切な恩人である店長とオトモさんの尊い名前を、こんな極悪人が勝手に騙るだなんて! この手で必ず逮捕し、恩人の名誉を守り抜きます!」
「そマ? 隊長、名前だけじゃなくて執事の特徴も完ペキ一致とか、まじ卍なんですけど……?」
ミレイが派手な爪で頬を掻きながら指摘するが、私は首を横に振った。
「馬鹿なことを言わないで、ミレイ。私の恩人の店長は、野生の獣のように骨付き肉を貪る、逞しくてホコリだらけで泥まみれ、苦労した若白髪のお方でした。この手配書のような、儚げで美しい王女様であるはずがありません!」
「(それ、恩人のこと相当ボロクソに言ってないか……?)」
ザックスがボソッと呟いたが、その時だった。
『緊急警報であります! 上空より、深淵の理を乱す未確認物体が落下してくるであります!』
レーダーを見ていたニコが悲鳴を上げた。
『城と船を悪魔合体させたような……万事?……万事屋オモテナシであります!』
「なんだって!? 総員、迎撃態勢――!」
私がサーベルを抜き放った瞬間。
ドッゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
基地の目の前の広場に、目を眩ませるほどの極彩色ネオン看板『万事屋オモテナシ』と、『ゆ』『大宴会』と書かれた巨大な赤提灯の群れが、隕石のごときスピードで墜落してきた。
メシャァァァァッ!!
凄まじい土煙が舞い上がり、雨の冷気を一瞬で吹き飛ばすほどの強烈な硫黄の匂いと、屋台の濃厚なソース、そして甘ったるいチョコの匂いが基地に充満する。
私たちは衝撃で吹き飛ばされながらも、なんとか体勢を立て直した。
もうもうと立ち込める土煙と湯気の中。
ド派手な『男湯』の暖簾をバサリとかき分けて、二人の人影が姿を現した。
「あー、腹減った。ねぇオトモ、ここどこ?」
「おや、帝国の軍事基地のようですね。……おや?」
燕尾服の上から『祭』と書かれた法被を羽織った、片眼鏡の執事。
そして、顔中をソースと青のりでギトギトにしながら、両手に巨大なイカ焼きとチョコバナナを握りしめている少女。
間違いない。六十八日ぶりの再会。私の大切な恩人だ。
「店長! オトモさん! お久しぶりです!」
私は歓喜の声を上げ、彼らに駆け寄ろうとした。
「ですが下がってください! 今、あなた達の尊い名前を騙る『王女ライラ』という極悪人が乗った物体が落ちてきたんです! 私が護ります!」
「…………えっ?」
背後にいたザックス、ニコ、ミレイの三人が、信じられないものを見るような顔で私と万事屋を交互に見比べた。
「マ!? 隊長、KSすぎ! どう見てもその人たちが乗ってきたっしょ! あの温泉から出てきたし!」
ミレイが叫ぶ。
「隊長殿! 我が『深淵を見通す魔眼』が捉えた真実を具申するのであります! あの執事の呪われし片眼鏡、手配書と完全に一致しているのであります! 隣でイカ焼きを貪る少女も……手配書の似顔絵が『美化二百パーセント』の虚飾だと仮定すれば、骨格はピタリと一致しているのであります!」
ニコが魔眼で分析し、冷酷な真実を突きつける。
私はハッとして、手配書の『儚げな王女』と、目の前で『イカ焼きとチョコバナナを貪る野生児』を交互に見つめた。
「えっ……王女……店長……? 悲劇のヒロイン……ソースまみれ……? えっ?」
脳の処理が追いつかない。
そんな私の前で、オトモは完璧な営業スマイルを浮かべ、片眼鏡をクイと押し上げた。
「……おや。ジュリアさん、立派な隊長になられましたね。ですが部下の方々、誤解です。私たちはただの流浪の温泉業者にすぎません。極悪犯罪者である王女ライラなどという人物は存じ上げません」
どう見てもリラクゼーションサロン、レストラン、トレーニングルームからゲームセンター、さらには源泉掛け流しの内湯と露天風呂まで完備していそうな超巨大エンタメ要塞を背にしながら、彼は涼しい顔で言い放った。
「むぐむぐ……うん、知らない。あたし、美味しいご飯とお祭りにしか興味ないし」
ライラ店長が、口の周りをギトギトにしながら便乗する。
「ほら見なさい! ご本人たちも違うと仰っているじゃないですか!」
私は胸を撫で下ろし、部下たちを叱りつけた。
「嘘つくなァァァッ!!」
ザックス、ニコ、ミレイの三人の完璧なハモリツッコミが、荒野に轟いた。
「乗ってきただろ! 温泉の暖簾から出てきただろ! 隊長も現実(目の前の大食い)から目を背けないでください!!」
「えっ? えっ? あれれ!?」
混乱する私をよそに、オトモは法被の懐から一枚のレシートを取り出した。
「ところでジュリアさん。六十八日経っても私が教えた背筋を完璧に維持していますね。ボーナスポイントです」
「あ、ありがとうございます……?」
「つきましては、基地の前を塞いでいただいた迷惑料として、当館の入浴料三〇〇〇Gを基地の人数分、請求させていただきますね(ニコッ)」
「なんで指名手配犯(?)のそっちがボッタクリ請求してくるのよぉぉぉッ!?」
私の魂からの絶叫が、ピーヒャラ鳴り響く祭囃子と共に、雨の基地に虚しくこだました。
■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】 万事屋オモテナシ(参号機スカイ・オモテナシ)
【現在地】 帝都外縁・特別防衛基地(墜落地点)
【従業員ステータス】
・オトモ:【番台の執事】
息を吐くように嘘をつき、法被姿で入浴料を請求。
・ライラ:【すっとぼけ野生児】
「王女? 知らない」と言いながらイカ焼きを完食。
【顧客ステータス】
・ジュリア:【ポンコツ隊長】
手配書と現実のギャップに脳がバグり、「あれれ!?」状態。
・第十三遊撃隊(ザックス達):【ツッコミ過労死寸前】
恩人に盲目な上司と、嘘つきな万事屋の板挟みで絶叫中。
・ミレイ:【通信兵】
「そマ?」「KS(頭弱い)」など、現代ギャル語を駆使する情報戦の要。
【施設状況】
・特別防衛基地広場:【半壊】
参号機の直撃により、物理的に大パニック。
・参号機スカイ・オモテナシ:【不時着・営業中】
極彩色ネオンと祭囃子を撒き散らす、空飛ぶ大〇戸温泉物語。
【次回予告】
指名手配犯とポンコツ隊長の、理不尽な追いかけっこが開幕!
「嘘をつかないでください! 貴女が王女なんでしょう!」
「違うもん! 私はただの腹ペコ店長だもん!」
基地を巻き込んだ大宴会の中、優秀な部下たちが温泉の餌食に!?
次回、第72話『エリート部隊のツッコミと、極楽の源泉掛け流し』。
お代はきっちり、基地の経費でいただきます!お待ちしております!
第七章、フルスロットルで開幕です!
第一章でメソメソしていた少女ジュリアが、見事な出世を果たして再登場!
……したはいいものの、恩人への思い込みが強すぎて見事な「ポンコツ隊長」と化してしまいました(笑)。
オトモがついた「苦労による若白髪です」という大嘘を、68日間ずっと真面目に信じ続けていたジュリア……彼女の真っ直ぐな背筋が、こんな形で裏目に出るとは。
そして、そんな上司を必死に現実に引き戻そうとする優秀な部下たち(ザックス、ニコ、ミレイ)。彼らのキレキレのツッコミと、オトモの相変わらずブレない「息を吐くようなボッタクリ」の応酬、いかがでしたでしょうか?
さて次回は、恩人に盲目な上司と、嘘つきな万事屋の板挟みになり、【ツッコミ過労死寸前】に陥った優秀な部下たち(ザックス、ニコ、ミレイ)が、ついに大〇戸温泉の「理不尽なおもてなし」の餌食となります!
せっかく気合で腰痛を克服したザックスや、キャラの濃いニコとミレイは、万事屋の圧倒的な宴会と温泉(物理)の渦を生き残れるのか!?
「ジュリアのポンコツっぷりが可愛い!」「部下たちのツッコミ最高!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【ブックマーク登録】と【★★★★★評価】をポチッと押して、彼らのドタバタ劇を応援していただけると嬉しいです!
オトモ「皆様からの高評価が、当館の源泉の温度をさらに高めます(ニコッ)」
次回も極上のサービスをご用意して、お待ちしております!




