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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第六章 天空の島々と、竜の住まう国 編
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第70話 天空のチートデイと、空飛ぶ健康ランド

  大理石の床で目を覚ました教皇ニンバス。

 視線の先に、穏やかな風を纏って微笑む妻、大精霊シルフの姿があった。

 長年の苦痛から解放された、本来の美しい姿。だが、今のニンバスはかつての軽やかで純白な教皇ではない。極濃ラーメンのカロリーを限界まで吸収し、はち切れんばかりの大胸筋と上腕二頭筋を誇る超絶マッチョと化していた。


「ごめんよ、シルフ……!私の薄っぺらな信仰では、君の重荷を背負えなかった!だが今は違う!見てくれ、この大胸筋を!今なら君のすべてを、この重苦しい愛で受け止められる!!」


 汗と脂にまみれ、マッスルポーズで号泣するニンバス。

 シルフは少し戸惑いながらも、その汗ばんだ極太の腕にそっと触れ、微笑んだ。


「ええ……すごく熱くて、重たいわ。でも……なんだか安心する。もう、無理に空っぽにならなくていいのね」


 純白の美学がへし折られ、汗臭くも温かい重力が、空の国に新しい朝を告げていた。



 要塞の最下層。

 今まで重りとして光の届かない場所で強制労働させられていた飛べない鳥人や竜人たちが、眩しい甲板へと解放された。

 彼らを待っていたのは、キッドとライラが用意した巨大な鍋。極濃豚骨スープをベースに仕立てた熱々のカロリーシチューと、山盛りの骨付き肉だ。


「さぁ食え!脂と肉で、空っぽの胃袋にガソリンをブチ込め!」

 キッドが巨大なお玉でシチューを注ぎながら、ニヤリと笑う。

「だがタダじゃねぇぞ!俺たちは商売人だ。お代はアンタたちの重い感謝でキッチリ払ってもらうからな!」


 その言葉に頷き、民たちが恐る恐るシチューを口に運ぶ。

 次の瞬間だった。


「ガ、ガァァァァァッ!?」


 一口食べた鳥人の表情が劇的に変わり、青白かった肌がドス黒い脂で艶めき始めた。枯渇していた細胞が暴力的なまでの旨味を吸収し、ヒョロヒョロだった全身の筋肉が風船のようにパンプアップしていく。

 わずか一グラムしかなかった彼らの体重が、カロリーの奔流によって瞬時に一トンへと爆増する。


「ウオォォォォ!アブラ、ウメェェェェ!!」


 理性をかなぐり捨てた野太い咆哮が、純白の甲板に響き渡る。あちこちで服が弾け飛び、筋肉の鎧を纏った民たちが一歩踏み出した瞬間――。


 絶対の強度を誇っていた大理石の床が、絹ごし豆腐のようにズブズブと沈み込んだ。


「シルフ、君も一口どうだ?」

 ニンバスに勧められ、シルフも恐る恐る黄金色のスープに口をつけた。

 純白の高潔な大精霊の瞳が、カッと見開かれる。


「……私の清らかな風が、ギトギトの重低音を響かせているわ……!でも、悪くない。もっと、もっとお肉をちょうだい!」


 純白の大精霊すらもジャンクフードの虜に堕ちた。

 だが、その時である。シチューを貪り食う一トン超えのマッチョが数百人に膨れ上がった結果、空の要塞に致命的なエラーが起きた。


『警告。積載重量、規定値の八万パーセントを突破。浮力維持、不可能です』


 ズドドドドォォォォンッ!!


「ヤバい!民が急に重くなりすぎて国が落ちるわよ!!」

 ミルカの絶叫とともに、空の国が物理的に高度を落とし始めた。パニックに陥る天使たち。

 だが、教皇ニンバスは分厚い胸板を張り、民たちに向かって大音声で叫んだ。


「慌てるな!己の筋肉を信じろ!!全員、腰を落とせェェ!!」

「「「イエッサー!!」」」


 数百人の超絶マッチョたちが一斉にスクワットの姿勢をとる。

「フンヌゥゥゥゥッ!!」


 全員の筋肉のバネが生み出す凄まじい上向きのベクトルと、背脂の旨味を知って高カロリーな質量へと変貌したシルフの重低音の風が合わさる。

 ドスドスドスドスッと、脂っこい風圧と大胸筋の力によって、墜落しかけた国土は空中に無理やり固定された。脳筋すぎる国体維持の完成である。


「美しくありませんわ!!」


 その地獄絵図のような宴のど真ん中に、ロザリアの鉄扇がピシャリと響いた。

「筋肉で国を支えるのは結構ですが、見せ方にマナーというものが欠けていますのよ!」


 物理ゴリラ令嬢ことロザリアによる、突発的な重力特化・美のポージング指導が幕を開ける。


「その広背筋、大陸プレート背負ってますの!?」

「引力、貴方がルールですわーッ!!」

「イエス、お嬢様ァァァ!!」


 重力や質量を褒め称えるお嬢様翻訳のボディビル語録が乱れ飛び、さらなるカオスが巻き起こる中――。


「おや、ずいぶんと汗をかかれましたね。冷たいおしぼりです」

「脂の強い食事には、こちらの黒烏龍茶が合いますよ。胃腸を労わってください」


 オトモは乱れ飛ぶ衣服と筋肉の壁を優雅にすり抜け、完璧な所作で銀のトレイを掲げ、ウェイター業務をこなしていた。


「おい執事!こっちの配管の歪み、直ってねぇぞ!」

 キッドの怒声が飛べば、オトモは涼しい顔でおしぼりを渡しながら、片手で要塞の壁面に容赦のない正拳突きを叩き込む。


 バキゴキィッ!


「失礼、執事流・建造物整体です。……さて、黒烏龍茶が一杯五千G、建造物整体が三万G、深夜のカロリー割増税が十パーセントになります。お支払いは、その重い感謝でよろしいですね?」


 静謐なる狂気。地獄の宴と国難のど真ん中で平然とボッタクリの請求書を突きつけるオトモの姿は、間違いなく一番恐ろしかった。



 肉を焼く煙と歓声が渦巻く宴の片隅で。

 ドラが、万事屋の面々に真っ直ぐな瞳を向けていた。


「本当は……ずっと怖かった。自分が重くて、飛べないことが」

 ドラはぽつりと、これまで隠していた弱さをこぼす。

「でも、逃げない。ボクはこの空と地上をつなぐ、道しるべとして――」


「ん?飛べないなら歩けばいいじゃん」


 感動的な決意表明のド真ん中。

 両手に自分の顔よりデカい骨付き肉を持ち、口の周りをギトギトにしたライラが、空気を一切読まずに割り込んできた。


「歩いた方が、落っこちたお肉も拾いやすいしね!むぐむぐ」

「えっ……あ、うん。そうだね、ライラちゃん……」


 あまりにも俗っぽく、しかし真理を突いた主役の言葉に、ドラは毒気を抜かれたように吹き出し、そして心底晴れやかな笑顔を見せた。



 その感動の裏側では、純白の要塞が物理的に解体され、弐号機と強引に溶接されていた。


「ハハハハハ!この無駄に豪華な大浴場、ひっぺがしてくっつけるわよ!!」

 ミルカが魔導バーナーで火花を散らす。情報過多な装甲とむき出しのパイプ、優雅な温泉施設を一つにまとめ上げた、空飛ぶ大浴場施設の完成だ。


 大精霊シルフがふわりと舞い降り、新たな船体へギトギトの重低音の風を吹きかける。

「私の風の加護を授けましょう。ただし、この船が空を往くには、あなたたちのおもてなしで得た感謝の重みが必要です」


「感謝の重みなら、もう十分にもらってるぜ」


 キッドが指差した先。

 カロリーを満喫し、ロザリアの指導で大陸プレート級の広背筋を手に入れた民たち、そして教皇が、万事屋に向かって一斉に土下座をしていた。


「ありがてぇぇぇ!!命の熱を、ありがてぇぇぇ!!」


 ズゥゥゥゥンッ!!


 大理石の床に蜘蛛の巣状のヒビが走り、彼らの全身から噴き出す熱い汗が瞬時に蒸発していく。極限まで高まった圧倒的な感謝の念が、局地的なブラックホールすら生み出しそうな凄まじい質量となって空間を完全に歪ませた。


 その圧倒的な重さがシルフの重厚な風と反発し、逆説的なまでの凄まじい浮力を生み出す。


「すごい!感謝の重みで物理法則が裏返ったわ!」

 ミルカが歓喜の声を上げる中、万事屋の新たな箱舟、参号機スカイ・オモテナシのエンジンが火を吹いた。


 だが、次の瞬間。


「おい!浮力が強すぎて止まらねぇ!このままじゃ大気圏突破しちまうぞ!」

 キッドが顔面蒼白で叫ぶ。あまりの感謝の念が強すぎた結果、船は恐ろしい速度で宇宙へ向かってすっ飛んでいこうとしていた。


 パニックになる船内で、ライラだけがドカッと特等席に座り、巨大な肉に噛み付く。


「いいじゃない、上等よ。……モタモタしてないで、次の美味しいお客様のところへ急ぎなさい。宇宙の果てでも行くわよ!」


 ライラの圧倒的な食欲と質量がアンカーの代わりとなり、暴走する船を無理やり上空への落下という形で安定させる。


「最後まで力技かよ!!」

 キッドの絶叫が青空に吸い込まれていく。


 空の支部、参号機スカイ・オモテナシ、そして地上。

 感動と物理法則を、強引かつ美しく食欲と脂と筋肉でねじ伏せた万事屋の、さらなるカオスな日常への扉が今、上へ向かって蹴り破られた。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・参号機スカイ・オモテナシ

【現在地】 感謝の浮力と店長の質量により、安定して上空へ落下中


【従業員ステータス】

・ライラ:【質量のアンカー】ブレない食欲でドラを肯定し、暴走する浮力を自身の腹の重さで強引に安定させる悪徳店長。

・オトモ:【強欲なる完璧執事】国難の最中に完璧な黒烏龍茶のサーブと、えげつない集金を完遂。

・ロザリア:【重力特化のポージング講師】引力、貴方がルールですわーッ!!

・ドラ:【天空の支部長】ライラの食欲にあっさりと救われ、道しるべとなる。


【施設状況】

・空の支部:【チートデイ開催中】一トン級のマッチョたちがスクワットで国土を支えつつ、局地的なブラックホールを生み出すマッスル・ドゲザを実施中。

・参号機スカイ・オモテナシ:【稼働開始】圧倒的な感謝の重力波を推進力に変え、未知の空域へ爆走する新たな箱舟が爆誕。

ついに第6章が完結いたしました!

感動的な展開をすべてぶち壊す、万事屋らしい圧倒的カロリーと物理法則無視のフィナーレとなりました。皆様の脳は焼けましたでしょうか?

新たに誕生した空飛ぶ健康ランド、参号機スカイ・オモテナシは、お客様の「感謝」とライラの「胃袋の引力」を動力として進みます。

次回からは、手に入れた拠点と地上を舞台にした、賑やかでカオスな日常ギャグ編がスタートします!

引き続き大暴れする万事屋を、ぜひ【ブックマーク登録】と【★★★★★評価】で応援よろしくお願いいたします!

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