第7話 織物の街と、密室繭事件(後編)
「……うぅ、道具がないのよぉ……あたしの愛を受け止めてくれる『硬くて太い棒』はどこなのぉ……?」
広場の中心で、巨大な蜘蛛の魔物アラクネが泣きじゃくっている。
その涙は、恐怖の魔王のそれではない。締め切り前にパソコンが壊れたクリエイターの悲哀そのものだった。
「泣かないでください、お嬢さん」
オトモが静かに歩み寄る。
アラクネが涙目のまま顔を上げた。
「なによぉ……人間? あんたもあたしの『お人形』になりたいの?」
「いいえ。私はただの執事。……そして、貴女に『運命の道具』をお届けに参りました」
オトモは恭しく一礼すると、背負っていた巨大な丸太――『検問所の遮断機』を地面に突き立てた。
「これは……?」
「帝国の検問所で長年、馬車の衝突に耐え抜いた『鉄木の丸太』です。これを……こうします」
シュババババッ!!
オトモの手が残像と化した。
手刀による超高速木材加工。木屑が花吹雪のように舞い散る。
わずか数秒後。
そこには、表面を極限まで滑らかに磨き上げられ、先端を適度な丸みに加工された『超極太・剛性編み棒』が完成していた。
「さあ、どうぞ。これなら貴女の剛腕でも折れません」
「……ホ、ホントに?」
アラクネが恐る恐る、その巨大な棒を手に取る。
グッ、と力を込める。
ミシッ……と木が鳴くが、折れない。しなりながらも、強靭な反発力で耐えている。
「あ……すごい……! 硬い! これならイケるわ!」
アラクネの表情が、輝くような笑顔(と狂気)に変わった。
「ありがとう! これよ、これが欲しかったのよぉぉッ!」
「お気に召して光栄です。……つきましては、お代を頂いても?」
「ええ、もちろんよ! あんた、何が欲しいの? あたしの愛?」
「いいえ。『最高のシーツ』になり得る素材を」
オトモが即答すると、アラクネは「あら、お安い御用ね」と笑い、自らの指先からシュルシュルと白銀の糸を吐き出した。
「持っていきなさい! 処女作にして最高傑作、『エンプレス・シルク(女帝の絹)』よ!」
手渡されたのは、月光を織り込んだかのような、スベスベでひんやりとした極上の布地だった。
アラクネが正気を取り戻したことで、街を覆っていた糸が解け、住民たちが解放された。
彼らは「死ぬかと思った……」「ポーズがキツかった……」と腰をさすりながらも、生還を喜んでいる。
だが、ライラにとっての本番はここからだ。
広場の隅に停めた屋台の前で、オトモが腕まくりをする。
「さて、店長。全ての素材が揃いました」
「長かったわ……! さあ、私の尻を救済なさい!」
オトモの目が、職人のそれに変わる。
「まずは『骨組み』です。……屋台の四隅にある、この無骨な『鉄柱』」
「うん、邪魔だし不気味よね」
「これを矯正します。――『執事流・金属整体』」
グググググッ……!
オトモが鉄柱の「ツボ」を押し、撫で上げる。
すると、飴細工のように鉄柱が、みるみるうちに優雅な曲線を描き始めた。
ただの棒ではない。先端が植物のツタのように装飾され、猫脚のようなフォルムを持つ『ロココ調・天蓋フレーム』へと生まれ変わる。
「嘘でしょ……指圧でデザイン変えたの!?」
「金属も、褒めて伸ばせば美しくなるものです。……次は『中身』です」
オトモは、コカトリスから手に入れた大量の『天雷のダウン(羽毛)』を取り出し、アラクネから貰った『エンプレス・シルク』で包み込んだ。
パンパンと空気を含ませ、形を整える。
「完成です。――『天空の寝心地・ロイヤルスイートベッド』」
ドンッ!
屋台の荷台に、その「玉座」が鎮座した。
外見は不気味な紫のカーテンに覆われた「移動監獄」のままだが、その内側には、王族ですら垂涎する最高級の天蓋付きベッドが広がっている。
その瞬間、風が吹いた。
天蓋のシルクがふわりと揺れ、隙間から差し込む月光がベッドを照らす。それは荒野の屋台とは思えぬ、まるで聖域のような神々しさだった。
「……ゴクリ」
ライラは靴を脱ぎ捨て、震える足でベッドに上がった。
そして、背中からダイブする。
バフッ……。
「――――ッ!!」
声が出ない。
柔らかいだけではない。コカトリスのダウンが適度な弾力で体を支え、シルクの肌触りが摩擦をゼロにする。
まるで、重力から解放されたかのような浮遊感。
「あぁぁぁ……尻が……尻が溶けるぅぅ……!」
ライラは幸福のあまり、白目を剥いてとろけた。
今までのゴツゴツした荷台の振動が嘘のようだ。鉄柱フレームがサスペンションの役割も果たし、屋台の揺れすらも心地よい「ゆりかご」のリズムに変えている。
「いかがですか、名探偵」
「……犯人は……オトモよ……」
「おや、何の罪で?」
「私を……ダメ人間にした罪で……。もう無理、このまま一生ここで暮らす……むにゃ……」
ライラはそのまま、数秒で夢の世界へと旅立った。
寝息を立てる主人の横で、オトモは満足げに片眼鏡の位置を直す。
「真実はいつも一つ。……『お客様の満足』こそが全てです」
オトモは運転席に戻り、静かに屋台を発進させた。
背後では、新しい編み棒を手に入れたアラクネが、満面の笑みで手を振っている。
「ありがとう執事さん! また困ったら来なさいよ! 特別に編んであげるからねぇーっ!」
その言葉は、いつか訪れるであろう再会の約束のように響いた。
こうして『オモテナシ・ゼロ号機』は、見た目は最悪、中身は最高の「走るスイートルーム」へと進化を遂げたのだった。
■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】
リラクゼーションサロン・オモテナシ
【総合評価】
★0.03 ⇒ ★0.04(微増!)
・新着口コミ(アラクネ):
「最高の棒をありがとう! また編んであげるわよぉ〜! ★5.0!」
・※注記:住民は全員“拘束疲れ”で寝落ち中のため投稿不可
【店舗設備】 オモテナシ・ゼロ号機(大幅進化)
・外装:不気味な紫カーテン(日除け)
・内装:王族級『天蓋付きロイヤルスイートベッド』(居住性MAX) ←New!
・骨組み:ロココ調・天蓋フレーム(鉄柱を指圧で矯正)
・寝具:天雷のダウン × エンプレス・シルク(最高級)
・動力:ありがとうエネルギー(アラクネの感謝で満タン)
【従業員】
・店長:尻の幸福度が限界突破。ダメ人間化が進行中
・執事:運転手 兼 家具職人 兼 金属整体師(スキル増殖中)
【コネクション】
・アラクネ:凄腕の裁縫職人(編み棒ジャンボサイズ対応) ←New!
【今回の獲得アイテム(わらしべ交換完了)】
・遮断機(丸太) → アラクネへ譲渡
・鉄柱×4 → 天蓋フレームへ加工
・天雷のダウン + エンプレス・シルク → 最高級ベッド完成
【次回予告】 亡霊峠と、腹ペコ料理長の未練。
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