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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第六章 天空の島々と、竜の住まう国 編
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第68話 究極のジャンクラーメンと、脂の堕天

 絶対無力結界が粉々に砕け散り、キラキラと虚空へ消えていく。

 その光景に驚愕していた教皇ニンバスの顔が、次第に激しい怒りへと歪んでいった。


「ならば、貴様らの根源たるカロリーそのものを奪ってやる」


 ニンバスが両手を天に掲げる。展開されたのは、空間を隔てる結界ではない。対象が持つカロリーや味覚そのものを、世界から直接奪い去るという恐るべき概念魔法。


「世界よ断食せよ。すべてのカロリーを、我が身に還元する」


 天使の断食魔法。


 淡い光の波が広がった瞬間、キッドが仕込んでいた極濃豚骨スープから色が抜け落ちた。ドス黒く輝いていた背脂は消え失せ、暴力的なまでの匂いも一瞬で無味無臭の透明なお湯へと変わる。さらに、鍋の中で踊っていた特製麺は、ただの白いゴム紐のような物体に変色してしまった。


「お腹空いた……味がしない……」


 ライラが力なく膝から崩れ落ちる。万事屋のメンバーの体温も急速に奪われていく。ロザリアのブートキャンプによって見事な筋肉を手に入れていた元天使兵たちの身体も、風船の空気が抜けるように急速にしぼんでいった。物理攻撃も魔法の障壁も、概念として降り注ぐ断食の前には全く意味をなさない。


「このままじゃ全滅するわ……!外から直接カロリーを流し込むしかない」


 酸素すらも薄れゆく中、ミルカが震える指で弐号機のコンソールを叩く。G-Logの魔力網を強制的に限界まで押し広げ、満腹都市ガーグ、深海都市アビス、竜の峰、そして世界中のみんなへと想いを繋いだ。


 虚空に、いくつもの輝く光の文字板が浮かび上がる。

 キッドは薄れゆく意識を奮い立たせ、天に向かって血を吐くように叫んだ。


「俺たちの火は消えねぇ!世界中の皆!俺のラーメンにトッピングを送ってくれ!」


 その魂の叫びに、世界が応えた。

 虚空に浮かぶ光の板に、次々と熱狂的なコメントが弾け飛ぶ。


「ヤサイ!」

 ガーグの大鍋が轟音を立て、山のように盛られた温野菜が光の粒子となって鍋へ転送される。これが満腹都市の誇りだ!受け取れ、キッド!三ツ星シェフであるヴォルグの魂の温野菜盛りの蒸気が、断食魔法の無味の白を押し返す。


「ニンニク!」

 竜の峰の長老竜が、古竜のブレスでニンニクを黒く焦がす。焦がしニンニクの香りが、真空のように薄れた空気を突き破り、鍋へと吸い込まれていく。


 世界中のみんなから、アブラ!アブラ!アブラ!アブラァァァ!!

 G-Log画面が白く飽和し、コメント欄がアブラの連打で埋め尽くされる。アブラ増し!アブラ神、降臨!アブラで救え!!アブラの祈りが魔力となり、空間に黒光りする背脂が降り注ぐ。


「カラメ!」

 深海の闇を照らすように、アビスの長老ウミウシが巨大な壺を押し出す。地上の者よ……これが深海の旨味じゃ……!百年熟成の醤油ダレが、鍋へと吸い込まれていく。


 世界中から送られてきた熱いコメントの魔力が、空中で物理的な質量と圧倒的な熱量へと変換されていく。

 ガーグの温野菜、竜の峰の焦がしニンニク、アビスの熟成ダレ、そして世界中の読者のアブラ。それらが参号機の鍋に吸い込まれ、透明だったスープが黒く、濃く、熱く、世界の味を背負った究極の一杯へと変貌する。鍋が震え、空間が歪み、背脂が天へと噴き上がる。


 透明だったお湯にドス黒い背脂が逆流し、極上の旨味がスープに溶け込む。どんぶりの上には、天を衝くほどの高さを誇る無限マシマシの山が、瞬く間に形成されていった。


「これが……世界の味だぁぁぁ!!!」


 超弩級・無限マシマシ極濃ラーメンの完成である。


「そのような下賤な脂、断じて口にせぬ!」


 ニンバスは顔を青ざめさせ、口を一文字に固く閉ざして断食魔法を維持しようとする。だが、その懐へ神速で入り込む黒い影があった。


「霞ばかり食べているせいで、極度の栄養失調による硬直……天使断食症候群を起こしていますね。……ほぐして差し上げましょう」


 オトモの指先が、ニンバスの顎のツボを正確に突き抜く。カパッ、と間抜けな音を立てて、教皇の口が強制的に全開となった。


「今だ店長!」

「いただきまーす……じゃなくて」


 極限のカロリーの匂いを嗅ぎつけて完全復活したライラが、巨大なレンゲという名のスコップを構え、天を衝くほどの極濃ラーメンを豪快にすくい上げる。


 ライラは無防備に開かれた教皇の口内へレンゲを突きつけ、冷たく見下ろした。


「大昔の国がどうなったかなんて、正直どうでもいいわ」


 ライラの言葉に、ニンバスが目を見張る。


「私がムカついてるのは、霞しか食ってない薄っぺらい頭で、私たちが今、泥水すすって必死に味わってるカロリーを否定したことよ!」


 ライラの瞳に、底知れぬ飢えと生存本能が燃え上がる。


「底辺で煮詰まった極濃のカロリー、骨の髄まで味わいなさい!」

「おあがりよ!」


 ライラは、一切の容赦なく極濃ラーメンを教皇の口内へとぶち込んだ。


「んぐおぉぉぉぉぉ!?」


 ニンバスの瞳孔が限界まで見開かれた。

 暴力的なまでのカロリー。荒々しいニンニクの刺激。そして、脳髄を直接撫で回すような背脂の強烈な甘み。霞しか口にしてこなかった清廉な味覚と脳髄が、一瞬にして完全に破壊される。


「あ、ああ……アブラ、ウメェェェェェ!!」


 次の瞬間、ニンバスの貧弱だった身体に異変が起きた。未知のカロリーを細胞が爆発的に吸収し、ヒョロヒョロだった腕や胸板が一気に筋肉モリモリへと膨張していく。純白だった六枚の羽は、極上の脂の輝きを放つ黄金のオーラへと染め上げられた。

 カロリーの歓喜に打ち震えながら、筋肉の塊へと堕天した教皇は、涙を流してどんぶりを舐め尽くす。


 教皇が最後の一滴を飲み干した瞬間、空間を支配していた断食魔法も限界を迎えて崩壊した。温かな空気と匂いが、要塞内に戻ってくる。


 息を吹き返した万事屋の面々の前で、超絶マッチョとなったニンバスが、ズンッと重い音を立てて土下座をした。


「頼む……後ろで苦しんでいる大精霊シルフは……私の妻なんだ!助けてくれ……!」


 まさかの事実発覚。

 天空の最高権力者が、己の美学を捨ててまで懇願する姿に、キッドもロザリアも言葉を失う。静寂に包まれる空間の中、オトモだけがゆっくりと片眼鏡を光らせた。


「では、要塞ごと揉みほぐしましょうか」


 執事の静かな宣言が、大理石の床に力強く響き渡った。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・弐号機

【現在地】 白の要塞・最深部


【従業員ステータス】

・ライラ:【現在を生きる悪徳店長】遠い先祖の因縁などどうでもいいと一蹴。過去の王女としてではなく、現在の食を否定した教皇に対し、万事屋の店長として極濃ラーメンを強制給餌する。

・キッド:【魂の料理人】読者からのトッピング魔力を見事に極濃ラーメンへと昇華させる。

・オトモ:【的確なツボ職人】天使断食症候群を見抜き、顎を外して強制給餌をアシスト。


【新規獲得ユニット】

・教皇ニンバス:【筋肉の堕天使】アブラの旨味に目覚め、マッチョ化。妻を救うため万事屋に土下座中。


【施設状況】

・白の要塞:【断食魔法解除】巨大精霊シルフの救出へ向け、オトモの超大型整体が幕を開ける。

熱いマシマシコールのおかげで、最強のラーメンが完成しました!

究極の軽さを求めていた教皇も、アブラの旨味には勝てず見事なパンプアップを果たしました。

そして次回は、ついに第六章のクライマックス。要塞そのものを揉みほぐす超絶スケールの整体が始まります。

妻を救う大作戦の行方が気になる方は、ぜひブックマーク登録、評価での応援をお願いいたします!

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