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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第六章 天空の島々と、竜の住まう国 編
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第65話 筋肉メイドと、重力(キミ)に恋した審問官

 白の要塞の甲板は、先ほどの戦闘の余韻と暴力的なまでのニンニクの匂いに包まれていた。

 倒れ伏す白翼教の天使兵たちは、純白の羽を泥と脂で汚し、すっかり戦意を喪失している。

 その惨状を見下ろすロザリアの瞳には、憐憫ではなく、強烈な怒りが宿っていた。


「中身がスッカスカなのを誇る?努力から逃げただけのペラペラな体を、純白と呼ぶつもりですの!?」


 ロザリアの声が、静まり返った甲板に鋭く響く。

 天使兵たちの細く痩せこけた腕や、頼りない足腰。ただ風に乗るためだけに質量を削ぎ落としたその身体は、ロザリアの美学とは対極にあるものだった。


「真の美しさは、泥臭い努力と筋肉の果てに宿るものですわ!」


 鉄扇をビシッと突きつけ、ロザリアが教官として立ち上がる。

 理不尽な号令とともに、地獄の強制スクワットが開始された。

 最初は戸惑い、抗おうとしていた天使兵たちも、背後で目を光らせるオトモの威圧感と、ロザリアの有無を言わさぬ迫力の前に、震える足で腰を落とし始める。


「声が小さいですわ!もっと深く腰を落としなさい!」


 そこへ、キッドが巨大な寸胴鍋を乗せた台車を押してやってきた。

 煮えたぎっているのは、特濃豚骨にマシマシのニンニクと背脂を加えた、生命力の塊。


「へいお待ち!仕上げの天然プロテインだ!」


 強制スクワットで限界を迎えた天使兵たちの口に、キッドが巨大な柄杓でスープを流し込んでいく。

 むせる間も与えられない。

 強制給餌された極濃ニンニク豚骨スープが、飢えきった細胞に爆発的なカロリーを叩き込む。


 最初は脂の強さに悶絶していた天使たちだったが、次第にその表情に変化が表れ始めた。

 過剰摂取された脂とカロリーが血流を駆け巡り、破壊された筋繊維を超回復させていく。

 甲板は、汗と脂と熱気にまみれた特訓場へと変貌していた。


「マッスル!マッスル!」

「カロリー最高ォォォ!!」


 筋トレの快感に目覚めた天使兵たちが、歓喜の雄叫びを上げる。

 純白の羽を持ちながらも、はち切れんばかりの大胸筋と上腕二頭筋を誇る万事屋のメイドと執事が、ここに大量生産されたのだ。


「筋肉は裏切りませんわ。努力の証ですもの」



 一方、甲板の隅では、全く別の熱に浮かされている男がいた。

 ドラの力強い腕の中で意識を取り戻した異端審問官カイムである。


「大地の温もり……これこそ、私が求めていた真理……!」


 カイムの瞳には、かつての冷徹な光はない。

 虚無で冷たい空の世界しか知らなかったカイムにとって、ドラの身体から伝わる熱と、命の密度が詰まった太い尻尾は、衝撃的なまでの安心感をもたらしていたのだ。


「ああ、この圧倒的な質量はなんて温かく、美しいんだ……その規格外の重みで、私を踏んでくれ……!」


 恍惚とした表情でドラの尻尾にすり寄るカイム。


「ひぃっ!?な、何言ってるのこの人!?」


 ドラはドン引きして尻尾を引っ込めようとするが、カイムはしっかりと抱きついて離さない。


「……どうか、その重さを、もう一度……」

 冷酷な審判を下していた男は、完全に重力信仰に目覚めたストーカーと化していた。


「お願いです、どうか私に大地の重力を教えてください。大地の重みを、もっと……!」


 ドラのしっぽへ頬ずりをしてくるカイムに、ドラは助けを求めるようにライラたちを見た。

 ライラはポテチを齧りながら、どこ吹く風でそっぽを向いている。


「……仕方ないですね。有益な情報と引き換えなら、少しだけ踏ませてあげてもいいですよ」


 オトモが冷ややかに交渉を促すと、カイムはハッとして姿勢を正した。


「語りましょう。この要塞の、醜い真実を」


 カイムの口から明かされたのは、白翼教の恐るべき暗部だった。

 この巨大な白の要塞が軽やかに空に浮いていられるのは、決して神聖な奇跡などではないという。


「要塞の最下層には、重力排出炉と呼ばれる施設があります。そこで、飛べない者たち……竜人族や翼を折られた鳥人たちが、浮力を維持するための重りとして、見えない場所で過酷な強制労働をさせられているのです」


 カイムは自嘲するように目を伏せた。


「自分たちが優雅に浮くために、重さを捨てたのではない。見えない泥水へ押し付けたのだ」


 その言葉に、甲板の空気が凍りついた。

 ロザリアの扇子を叩く手が止まり、キッドは包丁の柄を強く握りしめる。

 そして、誰よりも強い衝撃を受けたのはドラだった。


 自分の同胞たちが、ただ重いという理由だけで要塞の下敷きにされ、光の当たらない場所で苦しめられている。

 自分がずっとコンプレックスに感じていた重さが、理不尽な搾取の道具にされているという事実。


 ドラの瞳から、これまでの劣等感が完全に消え失せた。

 代わりに灯ったのは、激しい怒りの炎。


 その直後、ライラがポテチの袋をクシャッと握りつぶし、立ち上がった。


「……最悪。一番不味いパターンのやつじゃん」

「え……?」


 ドラが振り返る。


「誰かを泣かせて作ったご飯なんて、泥より不味いに決まってる。……ドラ。あんた、うちのナビゲーターでしょ?」

「う、うん……!」

「じゃあ、案内しなさい。その一番下で泣いてる連中のところに。……道は、あんたのその立派な重さでこじ開けなさい!」

「……うんっ!!」


 ライラの強烈な食の価値観と、店長としての絶対的な号令が、ドラの背中を力強く押した。


「飛べないからって!重たいからって!都合よく踏み台にしていい理由にはならない!」


 ドラの咆哮が、要塞の空気を震わせた。

 全身の筋肉が膨張し、太い尻尾に莫大なエネルギーが集中する。

 ドラは高く跳躍し、自慢の質量を限界まで引き出したフルスイングで、純白の甲板に向かって尻尾を叩きつけた。


 ズドォォォォォンッ!!


 圧倒的な質量を持った一撃が、分厚い装甲を紙のように貫き、要塞の深部へと響き渡る。

 大理石の床が放射状に砕け散り、巨大な亀裂が走った。



 ……静寂が訪れた。次の瞬間――


 要塞の奥底から、金属音ではない、異様な音が轟いた。

 それは、胸の奥を直接震わせるような、誰かの泣き声。

 機械音とは違う巨大な生き物の悲鳴のような地響きが、足元から突き上げてくる。


『ウゥゥゥゥゥ……ッ!!』


 突如として要塞全体が大きく傾いた。

 けたたましいアラートが鳴り響き、純白の塔が次々と崩れ落ちていく。

 もはや制御不能。


 空の支配を誇っていた白の要塞が、未知の暴走を始めようとしていた。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・弐号機

【現在地】 白の要塞・甲板(崩壊中)


【従業員ステータス】

店長ライラ:【不味い飯への怒り】搾取によって作られた状況を最も不味いと断じ、ドラに道をこじ開けるよう命じる絶対的リーダー。

・ロザリア:【鬼教官】美学の授業により、天使兵を筋肉の信奉者に改造完了。

・キッド:【プロテイン提供者】極濃スープで天使たちの肉体を超回復させる。

・ドラ:【質量兵器・覚醒】同胞への搾取を知り、店長の号令のもと怒りの尻尾フルスイングで甲板を貫通。


【新規獲得ユニット】

・白翼教天使兵たち:【マッチョメイドと執事】カロリーと筋トレの快感に目覚め、万事屋の下僕と化す。

・カイム:【重力信者】ドラの温もりと質量に初恋。要塞の真実を暴露し、寝返る。


【施設状況】

・白の要塞:【制御不能・暴走状態】最下層からの巨大な悲鳴とともに、崩壊と傾落が開始。

ロザリアの筋肉ブートキャンプ、まさかの天使兵にまで波及しました!

そしてカイムはドラの重力の虜に……。

要塞の奥底から聞こえる悲鳴の正体とは?

次話、究極のジャンク・バトルが始まります!


皆様の通信コメントが弐号機の魔力炉をさらに活性化させます。

理不尽なカチコミの結末が気になる方は、ぜひ【ブックマーク登録】と【★★★★★評価】での魔力供給をお願いいたします!

オトモ「皆様からの評価が、最高のスープの隠し味となります」


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