第64話 白の要塞と、強奪の背脂チャッチャ
■G-Log航行管理局より・作戦目標の緊急変更および同期要請
前回の記録(第六十三話)にて告知した目的地「清廉な学園」は、白翼教による情報偽装でした。
その正体は、質量を極限まで削ぎ落とした風と光の『中空要塞』。
これより、万事屋の作戦目標を「要塞への質量カチコミ」へと緊急変更します。
また、本通信の魔力炉は、直前の記録と完全リンクしています。
未確認の通信者は、必ず【一つ前の記録】から接続してください。
皆様の魔力と素材指定が火力となる瞬間の熱量は、事前の同期なくして把握できません。
鼓膜を破るような爆音と共に、弐号機は白の要塞の甲板へと隕石のように激突した。
ひび割れる純白の大理石。舞い上がる粉塵。
立ち塞がる白翼教の天使兵たちは、濛々と立ち込める土煙の中から現れた少女の姿に、思わず息を呑んだ。
「……私の背脂と竜肉、どこやったぁぁぁっ!」
ライラの咆哮。
それは単なる怒声ではない。胃袋の底から這い出るような、捕食者としての絶対的な飢えと怒気。
天使兵たちは、理由も分からぬまま胃の奥がひっくり返るような恐怖に襲われた。風の精霊すらもが、その異質な怪物への本能的な怯えから、一瞬だけ甲板から逃げ出した。
気絶していく兵士たちの間を抜け、万事屋の一行は甲板の最奥へと踏み込んだ。
そこに、没収された極上の竜肉と天界豚の背脂の木箱があった。
その前に立ち塞がるのは、六枚の純白の羽を持つ銀髪の異端審問官、カイム。
「不純物はここで塵とする」
カイムは冷徹な瞳でキッドを睨み据えた。
「風のように澄んだ在り方こそ、正しさだ……。空に生きる者は、地の濁りを抱くべきではない」
「……くだらねぇ」
キッドが、腰から出刃包丁を抜く。
「食材を粗末にする奴は、万事屋の敵だ。てめぇのその澄み切った羽、命の匂いで染め上げてやる」
キッドは足元の寸胴鍋を蹴り上げるように構えた。
鍋の中では、極上の天界豚から抽出された特濃豚骨スープが、凶悪な熱を帯びて煮えたぎっている。
「店長、通信越しの声援が届いてるぜ。一番人気は、こいつだ!」
キッドが不敵に笑い、山盛りのマシマシ刻みニンニクを寸胴へと叩き込んだ。
「料理はな、魂を叩き込んだ奴が勝つんだよ。匂いで落とすのが一番効くんだ」
ブワァァァッ!
風よりも濃い匂いが、瞬く間に要塞の空を支配する。
ニンニクの刺激と、極限まで濃縮された豚骨の暴力的な脂。
「なっ……なんだ、その冒涜的な臭気は……っ!?」
「食らいな! これが地面を這いずって生きる、俺たちの熱だ!!」
キッドの腕が一閃し、寸胴鍋から放たれた黄金色の濁流が、カイムの純白の羽に向かって容赦なくぶちまけられた。
「ぐあぁぁぁっ!?」
熱湯のようなスープと背脂を全身に浴びたカイムは、甲板の縁まで吹き飛ばされる。
体勢を立て直し、空へ逃れようと羽を動かす。
だが、動かない。
羽根が脂とニンニクの濃い汁を限界まで吸い込み、空気をまったく掴まなくなっていた。
(なんだ……これは……!?)
身体が、容赦なく地面へと引き寄せられていく。
足場を失ったカイムの身体は、要塞の甲板の縁から零れ落ちそうになる。
風が止んだ。空が息を潜めた。
次の瞬間、カイムの身体は空の底へと真っ逆さまに落下していった。
(支えが……どこにも……ない……!)
吹き上げる風が、カイムの体温を奪っていく。
どこまでも透明で、余計なものを削ぎ落とした空の世界。絶対の正義だと信じていたその場所が、今はただ、果てしなく冷たく、孤独だった。
(削ぎ落とすほど純粋になれると思っていた。だが残ったのは、何もない空虚だけだった……)
思想の死を悟り、カイムが静かに目を閉じた、その瞬間。
「大丈夫。地面はね、ちゃんと受け止めてくれるんだよ!」
頭上から弾丸のような速度で降下してきた小さな影が、カイムの身体を力強く抱きとめた。
太く逞しい尻尾。竜人少女のドラだった。
「き、貴様……なぜ、異端の私を……!」
「この身体は、落ちても折れないようにできてるんだ。地面に叩きつけられてきた分だけ、強くなれたんだよ!」
ドラの身体には、落ちても折れない強靭な芯があった。
吹き荒れる冷たい風の中、彼女の腕の中だけが、信じられないほどの熱を帯びている。
(……空は、こんなに冷たかったのに……)
カイムは、ドラの胸の鼓動を聞きながら、ゆっくりと目を見開いた。
(この腕は……どうしてこんなに温かい……?)
空に生きることを強制されてきた冷徹な男の胸の奥に、初めて、ズシンと確かな熱が沈み込んでいく。
一方その頃、要塞の甲板では。
取り返した食材の横で、ロザリアが優雅に扇子を広げていた。
「努力を削ぎ落とした者に、空を語る資格はありませんわ。澄んだだけの羽は脆い。磨かれた羽こそが、真に美しいのです」
ロザリアの鋭い視線が、残された天使兵たちを射抜く。
「さあ、堕落した天使たち。真の美の授業の時間ですわ!」
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■現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】万事屋オモテナシ・弐号機
【現在地】白翼教の移動検問所『白の要塞』甲板
【ステータス更新】
・カイム:【思想の死と初恋】
思考:空よりも、この腕の中の方が温かい。
【次回予告】
通信者の皆様からの魔力支援により、見事なニンニクマシマシ爆撃が成功!
弐号機の魔力炉が、通信越しの熱量に反応して震えています。
料理は戦場。皆様の支援はそのまま火力になります。
甲板を制圧したロザリアが、偽りの純粋に縋る天使たちへ美学の鉄拳を叩き込む。
次回、第65話『筋肉メイドと、重力に恋した審問官』。
努力を放棄した者に、空を飛ぶ資格はありませんわ!
■G-Log通信・魔力供給要請
弐号機は現在、『白の要塞』空域にて作戦行動中。
敵重力場の干渉により、魔力消費が想定を大きく上回っている。
事態を打破するため、通信者各位の至急の魔力供給を求む。
●通信
→魔力炉が活性化し、次回の演出(火力)が強化される。
●評価(応援)
→魔力が安定し、激戦区での航行記録の維持が容易になる。
●記録保持
→弐号機の航路が固定され、次回作戦への移行が円滑化。
通信者の魔力は、万事屋の力として直接変換される。
――G-Log航行管理局




