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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第六章 天空の島々と、竜の住まう国 編
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第63話 地の底の味と、根菜のポトフ

■G-Log航行記録・重要通知

弐号機は現在、天空都市スカイハイ周辺空域にて、

白翼教はくよくきょうによる空域封鎖と検問強化の影響を受けている。

この封鎖は通常の警戒レベルを大きく超えており、

弐号機の航路は 最新の空域情報に基づき緊急的に再構成 された。

特に、

天空騎士団との接触および「大地の重さ」を理解させる作戦は、

以降の航路判断と『白の要塞』突入の可否に直結するため、

閲覧者の皆様には 本記録を最初から確認することを推奨 する。

なお、航行記録の再構成は、

弐号機の安全航行と作戦遂行のために必要な処置であり、

乗員の行動や記録内容に変更は生じていない。

――G-Log航行管理局

 純白の大理石に頬を擦り付けたまま、ゼファーは屈辱に奥歯を噛み締めていた。

 骨が軋む。肺が潰れそうに重い。空の覇者として風を纏い、一切の不純物を排除して生きてきたゼファーの身体に、十倍の重力がのしかかる。


「ぐっ……!体が……重い……!?こんな……地の重さに……屈するものか……!」


 羽ばたこうとするたびに、自慢の六枚羽がメシリと悲鳴を上げる。

 ゼファーの視界の先では、重装甲の鉄塊――弐号機のハッチが開き、一人の男がゆっくりと降りてきた。


 荒くれ料理人、キッドだ。

 キッドの手には、巨大な木製のボウルが抱えられていた。そこから立ち上るのは、空の住人たちが最も忌み嫌う土の匂い。


「……なんだ、その泥水は。我々に対する拷問のつもりか」

 ゼファーが血を吐くように睨みつける。


「拷問?冗談じゃねぇ」

 キッドはボウルをゼファーの目の前にドンと置いた。


「これは俺の魂を込めた特濃ポトフだ。食え」


 ボウルの中身は、空の世界では絶対にお目にかかれないものだった。泥の中で育ち、太陽の光すら知らない野菜たち。太く無骨なゴボウ、泥を蓄えたレンコン、そして土の香りを残す里芋。それらを、骨の髄まで溶け出すほど煮込んだ骨付きすね肉と合わせた黄金色のスープ。見た目は茶色く、重苦しく、そして野暮ったい。


「ふざけるな……!そのような地の底の汚物、天空騎士団の誇りにかけて口にするものか!」


「汚物じゃねぇ。竜の峰の村人たちから、助けてもらったお礼にと貰った大地の恵みだ」


 キッドの瞳が、剣呑に光った。


「空の底で踏ん張って生きてる奴らの、命の重みが詰まってんだよ。空っぽの胃袋で鳴いてる鳥が、どの口で言ってやがる。食わねぇなら殴ってでも食わせる。それが俺の料理だ」


 キッドはレンゲでスープを掬い、有無を言わさずゼファーの口元へ押し付けた。


「……食え。生き返るぞ」

「んぐっ……!?」


 抗う間もなく、熱い液体が喉の奥へと流し込まれる。


「こんな泥水……認めるものか……!だが……身体が……勝手に……!」


 その瞬間。ゼファーの身体に、雷に打たれたような衝撃が走った。


(なんだ……この、暴力的なまでの旨味は……!?)


 天空騎士団が普段口にしているのは、風の精霊が運ぶ果実の露や、純度を高めた霞のような軽い食事だけだ。しかし、このポトフは全く違った。ゴボウが放つ強烈な大地の香り。レンコンのシャキッとした歯ごたえ。里芋のねっとりとした甘み。それらが極上の肉の脂と絡み合い、胃袋にドスンと重い熱を持たせる。


「……ッ!」


 ゼファーは無我夢中でボウルに顔を突っ込み、残りのポトフを貪るように飲み干していた。重力で体が動かないはずなのに、顎だけが本能に従って動く。咀嚼するたびに、空っぽだった身体の芯に、太い鋼の柱が打ち込まれるような感覚があった。


「どうだ?泥の味は」

 キッドがニヤリと笑う。


「……信じられん」

 ゼファーは荒い息を吐きながら、ボウルの底を舐め尽くして顔を上げた。


「こんな……重苦しく、泥臭いものが……これほどまでに生命力に満ち溢れているとは……。軽さこそ正義……だったはずなのに……」


 空の住人の信仰が、一杯のポトフによって根底から覆された瞬間だった。


 ミルカがコンソールのスイッチを切り、重力制御アンカーを解除する。フワリ、と押さえつけていた重圧が消えた。

 ゼファーはゆっくりと立ち上がった。翼はひしゃげているが、その足取りは以前よりもずっと力強い。ゼファーは、物陰で震えていたドラの方へと向き直った。


「……竜人族の娘よ」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 ドラがびくっと肩を竦める。


「お前は、この泥臭い連中と共に旅をしているのだな」

 ゼファーは少しだけ口元を緩め、ドラの太い尻尾を見下ろした。


「……その重さは、決して不純物などではない。命の密度だ。お前の重さは、いつか強さになるかもしれん」


 ドラの目が、驚きに大きく見開かれる。空のエリートである天空騎士団長に、自分の重さを認められたのだ。ドラの胸の奥で、小さくも熱い火種が生まれた。


「……重さが、強さになる……。ボク……重くてよかった……!」


 ドラは、初めて自分の尻尾を隠さずに、力強く頷いた。


 おもてなしは完了した。そう誰もが思った、その時だ。


 空が、暗く沈んだ。

 太陽の光を遮るほどの巨大な影が、弐号機と万事屋一行の頭上を覆い尽くす。雲海を割って姿を現したのは、純白の装甲に覆われた巨大な飛行戦艦――白翼教の移動検問所、白の要塞だった。


 遥か上空の甲板から、ドラの太く力強い尻尾を見下ろし、小さく息を呑む冷徹な瞳があった。声の主は、要塞から見下ろす銀髪の異端審問官、カイム。

 カイムは手元の端末でスキャン結果を確認し、冷酷に言い放つ。


『――警告。地を這う鉄の塊に告ぐ。貴機に積載された質量およびカロリーは、我が教義における重き罪である。特にこの背脂。匂いが重い。罪だ。……軽さこそが……正しさだ。よってこれより、不純物たる全ての食材を没収、および破棄する』


 ピキッ、と。

 ライラのこめかみに、青筋が浮かぶ音がした。ぷるぷると、店長の両手が小刻みに震え始める。


「……没収?破棄?」

「……あの背脂、誰にも触らせない……。胃袋が……怒ってる……」


 ライラの声音から、一切の感情が消え失せた。


 バキッ!

 ロザリアが手にした扇子を真っ二つにへし折る。

「……美の冒涜ですわ」


 チャキッ。

 キッドが、腰の出刃包丁をゆっくりと抜いた。その瞳には、明確な殺意が宿っている。

「食材を粗末にする奴は、俺たちの敵だ」


 ミルカは重力制御アンカーの出力を無言で最大まで引き上げ、オトモが一歩前に出て、主の背中を守るように片膝をついた。


「ご注文は、いかがなさいますか。店長」


 見上げる巨大な白の要塞。

 ライラは、底知れぬ飢えと怒りを宿した瞳で、天空の要塞を睨みつけた。


「――あそこの異端審問官、ぶん殴って全部取り返すわよ」


 一瞬、空気が凍りついた。

 次の瞬間、弐号機のエンジンが鼓膜を破るほどの爆音を上げた。

 空の常識を泥と脂で塗り替える、万事屋史上最も理不尽で凶悪なカチコミが、今始まろうとしていた。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・弐号機

【現在地】 天空都市スカイ・ハイを通過中


【ステータス更新】

店長ライラ:【激怒】背脂の破棄宣告に対し、絶対的な殺意を込めてカチコミを命じる。

・ドラ:【自己肯定】ボクの重さは、命の密度。

・天空騎士団:【食の革命】根菜の旨味と大地の重さを認める。

・白翼教:【死亡フラグ】万事屋の食材(背脂)を没収・破棄しようとする最大のタブーを犯す。

【次回予告】

大地の重さを分からせた直後、現れたのは巨大飛行戦艦『白の要塞』。

極上の食材を捨てるなんて、絶対に許さない。

空の常識? 知らない。次は――要塞の厨房を占拠する番だ。

料理は戦争だ。負ける気がしない。

第六十四話『白の要塞と、強奪の背脂チャッチャ』。


【G-Log緊急通信機能・閲覧者作戦会議】

閲覧者の皆様、現在弐号機は『白の要塞』へのカチコミに向け、エンジンを限界突破させています!

皆様からの通信コメントが、そのまま万事屋の破壊力に変換されます。

また、弐号機のブースト燃料となる魔力(評価・応援・ブックマーク)の供給も隨時受付中です。万事屋の理不尽なカチコミを、どうか通信越しに見届けてください!

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