第6話 織物の街と、密室繭事件(前編)
荒野の果てに、その街はあった。
世界最高峰の生地を産出する、織物の街「シルク」。
だが、到着した『オモテナシ・ゼロ号機』を出迎えたのは、活気ある呼び込みの声ではなく――死ごとき静寂だった。
「……ねえ、オトモ」
「はい」
「なにこれ。ホラー映画のセット?」
ライラが顔を引きつらせる。
無理もない。街の入り口から民家に至るまで、視界に入る全てのものが「白くベタつく糸」で幾重にも巻かれ、封鎖されていたのだ。
風が吹くたびに、糸がヒュオオ……と不気味な音を立てる。
「おやおや。街全体が徹底的に『キルティング加工』されていますね。……これは、なかなかの手間ですよ」
「感心してる場合!? これ、絶対ヤバイ魔物の巣じゃない!」
ライラは怯えながらも、懐からハンカチを取り出し、即席のハンチング帽のように頭に乗せた。
そして、鏡もないのに帽子の角度をキリッと調整し、謎の決めポーズを取る。
「いい? オトモ。ここからは『名探偵ライラ』の時間よ。私の直感が告げているわ……この街で、とんでもない大量殺戮が起きていると!」
「……左様でございますか(棒)」
二人が大通りを進むと、すぐに第一の「被害者」を発見した。
民家の軒先に、糸でグルグル巻きにされた初老の男性が、ミノムシのようにぶら下がっている。
「ひぃぃっ! 死体ーッ!?」
「いえ、ご安心を。脈はあります」
オトモが片眼鏡で観察し、冷静に告げる。
「ただ……気絶しているだけですね。それに、この巻き方。乱暴に拘束されたのではありません」
「え?」
「ご覧ください。これは『ケーブル編み』です。非常に高度な手芸テクニックで、優しく、かつ強固に編み込まれています」
よく見れば、男性の顔色は安らか……というより、どこか「やれやれ」と呆れたような表情で固まっている。
さらに不可解なのは、その体勢だ。
彼はただ吊るされているのではない。腰を不自然にひねり、右手を掲げた妙にキレのあるポージング(ジョジョ立ち)で固定されていた。
「なんであんなポーズで固まってるのよ……」
「前衛的ですね。……おや、指先をご覧ください」
男性は気絶する直前、必死に指を三本立てて『W』の形を作っていた。
「ダイイングメッセージだわ! 間違いない、犯人のイニシャルはW……ワリオ!? それともワッフル男!?」
「いいえ、店長。あれは『ウエスト(West)がきつい』と訴えているのです」
「は?」
「採寸が甘かったのでしょう。腹回りの締め付けに耐えかねて気絶したようです」
オトモは男性の腹部をポンと叩く。
ポヨヨン、と弾力のある音がした。
「……どういうこと?」
「犯人は、殺人鬼ではありません。極めて偏執的な『ファッショニスタ』です」
その時。
街の中央広場から、悲痛な叫び声が響き渡った。
「あぁぁぁもうッ!! またよッ!! なんでなのォォォ!!」
「! 悲鳴!? 生存者がいるかも!」
◇
ライラが駆け出す。
広場に辿り着いた二人は、そこで異様な光景を目撃した。
そこには、白い糸で固められた住民たちが、山のように積み上げられていた。
そして、その頂点に君臨する巨大な影。
上半身は肉感的な美女。
しかし下半身は、巨大な蜘蛛。
魔物「アラクネ」である。
「くっ……出たわね、犯人! 住民を糸で巻いて食べる気ね!」
ライラがビシッと指差す。
アラクネがギロリとこちらを睨んだ。その手には、巨大な「編み棒」が握られている。
「あぁん? 食べる? 冗談じゃないわよ!」
「え?」
「あたしはただ……この子たちに『最高のドレス』を着せてあげたいだけなの! なのに……なのにぃぃッ!」
バキィッ!!
アラクネが激情のままに腕を振るうと、握っていた鉄製の編み棒が、飴細工のようにへし折れた。
「また折れたぁぁぁ! あたしの馬鹿力ぁぁぁ!!」
アラクネはその場にへたり込み、折れた編み棒の残骸を抱きしめて、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
「うぅ……ごめんねぇ……。この街の道具はヤワすぎるのよぉ……。あたしのパッションを受け止めてくれる『硬くて太い棒』はないのぉ……?」
泣きじゃくる蜘蛛の女帝。
そこには魔物の恐ろしさはなく、ただ道具に恵まれない職人の悲哀だけがあった。
ライラはポカンと口を開け、オトモを見上げた。
「……ねえオトモ。なんか、かわいそうなんだけど」
「ええ。謎は全て解けました」
オトモが静かに、あの一際大きな戦利品――「検問所の遮断機(丸太)」に手をかける。
「犯人は、情熱を持て余した哀れな芸術家。……ならば、当店がその『悩み』を解決し、対価として『極上の素材』を頂くまでです」
オトモの片眼鏡が、キラーンと光った。
名探偵の推理は終わった。ここからは、執事の仕事の時間だ。
■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】
リラクゼーションサロン・オモテナシ
【総合評価】
★0.03 ⇒ ★0.03(変動なし)
・新着口コミ:なし
※住民は全員、お洒落に拘束され気絶中のため投稿不可
・特記事項:街全体が“物理的な蜘蛛の巣”により通信障害発生中
【店舗設備】 オモテナシ・ゼロ号機(微改修)
・外装:鉄柱 + 紫カーテン + 丸太
・状態:白い糸で全体がベタベタにコーティング
・積荷:天雷のダウン(寝具化待ち)
【従業員】
・店長:名探偵(自称)。推理は外れたが態度はデカい
・執事:助手(不本意)。解決策=丸太を提示
【次回予告】 剛腕の編み物と、天上のベッド。
本日のおもてなしは、いかがでしたでしょうか?
もし「楽しめた」「サービス満点だった!」と感じていただけましたら、 感想や評価をいただけますと幸いです。
皆様の応援が、次の「過剰なおもてなし」を生み出す原動力になります! 次回も最高のおもてなしをご用意して、お待ちしております。




