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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第五章 ~亡命したけど金がない! 公爵令嬢(無職)、はじめての庶民ライフ~編
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第55話 眠れる森のニート姫と、最強の布団

 トラウマ・ミストが晴れ、黒歴史の傷跡も癒えぬまま、一行は森の奥深くへと進んでいた。

 やがて、巨大な茨に覆われた古城が姿を現した。


「……汚いですわね」

 ロザリアが第一声で吐き捨てた。


 伝説では百年の眠りにつく姫がいるとされる神秘的な古城。しかし、目の前にあるのは――。

 伸び放題の雑草。風化したピザの空き箱。脱ぎ捨てられた靴下の化石。要するに、歴史的建造物レベルのゴミ屋敷だった。


「茨ではありませんわ!これ、ただの手入れ不足による雑草です!」

 ロザリアが鉄扇で雑草を払う。

「庭師は何をしてますの!?美しくありませんわ!」


「生体反応あり。最上階」

 ミルカがタブレットを見る。

「でも……バイタルが異常に低い。冬眠してる熊みたい」


「行くぞ。姫様を救出して、謝礼をもらうんだ」

 キッドが先頭に立つ。ロザリアはドレスの裾が汚れないよう、つま先立ちで進んだ。



 最上階の寝室。

 そこには、部屋全体を埋め尽くすほどの、巨大な白い塊が鎮座していた。


「……マシュマロ?」

 ライラが目を輝かせる。

「いいえ、布団です」

 オトモが即答する。


 それは、キングサイズのベッド十個分はあるであろう、巨大な魔導布団だった。

 その中心がモゾモゾと動き、ボサボサの髪をした少女が顔だけ出した。


「……何?ウーバー?頼んでないけど」

 少女は気だるげに言った。目は半開きで、クマがひどい。


「ウーバーではありません!わたくしたちは万事屋オモテナシ!貴女を救出しに来ましたのよ!」

 ロザリアが名乗りを上げる。


「救出……?結構です」

 少女――ダララ姫は、布団の中に潜り込もうとした。

「ここWi-Fi飛んでるし、寝心地いいし。……帰って」


「はぁ!?」

 ロザリアが絶句する。

「呪いで眠らされているのではなくて!?」


「呪い?何それ美味しいの?私はただ……働きたくないから寝てるだけ。呼吸するのも面倒くさい……。あー、酸素の方から肺に入ってくれないかなー」


 筋金入りのニートだった。

 その腐りきった性根に、ロザリアのお節介焼きスキルが発動した。


「許せませんわ!レディたるもの、昼まで寝るなど言語道断!ましてや百年も引きこもるなど!叩き起こして差し上げますわ!」


 ロザリアは鉄扇を投げ捨て、腕まくりをした。物理攻撃力Aの筋肉が唸りを上げる。


「この薄汚い布団を、剥ぎ取って差し上げますわァァァ!」


 ガシッ!

 ロザリアが布団の端を掴み、全力で引っ張った。

「ぬんっ!!」


 ブチブチブチ……!

 床板が剥がれる音がする。しかし――布団はビクともしない。いや、ロザリアの怪力をむにゅーんと吸収し、スライムのように伸びるだけだ。


「な、なんですのこれ!?力が……吸われますわ!?」


「無駄よ」

 布団の中から、ダララ姫が嘲笑う。

「これは国宝、魔導布団エターナル・ダウン。衝撃吸収率百パーセント。重力制御付き。あらゆる物理干渉を無効化し、使用者を永遠の惰眠へと誘う……最強の盾よ」


 ビヨォォォン!

 反動でロザリアが吹き飛ばされ、壁に激突した。

 ドガァァッ!


「……物理が、効きませんわ……!?」

 ロザリアが崩れ落ちる。筋肉を手に入れて以来、初めての敗北だった。



「ふーん、気持ちよさそう」

 それを見ていたライラが、ふらふらと布団に近づいた。


「あら、いい抱き枕が来たわ」

 ダララ姫が布団を開く。


「おじゃましまーす」

 ボフンッ。

 ライラがダイブした。


「むにゃ……」

「……zzz」


 一瞬で静寂が訪れた。ニートが一人から二人に増えただけだった。


「ライラさんまで!?起きてくださいまし!貴女は王女でしょう!?」

 ロザリアが叫ぶが、二人は幸せそうな寝息を立てるばかり。


「今日からここが新しい王国よ。国名は二度寝ランド……」

「入国希望……むにゃ……」


「ダメですわ!そんな堕落した国、わたくしが滅ぼします!」



「……強制的な起床は不可能です」

 オトモが眼鏡を光らせた。

「物理が通じないなら、環境を変えるしかありません」


「環境?」

「ええ。起きたくてたまらなくなる朝を提供するのです。……キッドさん、厨房を」

「おうよ。任せろ」


 キッドは城の厨房に立つと、フライパンを熱した。

 ジュゥゥゥ……!

 厚切りのベーコンが焼ける音。そして、挽きたてのコーヒーの香りが立ち昇る。


「焦げる直前のベーコンの脂の匂い……。空腹の朝、この暴力的な香りに抗える人類はいねぇ」


 キッドは換気扇を逆回転させ、その香りを寝室へと送り込んだ。


 一方、オトモは超高速で寝室の掃除を開始した。

 シュババババ!

 散乱したピザの箱が消え、埃が浄化され、淀んだ空気が入れ替わる。そして、遮光カーテンの前に立った。


「……計算完了。あと三秒で、計算された角度の木漏れ日が、姫の瞼を直撃します」


 三、二、一……。

 シャッ!

 オトモがカーテンを開け放った。


 そこに、キッドの放ったベーコンの香りが到達する。


「……ん」

 布団の中で、ダララ姫の鼻がピクついた。

 瞼の裏を、暖かな日差しが刺激する。胃袋が、強制的に活動を開始する。


「……くっ。こんな……こんな優雅な朝を迎えてしまったら……」


 姫の身体が震えた。二度寝したい。でも、お腹が空いた。布団は気持ちいい。でも、日差しが眩しくて目が覚めてしまう。


「……二度寝できないじゃない……!」


 ガバッ!

 布団が跳ね除けられた。


「朝ごはんー!!」

「ベーコン!!」


 ダララ姫とライラが同時に飛び起きた。

 二人はゾンビのようにテーブルへ向かい、キッドの用意したベーコンエッグを貪り食い始めた。


「うまっ!何これうまっ!ウーバーより美味しい!」

 姫が涙目で完食する。


「……負けよ。私の完敗だわ」

 姫はフォークを置いた。

「こんなに掃除された部屋じゃ、落ち着いてニートもできないし。……出ていくわ」



「これ、あげるわ」

 姫が差し出したのは、城の宝物庫から発掘されたガラクタの山だった。

 金目のものは既にウーバー代で消えていたが、その奥に一つだけ、異様なオーラを放つパーツがあった。


「……これ、古代の重力制御エンジンだ」

 ミルカが目を丸くする。

「すごい。これがあれば、弐号機を飛行モードに改造できるかも」


「ふーん、あげるわ。重くて邪魔だし」

 姫は興味なさそうに言い、ジャージに着替えた。


「じゃあね。次はネットカフェって城を目指すわ」

 リュック一つで城を出ていく元・姫。その背中は、妙にたくましかった。


「……たくましいですわね。少し見習いたいですわ」

 ロザリアが見送る。


「さて、わたくしたちも行きますわよ。……ライラさん?」

 振り返ると、そこには布団の隣で、食後のコーヒーを啜るライラの姿があった。


「……ごちそうさま。美味しかったわ。でも、キッドの朝ごはんは、こんなカビ臭い城の中で食べるより、青空の下で食べる方が百倍美味いわね」

「お、分かってるじゃねぇか店長」


 ライラはニヤリと笑い、巨大な魔導布団をポンと叩いた。


「だからこの布団、弐号機に積んで持っていくわよ。これがあれば、どんな悪路でも食後の最高のシエスタが約束されるわ」


「……ライラさん、まさか最初からこの国宝を強奪するつもりでダイブを……!?」

 ロザリアが驚愕して尋ねる。


「強奪じゃないわ。あのニート姫の自立を手伝ってあげたんだから、これは正当な報酬よ。……さ、オトモ、運んで頂戴」


 ただ一緒に寝ていたわけではない。その寝心地と性能を、自らの体で査定していたのだ。

 悪徳店長としての圧倒的な強欲さと図太さを見せつけ、ライラは魔導布団を堂々と没収した。


「かしこまりました。……では、次の街まで、最高の寝心地を提供しましょう」

 オトモが恭しく一礼し、魔導布団ごとライラを担ぎ上げた。


「わーい。移動式二度寝ランドだー」


 こうして一行は、弐号機を空へ飛ばすための新たなパーツと、最強の物理無効シールド兼ベッドを手に入れ、次なる目的地へと向かうのだった。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・弐号機


【新規獲得アイテム】

『魔導布団エターナル・ダウン』

効果:衝撃吸収率百パーセント。重力制御付き。あらゆる物理干渉を無効化する最強の盾兼、最高の二度寝環境。


『古代の重力制御エンジン』

効果:ミルカの改造により、弐号機を飛行モードへ進化させるためのキーアイテム。


【従業員ステータス】

店長ライラ:【悪徳査定】布団の性能を身をもって確かめ、ニート姫の自立支援を名目に国宝を堂々と強奪する。

・ロザリア:【物理敗北】最強の盾(布団)の前に、自慢の筋肉が初めて通用せず敗北。

執事オトモ:【環境整備】超高速の掃除と計算された木漏れ日で、物理の通じないニートを叩き起こす。

料理人キッド:【朝食の暴力】焦げる直前のベーコンの香りで、ニートの胃袋を強制起動させる。

・ダララ姫:【伝説のニート】ネットカフェを探して放浪中

【次回予告】

「……海だ」

山を越えた一行の前に広がっていたのは、青い海だった。

水着回かと思いきや、そこは「サメ」が支配する危険地帯。

しかし、ライラにとってサメは「巨大なフカヒレ」でしかなかった。

次回、第56話『恐怖のサメ映画と、王女のフカヒレ解体ショー』。

ロザリアの水着(スク水)が火を噴く。

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