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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第五章 ~亡命したけど金がない! 公爵令嬢(無職)、はじめての庶民ライフ~編
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第50話 灼熱の厨房と、改造されたパン焼き機

 翌朝。

 オモテナシ弐号機『ヴェアミーリオ』の厨房担当、元・荒くれ料理人のキッドは、かつてないほどの高揚感と共にキッチンへと向かった。


「ふふふ……。昨日の公爵からの差し入れ『最高級熟成ハム』。

 これを厚切りにして、カリッと焼いたトーストに乗せる……。ライラの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ」


 彼は眠い目をこすりながら、愛用の厨房のドアを開けた。

 そこには、見慣れた木目調の調理台と、使い込まれた鉄鍋があるはずだった。


 ――ズキュゥゥゥン!!

 ビカビカビカッ!!


「……あ?」


 キッドはサングラス(かけてないが)が割れるほどの衝撃を受けた。

 そこは、厨房ではなかった。

 光と電子の魔窟エレクトリカルパレードだった。


 壁一面に埋め込まれた七色のLED。回転するパトランプ。

 コンロは禍々しいクリスタルでデコレーションされ、換気扇からは重低音のクラブミュージックが流れている。

 そして、中央に鎮座するトースターは、どう見ても『黄金の砲台(パパ・キャノン仕様)』になっていた。


「な、なんだこれはぁぁぁ!?」


「あ、おはよーキッド」


 DJブースのような調理台の下から、煤だらけのミルカが顔を出した。

 手にはスパナと、ロザリアの財布(空っぽ)が握られている。


「み、ミルカ! 俺のキッチンに何をした!?」

「何って、ロマンの追求よ」


 ミルカは恍惚とした表情で語った。

「昨日の公爵の耕運機を見て、私、気づいちゃったの。

 『ただ焼くだけ』なんてつまらない。料理にはエンターテインメントが必要だって。

 だから、スポンサー(ロザリア)を募って改造したの」


「スポンサーだぁ!?」


 そこへ、騒ぎを聞きつけたロザリアが優雅に現れた。

 彼女は胸を張って扇子を開く。


「お静かになさいキッド。これはわたくしへの投資ですわ」

「ロザリア、お前か! なけなしの小遣い(金貨一枚)をどうした!?」


「フフン、有効活用しましたわ!

 ミルカが言ったのです。『この金貨があれば、ライラさんのために最高に素早く、最高にエキサイティングにパンを焼く機械が作れる』と!

 ライラさんの朝食革命……これぞ有意義な散財ですわ!」


 ロザリアは自信満々だった。

 まさか、それが悲劇の幕開けだとも知らずに。


「ちなみにキッド、これ第二形態もあるのよ」

 ミルカが悪魔のような笑みを浮かべ、スイッチに指をかけた。


「第二形態……?」

「うん。パンを焼くだけじゃなくて、対象の口を画像認識し、音速で食道に叩き込む『自動追尾ホーミング給餌モード』」

「やめろォォォ!! それは食事じゃねぇ、拷問だ!!」


「大丈夫、計算通りよ」

 ミルカは眼鏡を光らせ、早口でまくし立てた。

「射出角度45度、初速マッハ0.8。パンの表面積に対する空気抵抗を最小化することで、カリカリ感を損なわずに胃袋へ直送する……完璧な理論(狂気)だわ」


「試運転いくわよ。……ハムとパンを装填」

 ミルカが、キッドの手から食材を奪い取り、黄金の砲台にセットした。


「焼き加減設定:ギャラクシー・バースト。……ファイア!」


 カッ!

 トースターが太陽のように輝き、一瞬でパンとハムが焼ける。

 次の瞬間。


 ズドン!!


 爆音と共に、トーストが音速で射出された。


「うおおっ!?」

 キッドがのけ反る。

 黒い塊となったトーストは、リビングの壁に突き刺さり、ジュゥ……と悲しげな煙を上げた。


 ……。

 …………。


 静寂が訪れた。

 BGMの重低音だけが、虚しく響いている。

 壁に突き刺さったのは、見るも無惨な『ハムの消し炭』だった。


「……どう? インパクトあるでしょ」

「……」


 キッドは答えない。

 ただ、震える手で壁の炭に触れた。


「俺の……俺のハムを……」


 ゆらり、とキッドが振り返った。

 その瞳からハイライトが消えている。


「食材はな……命なんだよ……!

 それを炭にしたってことは……てめぇら、命を二度殺したってことだ……!」


 ゴゴゴゴゴ……!

 キッドの背後に鬼神の如きオーラが立ち昇る。

 それは紛れもない殺意。


「ひぃぃっ!? ち、違いますわキッド! わたくしは『最高のトースト』を頼んだだけで……!」

「問答無用!!」


 キッドが包丁を床に突き立てた。

 【断罪イベント発生】


「被告人、ロザリア・フォン・ローゼンバーグ!

 および実行犯ミルカ!」


「ひっ……!? (なぜわたくしが裁かれますの!?)」


「罪状!

 第一、神聖な厨房をパチンコ屋に変えた『不法侵入・改造罪』!

 第二、なけなしの金貨をドブに捨てた『浪費罪』!

 そして第三……ライラが楽しみにしていたハムを『二度殺し』にした『食材侮辱罪』!!

 万死に値する!!」


「ま、待ってくださいまし! わたくしは騙された被害者……!」

「出資者は同罪だオラァ!! 歯ぁ食いしばれぇぇ!」


 キッドが包丁を構えて迫る。

 ロザリアが「ひぃぃっ! 悪役令嬢が断罪されるのは婚約破棄の時だけですわぁぁ!」と逃げ惑う。


 その時。

 騒ぎを聞きつけたライラが、のっそりと顔を出した。


「……なんかいい匂いする」


 ライラの登場に、ロザリアが救いを求めて駆け寄る。

「ライラさん! 助けてくださいまし! わたくしは貴女様のために、この素晴らしい……!」


「……お腹すいた」


 ライラの言葉が、ロザリアの言い訳を遮った。

 彼女は七色に光るトースターをじっと見つめ、短く、絶対的な命令を下した。


「……早く食べたい」


 その一言で、キッドの殺意がピタリと止まった。

 食の王女グラトニーの絶対命令。

 空腹のライラを待たせることは、料理人として最大の罪。


「……チッ。今回だけは見逃してやる。

 だがなロザリア、これでお前の全財産(金貨一枚)は消えたぞ。明日からどうするんだ?」


「あ……」

 ロザリアの動きが止まる。

 そうだ。ハムは炭になり、キッチンはディスコになり、手元には一銭もない。


「お、オトモ! オトモはいなくて!?

 追加の融資を! あるいは前借りを!」


 振り返ると、そこにはいつの間にかオトモが立っていた。

 手には一枚の紙を持っている。


「残念ながら、融資の枠は一杯です」


 オトモは冷徹に告げた。

「金がないなら、体で払っていただきましょう」


「ひぃっ!? な、何をさせますの!?」


「ご安心を。……健全な『教育』です」


 オトモが広げた紙には、地獄のようなスケジュールが書かれていた。

 早朝マラソン。タイヤ引き。スクワット1000回。


「明日から『新兵矯正訓練ブートキャンプ』を開始します。

 ロザリア様。姫君の側に立つ者は、まず己を律する必要があります。

 ……今の貴女は、金もなく、体力もなく、ただの『光るゴミ(ゲーミングキッチン)』に出資するカモです。

 一から鍛え直して差し上げますよ」


「そ、そんな……ご飯は? ご飯は出ますわよね!?」

 ロザリアが縋るように聞く。


「ええ、もちろん。

 訓練中の食事は『粗食』になります」


 オトモは能面のような笑顔で、ロザリアに死刑宣告を下した。


「朝:塩水

 昼:塩水

 夜:……ご褒美として、塩水です」


「塩しかないですわぁぁぁ!!」


 その瞬間、ロザリアの脳裏に未来の光景がフラッシュバックした。

 芋ジャージ姿で荒野を走る自分。

 重いタイヤを引きずり、泥にまみれ、

 そして震える手で、塩水をすする自分――。


「いやぁぁぁぁ! わたくしは公爵令嬢ですのよぉぉぉ!」


 ロザリアの絶叫が、重低音のBGMにかき消されていった。

 七色に明滅するキッチンの光が、彼女の絶望をドラマチックに演出していた。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・弐号機

【厨房設備】

『ゲーミング・キッチン(パパ・リスペクト)』

 [効果] ライラのテンションUP / キッドのSAN値低下 / ミルカの自己満足MAX

【従業員ステータス】

・ロザリア:【一文無し】出資詐欺に遭い、破産。

 [状態] 明日から塩水生活確定。

【次回予告】

「……塩って、甘いんですね」

極限状態のロザリア。

支給されたのは、人間をダメにする『悪魔の布地ジャージ』だった。

タイヤを引き、荒野を駆ける令嬢の目に映るものは、蜃気楼か、それとも筋肉の神か。


物理攻撃力が上昇する音が聞こえる。

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