第5話 尻の限界と、雷鳥の換羽期
ジュリアと別れて数時間。
『オモテナシ・ゼロ号機』は、相変わらずガタガタと荒野を爆走していた。
だが、店長ライラの顔色は悪い。
「……ねえ、オトモ。限界よ」
「おや、もう空腹ですか? 先ほどアブラッシュから奪った乾パンならありますが」
「違うわよ! 振動! この屋台、サスペンションが死んでるのよ!」
ライラがバンバンと荷台の床を叩く。
無理もない。鉄柱を屋台の四隅に取付たことで、屋台の総重量は倍増。さらにタイヤは木製だ。
路面の凹凸が、ダイレクトに座席(ただの木箱)を直撃しているのである。
「鉄柱のおかげで防御力は上がったけど、これじゃ私のHPがゼロよ! このままだと尻が二つに割れるわ!」
「ご安心ください。店長のお尻は元から割れています」
「物理的に千切れそうだって言ってんの!」
ライラが悲痛な叫びを上げた、その時だった。
キキーッ!
オトモが急ブレーキをかける。
慣性の法則で、ライラの顔面が鉄柱にめり込みそうになる。
「ぶべっ!? ……な、なによ急に! 殺す気!?」
「お客様です。……少々、厄介な方のようですが」
オトモが涼しい顔で指差した先。
街道のど真ん中を、巨大な「帯電する綿毛の塊」が塞いでいた。
「グルルル……コケェェェッ!!」
全長3メートルはある巨大な鳥だ。
全身の羽毛が逆立ち、バチバチと青白い静電気を放っている。その目は血走り、見境なく周囲の岩をつついて粉砕していた。
「なにあれ! 魔物!?」
「『サンダー・コカトリス』ですね。……ふむ、どうやら極度の『換羽期』で気が立っているご様子」
「換羽期?」
「ええ。古い羽が抜けず、新しい羽が皮膚を突き上げる……その強烈な痒みとイライラで、手当たり次第に放電しているのです。近づけば黒焦げですよ」
バリバリバリッ!
コカトリスが激しく身震いし、放たれた雷撃が地面を焦がす。
とても通れそうにない。
「迂回しましょ! あんなのに関わったら尻どころか命が……」
「おやおや。店長、よくご覧ください。あの抜け落ちかけている羽を」
オトモが片眼鏡を光らせる。
「あれは『天雷のダウン』。保温性、弾力性ともに最高ランク。王族の寝具にも使われる逸品です」
「……え?」
「あれを詰め込めば、雲の上のような座り心地……いえ、『極上のクッション』が手に入りますよ?」
ライラの目の色が変わった。
尻の痛みが、物欲に変わる瞬間だ。
「……オトモ」
「はい」
「接客よ。あのお客様を満足させて、対価(羽毛)を頂きなさい」
「仰せのままに」
オトモは屋台から降りると、前回手に入れた戦利品――「検問所の遮断機(太い丸太)」を荷台から引き抜いた。
「コケェッ!?(なんだ貴様やるんか!?)」
殺気立つコカトリス。
だがオトモは、丸太をバトンのように回しながら優雅に歩み寄る。
「痒いでしょう? 届かない背中、私が掻いて差し上げます」
「コ、コケッ!?(電撃食らわすぞ!?)」
「問題ありません。乾燥した木材は電気を通しませんから」
ズドンッ!
オトモが丸太を振り下ろした。
攻撃ではない。コカトリスの背中に、丸太を「麺棒」のように押し当て、強烈な圧で転がしたのだ。
秘技・丸太ローリングマッサージ。
「ここですね? この肩甲骨の間の、生え変わりかけの毛根がムズムズするんですね?」
ゴロゴロゴロゴロ……!!
「コ……コケェェェェ……ッ!!(そ、そこぉぉぉ……!!)」
コカトリスの目が白黒反転した。
絶妙な圧力。丸太の摩擦が、古い角質と羽毛を次々と絡め取っていく。
バリバリと放電していた電気が、心地よいマッサージで霧散していく。
「仕上げです。――『羽毛落とし・乱れ打ち』!」
シュババババッ!
オトモの丸太捌きが加速する。
◇
数分後。
「コケ……(好き……)」
そこには、古い羽がすっかり落ち、ツヤツヤの新しい羽に包まれたコカトリスが、うっとりと地面に伸びていた。
そして周囲には、山のような「最高級ダウン」が雪のように積もっている。
「素晴らしい……! これだけあれば、最高のベッドが作れますよ」
「やったわ! これで私の尻は救われるのね!」
ライラが歓喜の声を上げて飛び出す。
コカトリスは起き上がると、オトモに巨大な頭をすり寄せ、「コケッ(ありがとう)」と短く鳴いて、軽やかな足取りで飛び去っていった。
屋台のタンクに、温かい「ありがとうエネルギー」が満ちていく。
「さて、店長。羽毛は手に入りましたが……」
オトモが大量のダウンを袋に詰めながら言った。
「これを包む『布』がありません。今のカーテンでは目が粗すぎて、羽毛が飛び出してしまいます」
「えぇー……じゃあ、まだお預け?」
「いえ。この先のルートに、ちょうど『織物の街・シルク』があります。そこで最高級のシーツ生地を手に入れましょう」
オトモが優雅に屋台のドアを開ける。
「尻の安息まであと少しです。参りましょう」
「もう、じらすわね……! 出して、オトモ!」
屋台は再び走り出す。
荷台には大量の高級羽毛。そして夢の「ふかふかベッド」への渇望を乗せて。
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【店舗名】
リラクゼーションサロン・オモテナシ
【総合評価】
★0.03 ⇒ ★0.03(変動なし)
・新着口コミ:なし
※お客様が野生動物のため、デバイス操作不可
・特記事項:代わりに「ありがとうエネルギー(ハイオク)」が満タンになりました
【店舗設備】 オモテナシ・ゼロ号機(微改修)
・外装:鉄柱 + 紫カーテン + 丸太(マッサージ棒兼バンパー)
・動力:廃トラクターエンジン(出力全開!)
・積荷:天雷のダウン(最高級羽毛) × 山盛り
【従業員】
・店長:尻のHPが限界突破(瀕死)
・執事:丸太使い(物理マッサージ)
【次回予告】 織物の街と、幻のシーツ。
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