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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第五章 ~亡命したけど金がない! 公爵令嬢(無職)、はじめての庶民ライフ~編
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第48話 亡命令嬢の憂鬱と、赤い毒汁

 コダマ街道の荒野に、朝日が昇る。

 停車したオモテナシ弐号機ヴェアミーリオのリビングで、ロザリア・フォン・ローゼンバーグは目を覚ました。


 慣れない硬いソファ。だが、不思議と体は軽かった。

 隣を見ると、銀髪を爆発させ、口元を緩めて二度寝しようとしているライラがいた。


(……本当に、帝国を捨ててしまったのですね、わたくし)


 ロザリアは小さく微笑み、自らの決断を噛み締めた。後悔は微塵もない。

 そこへ、冷ややかな声と共に黒い影が現れた。燕尾服の執事、オトモである。


「お目覚めですか、ロザリア様」

 オトモは銀のトレイをテーブルに置き、残酷な現実を告げた。


「まず、貴女の資産は国家反逆罪により凍結されました。さらに昨夜の宴会費と私の美学費により、当店の金庫は空です。つまり、我々は今、文無しです」


「……は?」

 ロザリアの優雅な所作が止まる。

「文無し……?では、今日のライラさんのお食事は?おやつは?最高級の和牛は?」


「ありません。あるのはこれだけです。本日の朝食。激辛即席麺レッド・ヌードルです」


「な……!」

 ロザリアは後ずさった。

「……オトモ。わたくし、帝国のあらゆる毒飾を見てきましたが、このような視覚暴力は初めてですわ。これは……兵器ですの?」


「ただのカップ麺です。お湯を入れて三分待つだけですよ」

「三分!?煮込みもせず、出汁も取らず!?そんな魔法のような……いえ、邪法ですわ!」


 ロザリアは公爵令嬢としての常識を揺さぶられながらも、悲壮な覚悟でフォークを手に取り、自分用のカップの紙蓋をめくった。


 ペラッ。

 蓋がめくれ――そして、すぐにクルリと元に戻り、カップを閉じた。


「……?」


 もう一度めくる。ペラッ、クルッ。

 蓋は頑なに、中身を見せまいと元の形状に戻る。熱気で反り返っているだけなのだが、ロザリアの悪役令嬢としてのプライドが過剰に反応した。


 カッ!


「……反逆、ですわね?」


 ロザリアは立ち上がり、扇子でカップ麺を指弾した。その声は、舞踏会場の中央で罪人を告発するが如く、朗々と響き渡る。


「第一の罪!貴様はただの紙切れでありながら、わたくしに情報を隠蔽しようとした不敬罪!」

「第二の罪!主であるライラさんの空腹を妨げようとする業務妨害罪!」

「そして第三の罪!わたくしの優雅な朝を台無しにした精神的苦痛!」


 彼女はフォークを高く掲げ、冷徹に見下ろした。


「被告、最後に言い残すことは?……沈黙。よろしい、ならば有罪ですわ。判決を言い渡します!――死刑!!」


 ドスッ!!

 フォークが蓋を貫き、物理的にねじ伏せた。


「オーッホッホ!わたくしに逆らうからこうなるのですわ!ざまぁみなさい!」


 カップ麺相手に完全勝利したロザリア。だが、肝心の中身を口にする勇気が出ない。匂いだけで鼻が曲がりそうだ。

 その時。


「んー……いい匂い……」


 隣でライラがむくりと起き上がり、自分のカップ麺を掴んだ。ズズッ、と一口啜る。


「辛っ!……でも美味い。やっぱ朝はこれだよねぇ」

「ラ、ライラちゃん!?いけません、そんな下賤なエサを!」


 ロザリアが止めようとするが、ライラは気にせず、残りの麺をフォークで巻き取った。そして、ふー、ふー、と息を吹きかける。


「ほら、ロザリアも食べなよ。……あーん」


 差し出されたフォーク。ライラの吐息がかかったジャンクフード。


(ライラさんが……わたくしに!?しかし、これはどう見ても下賤な……ええい、毒を食らわば皿までですわ!)


 ロザリアは公爵令嬢としての矜持と葛藤しながらも、震える口を開けた。


 パクリ。

 口の中に、ジャンクな旨味と、計算されていない暴力的な塩分が爆発した。


「……ッ!!美味しい……!この暴力的な塩分、そしてライラさんの慈悲深い吐息……!まるで天使と悪魔のワルツですわ!」


「でしょー?美味いっしょ?」

 ライラがニカッと笑う。


「はいっ!世界一ですわライラちゃん!」

 公爵令嬢の常識が、万事屋の非常識にあっさりと敗北した瞬間だった。



 朝食後。

 腹を満たしたロザリアは、鏡を見て絶叫した。


「キャァァァ!ドレスが!ライラさんの隣を歩くためのドレスがボロボロですわ!」


 昨夜の逃走劇で、ドレスは見る影もない。

「これではライラさんの隣を歩けませんわ……!オトモ!新しいドレスを!」


「金はありません」

 オトモは即答し、業務用の銀色ガムテープを取り出した。

「ですが、当店のアフターサービスとして修繕は承りましょう。これはボンテージ・テープと言いまして、最新のパンク・ファッションです」


 ビリッ、ビリビリッ!

 オトモは目にも留まらぬ速さでロザリアの身体にテープを巻きつけ、破れた箇所を安全ピンで留めていく。


「完成です」


 鏡に映ったのは、銀色のテープで補強され、安全ピンがジャラジャラとついた、世紀末の戦闘服のような姿だった。


「……なによこれ。ゴミ捨て場の妖精かしら?」

 ロザリアが顔をしかめ、激しく拒絶した。

「お断りですわ!わたくしは誇り高きローゼンバーグの血を引いた者!こんなあからさまに治安の悪い服を着て、ライラさんの隣を歩けると思いまして!?」


 だが、オトモは囁いた。


「おやおや。ライラ様を守る騎士になりたいのではありませんか?そのドレスなら、棘で敵を威嚇できます。……ライラ様に近づく悪い虫を、物理的に排除するための鎧ですよ」


「……!」

 その言葉に、ロザリアの瞳が輝いた。騎士。ライラさんを守る盾。


「……そうですわね。フフッ、悪くありませんわ」


 ロザリアは胸に手を当て、静かに誓うように呟いた。

「ええ、わたくしはもうカゴの中の鳥ではありませんもの。ライラさんのためなら、わたくし……自ら棘を纏う狂犬となり、敵を噛み殺して差し上げますわ!」


 彼女は振り返り、ライラに向かって胸を張った。

「見てくださいライラさん!この愛の戦闘服を!これからは、わたくしが貴女様の盾となりますわ!」


 ライラはポテチの袋を開けながら、ぼんやりと答えた。

「うん、なんか強そうでいいじゃん。頼もしいよ、ロザリア」


「……っ!!お任せくださいませ!」


 気高さと貧乏臭さ、そしてライラへの巨大な忠誠心が同居する、新生・悪役令嬢。

 文無しとなった万事屋の、新たな混沌の日々が幕を開けた。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)


【店舗名】 万事屋オモテナシ・移動店舗弐号機(逃亡編モード)

【総合評価】 測定不能

・現状:国家反逆罪により資産凍結。手持ち資金ゼロの文無し状態。


【新規メニュー】

『激辛即席麺レッド・ヌードル』

食材:保存食とジャンクな旨味。

効果:公爵令嬢の常識を破壊し、ジャンクフードの沼へ引きずり込む暴力的な塩分。


【従業員ステータス】

店長ライラ:【通常営業】文無しになっても動じず、朝からジャンクフードとポテチを貪る悪徳店長。

執事オトモ:【節約家】ガムテープをパンク・ファッションと言いくるめ、被服費をゼロに抑える悪徳執事。

・ロザリア:【適応開始】カップ麺の蓋を死刑に処す気高さを見せつつ、ジャンクフードの味とガムテープの鎧に順応した新生・悪役令嬢。

【次回予告】

「娘を返せェェェ! パパが来たぞォォォ!」

荒野を爆走する黄金の耕運機。

襲来したのは、ロザリアの父・ゲルハルト公爵だった。

彼は「娘への愛」を込めて、物理的にハムを投げつけてくる!?

次回、パパの暴走は、誰にも止められない。

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