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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
第四章 ~転生ヒロインの「現代知識」? こちらはプロの「おもてなし」です~編
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第45話 敗者の悪あがきと、王子の断罪

 学園祭の夜。

 祭りの熱狂が去り、静寂が戻った校舎の裏手で、一人の少女が暗い情念を燃やしていた。


「ありえない……この私が、あんな悪役令嬢に負けるなんて」


 モモ・ピーチは、踏み荒らされたケーキの残骸の前で、ギリギリと爪を噛んでいた。

 ロザリア・フォン・ローゼンバーグ。転生前の記憶にあるゲームでは、自分を引き立てるための惨めな当て馬だったはずだ。それなのに、あの女は常に毅然としていた。モモがどれだけ愛嬌を振りまいても、媚びず、驕らず、冷ややかな視線で見下ろしてきた。


「目障りなのよ……。シナリオ通りに、泥にまみれて消えなさいよ」


 モモは懐から、一枚の豪奢なカードと、重厚な印章を取り出した。カードは学園祭の売上を横領した裏金。そして印章は――ヘリオス王子の部屋から無断で持ち出した、王家の紋章だ。

 彼女は躊躇なく、帝国の闇へと連絡を入れた。


「……依頼よ。ターゲットはロザリア。金ならいくらでもあるわ。それに、この依頼には王家のバックアップがあるのよ」


 通信機の向こうの相手が、王子の紋章の威光に息を呑む気配がした。

 モモは口角を歪めた。彼女の瞳には、かつての面影など微塵もない。あるのは、自分の物語を邪魔する者を排除しようとする、独善的な殺意だけだった。



 万事屋弐号機、リビング。

 車内は、勝利の余韻というよりは、業務終了後の粛々とした空気に包まれていた。


「……ふん。帝国の紙幣は、血と鉄の臭いがしますね」


 オトモはテーブルに積み上げられた札束を、汚い物を触るような手つきで数えていた。感動などない。これはかつて彼の祖国を滅ぼし、搾取した帝国から奪い返した資源に過ぎない。


「ま、使えるもんは使うさ。復興には金がかかる」

 キッドは愛用の出刃包丁を布で拭っている。分厚い背と、鋭い刃。魚の骨ごと断ち切るための無骨な道具だ。


 窓際で、ロザリアが一人、外の闇を見つめていた。


「……来るわね」

「おや、気配が?」

「ええ。モモは止まりませんわ。あの方にとってわたくしは、物語を汚す不純物でしかないのでしょう」


 ロザリアの声は、凪いだ湖面のように静かだった。もとよりモモに友情など抱いていない。ただ、同じ学園に通う者としての礼節だけは守ってきた。その義理さえ、今はもう必要ないと悟っただけだった。


「おやおや。せっかちなお客様が来るなら、おもてなしの準備をしませんと」

 オトモが眼鏡の位置を直した、その時だった。


 ピタリ、と夜の虫の音が止んだ。

 硝子窓を透過するように、無数の針がロザリアの心臓を狙って飛来する。


 ガィィィンッ!!


 重厚な金属音が響いた。キッドがとっさに突き出した出刃包丁の腹が、針を弾き返していた。


「……ちっ。挨拶もなしかよ」

 キッドがニヤリと笑う。

「躾のなってねぇ客だ。……マナーを教えてやる必要があるな」



 闇の中から、音もなく黒装束の集団が現れた。

 暗殺ギルド静寂の針。帝国の貴族たちが裏の汚れ仕事を依頼する際、最も信頼を置く掃除屋たち。その先頭に立つのは、顔の半分を覆面で隠した巨漢。


「……ほう。俺の針を防いだか」


 千本手のガラン。裏社会でその名を知らぬ者はいない、ギルドの幹部だ。


「ターゲットはロザリア嬢ただ一人。……邪魔をするなら、全員ミンチにする」

 ガランが指を弾くと、鋼鉄をも切り裂く極細のワイヤーが網のように展開された。触れれば肉片になる死の結界。


 だが、キッドは鼻を鳴らしただけだった。


「ワイヤーか。……満腹都市ガーグで解体した、主ベヒモスの剛毛に比べりゃ、木綿糸みてぇなもんだな」


「なに……?」


「三枚おろしだッ!!」


 ゴウッ!!

 キッドの出刃包丁が唸りを上げた。それは切断ではない。圧倒的な質量の魔獣の装甲すら断ち切る技術による、極上の解体だ。

 ガランのワイヤーの結節点を正確に弾き飛ばし、その勢いのまま防刃スーツの留め具を切り裂き、武器を粉砕し、パンツ一丁の姿へと剥いてしまう。


「な、なんだその包丁は……!?俺のワイヤー強度は帝国一だぞ!?」


「魚も人間も一緒だ。お客様の不要な力みは、骨の継ぎ目を外してリラックスさせてやるのが極上のサービスってもんだ」

 キッドが峰打ちを食らわせると、ガランは白目を剥いて崩れ落ちた。


 一方、オトモの方にも数人の暗殺者が殺到していた。

 彼らは連携して死角を取り、雷のような速度で刃を突き出す。

 しかし、オトモは一切の隙を見せず、静かに白手袋の指先を構えた。


「遅いですね。……アビスの真紅の将軍ガニシュカの音速機動を潜り抜けてきた私には、止まって見えますよ」


 オトモが暗殺者の群れへと滑り込む。


「日々の暗殺稼業、さぞお疲れでしょう。首筋のリンパが酷く滞っております。私が極上の指圧で、永遠の眠りへとご案内いたしましょう」


 トントン、スッ。

 流れるような手刀と指圧が、暗殺者たちの急所を的確に突いていく。神速を誇る暗殺者たちは、痛みを覚える間もなく極限の脱力状態へと導かれ、至福の表情を浮かべたまま次々と床に倒れ伏していった。


「殺しはしませんよ。お客様を血で汚すのは三流の接客ですから」

 オトモは冷徹に見下ろした。

「ですが……当店の床を汚した代償は、高くつきますよ?」


 満腹都市、そして深海都市。その常識外れの環境を生き抜いてきた彼らにとって、地上の暗殺者など客ですらない。ただの下処理すべき食材に過ぎなかった。



 数分後。

 中庭には、武器を破壊され、衣服を剥ぎ取られ、至福の表情で気絶した暗殺者たちが積み上げられていた。


「……ふぅ。片付きましたね」

 オトモはガランの懐から、薄い金属板を取り出した。表面には魔力で刻まれた依頼内容と、万事屋の紋章を模した偽造のサインがある。

 オトモがその意味を理解した、その瞬間。


 カッ!!

 強烈なサーチライトが、四方八方から弐号機を照らし出した。


「動くな!貴様らを完全に包囲した!」


 地響きのような足音と共に現れたのは、重装甲で身を固めた帝国の近衛騎士団。そしてその中心に、煌びやかな衣装を纏った集団が立っていた。

 第一皇子、ヘリオス・フォン・ゴルテナ。その脇を固めるのは、生徒会長の宰相息子や、騎士団長の息子といった学園の有力者たち。彼らの瞳は、モモの甘い香りに酔ったように白濁している。


「ヘリオス様ぁ……!ロザリアさんが……ロザリアさんが殺し屋を!」

 ヘリオスの腕の中には、ボロボロのドレスで嘘泣きをするモモがしがみついている。


 王子と取り巻きたちは、地面に転がる男たちの顔を見て戦慄した。帝国の裏社会を知る者なら誰もが恐れるトップエージェントの姿がそこにあった。


「静寂の針……!?ガランだと……!」

「こんな危険な連中、学生が動かせるはずがない!」

「公爵家の権力か……汚い、汚すぎるぞロザリア!」


 取り巻きたちが口々に罵る。彼らの脳内で、誤った論理がカチリと組み上がる。これほど高額で危険なプロ集団をか弱いモモが雇えるはずがない。動かせる人間がいるとすれば、莫大な資産と裏社会へのコネクションを持つ公爵家だけだ。


「ロザリア……!貴様、いつから裏社会と通じていた!?嫉妬に狂い、帝国の影まで利用してモモを殺そうとするとは!」


「殿下、あれを見てください!」

 モモが、オトモの手にある偽造証拠の金属板を指差す。

「あれは……私の店を襲う計画書です!」


「確たる証拠……!」

 ヘリオス王子は専用の美観スキャナー越しにロザリアを睨んだ。スキャナーには、ロザリアの顔に危険因子の赤文字が表示されている。彼にはもう、彼女の素顔など見えていないのだ。


「帝国の美学法に反する者は、生きる資格がない!こやつらは料理人ではない。禁忌の力と暗殺者を使役する、極悪非道な反逆者だ!」


 ガシャッ!

 数十の銃口が一斉に向けられる。遠巻きに見ていた一般生徒たちは、恐怖で声も出せず、ただ震えている。


 絶体絶命の状況。だが、ロザリアは扇子を開き、かつての婚約者をまっすぐに見つめた。

 そこには、愛も、憎しみも、悲しみさえもなかった。ただ、道端の石を見るような無関心だけがあった。


(……ああ。わたくしの心は、とっくに冷え切っていたのですわ)


 かつて彼に向けた熱情が、音を立てて凍りつき、砕け散るのを感じた。今の彼を見ても、心が1ミリも動かない。それが答えだった。


「全員、連行しろ!明朝、公開処刑に処す!」


 王子の号令が響き、騎士たちがロザリアに手錠をかけようと踏み出した、その時。


「……ふぁーあ。うるさいわね。店の前で騒ぐなら、席料取るわよ」


 暗闇の中から、大きなあくびをしながらライラが歩み出てきた。


「なっ、なんだ貴様は!この下賤な者が!」

 王子が顔をしかめるが、ライラは完全に無視してロザリアの前に立った。


「ロザリア。あんた、こんな国にまだ未練あるの?」


「……いいえ。私の心は、もうとっくに冷え切っていますわ。こんな茶番、最後まで付き合ってあげるだけよ」

 ロザリアが憑き物が落ちたような澄んだ瞳で答える。


「そ」

 ライラは不敵な笑みを浮かべ、王子の兵士たちをぐるりと見渡した。


「じゃあ、明日の公開処刑とやらのメインディッシュは、私が作ってあげる。……キッド、オトモ。大人しく捕まりなさい。明日は帝国の連中に、極上の最後のおもてなしをしてやるわよ」


 悪徳店長による、絶対の処刑宣言。

 その言葉を受け、従者たちは静かに武器を収めた。


「……御意」

 オトモが恭しく一礼する。


「へっ、腕が鳴るぜ」

 キッドが口の端を吊り上げる。


 圧倒的な包囲網の中、あえて自ら捕まるという悪徳店長の決断。このピンチは今、万事屋の仕組んだ史上最大のショーへと反転したのだった。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)


【店舗名】 万事屋オモテナシ・移動店舗弐号機(国家反逆者モード)

【総合評価】 エラー

・表の評価:帝国公安局よりS級重要指名手配認定。

・裏の評価:学園裏サイトにて星五つの神評価(※現在、帝国によりアクセス遮断中)。


【ミッション更新】

『敗者の悪あがき、王子の断罪』

状況:モモの策謀と王子の誤解により、万事屋は国家反逆者に認定。店長の命により、あえて捕縛を受け入れる。


【従業員ステータス】

店長ライラ:【完全掌握】公開処刑の場を最高のおもてなしの舞台に指定し、自ら捕まることを命じた絶対的司令塔。

執事オトモ:【指圧師】暗殺者を極上の接客で沈め、店長の命に従い大人しく捕縛される。

料理人キッド:【解体新書】暗殺者の装備を三枚おろしにし、明日の大舞台へ向けて闘志を燃やす。

・ロザリア:【感情凍結】ヘリオス王子への関心度、完全消滅。


【敵対勢力】

・ヘリオス王子&生徒会役員

状態:思考停止。モモのフェロモンにより軽度の洗脳状態。ロザリアを醜い悪と断定し、公開処刑を宣言。

【次回予告】

「ロザリア・フォン・ローゼンバーグ! 国家反逆罪として処刑する!」

夜が明け、荒れ果てた学園祭のステージは、狂気の公開裁判所へと変わっていた……!!


絶体絶命の状況下で、オトモは静かに提案する。

「最後に一つだけ、食事の許可をいただけますか?」


万事屋からの最後の「おもてなし」。

全ての嘘を暴く、真実の晩餐会が始まる。

(続きが気になる方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】で応援をお願いします!)

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