第44話 決戦、学園祭グランプリ
世界は、病んでいた。
東の大国「ゴルテナ帝国」が支配するこの時代、美しさは「数値」で管理され、健康は「義務」として強要されていた。
『帝国健康美学法、第108条。国民は常に清潔で、健康的で、美しくなければならない』
学園祭最終日。
メインステージの空気は、祭りの熱気とは程遠い、張り詰めた緊張感に支配されていた。
「肌年齢プラス2歳。減点だ」
「カロリー過多。君、昨夜は何を食べた? 反省文を提出するように」
現れたのは、帝国の美学省から派遣された審査員たち。
彼らはサングラス型の「美観測定器」を装着し、生徒たちをモノのように品定めしていく。
生徒たちは怯えながら、頬を引きつらせて「完璧な笑顔」を作り続けていた。
ここは祭りではない。将来の階級を決める「査定」の場なのだ。
◇
「エントリーナンバー1番。『エンジェル・カフェ』代表、モモ・ピーチ!」
司会の声と共に、ステージにピンク色の光が降り注ぐ。
現れたモモは、自信満々の笑みを浮かべていた。
「審査員の皆様ぁ♡ これが私の『究極のウェディングケーキ』ですっ!」
運ばれてきたのは、パステルカラーのクリームで彩られた、高さ2メートルはある巨大なケーキタワー。
頂上には、砂糖菓子で作られた天使が舞っている。
確かに美しい。だが、それはどこかプラスチックのような、無機質な美しさだった。
「ふむ……スキャン開始」
審査員が片眼鏡を向ける。
ピピピッ。
『美観ランク:S』
『栄養バランス:完全適合』
『有害カロリー:ゼロ』
「おお……素晴らしい!」
審査員たちが感嘆の声を上げた。
「見た目の美しさに加え、成分も帝国推奨の『完全栄養食』に基づいている! これぞ、帝国の求める『正しい食』だ!」
「でしょぉ? 現代の科学技術で、糖質と脂質を全部カットして、代わりに『幸せになる粉』をたっぷり入れたんですから!」
モモは勝ち誇った顔で、客席のロザリアを見下ろした。
彼女のケーキは、帝国のシステムに完璧に適応した「模範解答」。
数値至上主義の世界において、彼女の勝利は約束されている――はずだった。
◇
「エントリーナンバー2番。『万事屋オモテナシ』代表……キッド!」
ドォォォォン!!
重低音と共に、ステージの床が軋んだ。
屋台を引いて現れたのは、コックコートの袖をまくり上げ、不敵な笑みを浮かべたキッド。
そして、その屋台の上には――。
「な、なんだあの物体は……!?」
審査員が絶句した。
それは、茶色かった。
圧倒的に、暴力的に、茶色かった。
深海牛の挽肉と、アビスの玉ねぎを練り合わせ、最高級のラードで揚げたメンチカツ。
それが数十段に積み上げられ、巨大な塔となっている。
滴り落ちる肉汁。立ち昇る香ばしい(そして脂っこい)匂い。
モモのケーキが「天使」なら、これは間違いなく「魔王」の食べ物だった。
「品名は?」
「『深海牛のギガント・メンチカツタワー』だ」
キッドは包丁を突き刺し、言い放った。
「汚らわしい! なんだその茶色い塊は!」
審査員が顔をしかめ、スキャナーを向けた。
「美とは秩序だ! 均整だ! 数値だ! こんな高カロリーな汚物が、評価されるとでも――」
ピピッ。
ブブブブッ……!
「ん? なんだ?」
『エラー! エラー!』
『計測不能』
『生命力過多! 生命力過多!』
スキャナーから煙が上がった。
パリンッ!
サングラスのレンズが、内側からの圧力に耐えきれずに砕け散る。
「なっ……私のスキャナーが!? バカな、帝国の最新鋭機器だぞ!?」
「計測不能だと……? この料理、一体どれだけのエネルギーを秘めているんだ!?」
狼狽える審査員たち。
その混乱を切り裂くように、キッドの声が響いた。
「数値? 健康? 美学? ……うるせぇよ」
彼は熱々のメンチカツを素手で掴み、審査員の目の前に突きつけた。
「飯ってのはな、数値を満たすための『エサ』じゃねぇんだよ」
キッドの瞳が、獣のようにギラリと光る。
「一口食えば脳みそが痺れて、明日死んでもいいと思えるくらい美味ぇ……だからこそ、俺たちは今日を生きていけるんだよッ!!」
それは、管理社会への宣戦布告だった。
カロリーという名の生命力の爆発。
「食ってみな。……飛ぶぞ」
圧倒的な気迫に押され、審査員長が震える手でメンチカツを口に運んだ。
カリッ。
サクサクの衣が弾け、中から熱々の肉汁が奔流となって溢れ出す。
その瞬間。
「――――ッ!!?」
審査員長の目が見開かれ、白目が剥かれた。
脳内を駆け巡る、暴力的なまでの旨味。脂の甘み。スパイスの刺激。
帝国の「完全栄養食」という味気ない飼料で飼い慣らされた舌に、原子爆弾が投下されたような衝撃。
「あ……あぁ……!」
審査員長が膝をついた。
そして、空に向かって絶叫した。
「カロリーうめぇぇぇぇぇッ!!!」
それが、合図だった。
会場中の理性が決壊した。
「なんだあの匂い! 我慢できねぇ!」
「ケーキなんて食ってる場合じゃねぇ! 肉だ! 肉をよこせぇぇ!」
「数値なんて知るかぁぁぁ! 俺は生きるぞォォォ!」
生徒たちがステージに雪崩れ込む。
執事部隊が優雅に(しかし迅速に)メンチカツを切り分け、配っていく。
一口食べた者は皆、涙を流して天を仰ぎ、あるいは踊り狂った。
そこにはもう、作り笑いの仮面などない。あるのは、食欲という原初の欲望を解放した、人間本来の「生きた顔」だった。
◇
「うそ……やだ……」
狂乱の宴の片隅で、モモは立ち尽くしていた。
自慢のウェディングケーキは、肉を求める生徒たちの波に飲まれ、無残に踏み荒らされている。
「なんでよ……私の数値は完璧だったのに! 帝国の基準に従ってる私が、負けるわけないのよ!」
「基準? そんなもの、最初から壊れているのよ」
冷ややかな声。
ロザリアが、優雅にメンチカツサンドを頬張りながら立っていた。
口の端についたソースをナプキンで拭い、哀れなヒロインを見下ろす。
「帝国の美学なんて、もう古いわ。
……これからは、私たちの時代よ」
「いやぁぁぁ! バグよ! こんなのバグだわぁぁぁ!」
モモの絶叫は、歓喜の咀嚼音とかき鳴らされる皿の音にかき消された。
美の独裁は崩れ去り、中庭には茶色い革命の旗が翻ったのだった。
■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】 万事屋オモテナシ・移動店舗弐号機(革命軍本部モード)
【総合評価】 ★SSS(Revolutionary)
・学園内の評価:「カロリーの神」「茶色は正義」「もはや宗教」
・帝国の評価:「危険思想団体(要監視対象)」
【ミッション完了】 『決戦、学園祭グランプリ』
・結果:万事屋オモテナシの圧勝。
・要因:規格外の熱量による、帝国の美学測定器の物理的破壊。
【新規メニュー】 『深海牛のギガント・メンチカツ』
[食材] アビスの深海牛 / 魔界のラード
[カロリー] 計測不能(Infinite)
[効果] 食べた瞬間、理性が飛び、生存本能が暴走する。
副作用として「明日への活力」と「体重増加(幸せの重み)」が付与される。
【従業員ステータス】
・店長:【満腹】「やっぱ茶色は正義だね。……あ、モモのケーキもちょっと食べた」
・執事:【黒字確定】革命の熱気をそのまま「集金」に利用中。
・料理人:【完全勝利】自らの料理哲学を証明し、ドヤ顔が止まらない。
・スポンサー(ロザリア):【覚醒】悪役令嬢の殻を破り、
帝国に喧嘩を売る「革命の女神」へと進化。
【敵対勢力】
・モモ・ピーチ:【再起不能……?】
[状態] 自身のアイデンティティ(数値・設定)を全否定され、精神崩壊中。
[現在地] 踏み荒らされたケーキの残骸の中。
[思考] 「許さない……絶対に許さない……!!」
【Next Mission】
勝負には勝った。だが、まだ「権力」との戦いが残っている。
モモが最後の切り札を切る時、事態は国家規模へ発展する。
【次回予告】
「うわぁぁぁん! 殿下、聞いてください! ロザリアさんがテロリストを雇って、私を殺そうとしたんです!」 プライドを粉々にされたモモは、なりふり構わぬ「冤罪工作」に出る……!?
茶番は終わりだ。 ここからは、命懸けの「断罪劇」が始まる。
(続きが気になる方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】で応援をお願いします!)




