表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
~転生ヒロインの「現代知識」? こちらはプロの「おもてなし」です~編
44/44

第44話 決戦、学園祭グランプリ

 世界は、病んでいた。

 東の大国「ゴルテナ帝国」が支配するこの時代、美しさは「数値」で管理され、健康は「義務」として強要されていた。


『帝国健康美学法、第108条。国民は常に清潔で、健康的で、美しくなければならない』


 学園祭最終日。

 メインステージの空気は、祭りの熱気とは程遠い、張り詰めた緊張感に支配されていた。


「肌年齢プラス2歳。減点だ」

「カロリー過多。君、昨夜は何を食べた? 反省文を提出するように」


 現れたのは、帝国の美学省から派遣された審査員たち。

 彼らはサングラス型の「美観測定器スキャナー」を装着し、生徒たちをモノのように品定めしていく。

 生徒たちは怯えながら、頬を引きつらせて「完璧な笑顔」を作り続けていた。


 ここは祭りではない。将来の階級を決める「査定」の場なのだ。



「エントリーナンバー1番。『エンジェル・カフェ』代表、モモ・ピーチ!」


 司会の声と共に、ステージにピンク色の光が降り注ぐ。

 現れたモモは、自信満々の笑みを浮かべていた。


「審査員の皆様ぁ♡ これが私の『究極のウェディングケーキ』ですっ!」


 運ばれてきたのは、パステルカラーのクリームで彩られた、高さ2メートルはある巨大なケーキタワー。

 頂上には、砂糖菓子で作られた天使が舞っている。

 確かに美しい。だが、それはどこかプラスチックのような、無機質な美しさだった。


「ふむ……スキャン開始」


 審査員が片眼鏡を向ける。

 ピピピッ。


『美観ランク:S』

『栄養バランス:完全適合』

『有害カロリー:ゼロ』


「おお……素晴らしい!」

 審査員たちが感嘆の声を上げた。

「見た目の美しさに加え、成分も帝国推奨の『完全栄養食』に基づいている! これぞ、帝国の求める『正しい食』だ!」


「でしょぉ? 現代の科学技術チートで、糖質と脂質を全部カットして、代わりに『幸せになる粉』をたっぷり入れたんですから!」


 モモは勝ち誇った顔で、客席のロザリアを見下ろした。

 彼女のケーキは、帝国のシステムに完璧に適応した「模範解答」。

 数値至上主義の世界において、彼女の勝利は約束されている――はずだった。



「エントリーナンバー2番。『万事屋オモテナシ』代表……キッド!」


 ドォォォォン!!


 重低音と共に、ステージの床が軋んだ。

 屋台を引いて現れたのは、コックコートの袖をまくり上げ、不敵な笑みを浮かべたキッド。

 そして、その屋台の上には――。


「な、なんだあの物体は……!?」

 審査員が絶句した。


 それは、茶色かった。

 圧倒的に、暴力的に、茶色かった。


 深海牛の挽肉と、アビスの玉ねぎを練り合わせ、最高級のラードで揚げたメンチカツ。

 それが数十段に積み上げられ、巨大な塔となっている。

 滴り落ちる肉汁。立ち昇る香ばしい(そして脂っこい)匂い。

 モモのケーキが「天使」なら、これは間違いなく「魔王」の食べ物だった。


「品名は?」

「『深海牛のギガント・メンチカツタワー』だ」


 キッドは包丁を突き刺し、言い放った。


「汚らわしい! なんだその茶色い塊は!」

 審査員が顔をしかめ、スキャナーを向けた。

「美とは秩序だ! 均整だ! 数値だ! こんな高カロリーな汚物が、評価されるとでも――」


 ピピッ。

 ブブブブッ……!


「ん? なんだ?」


『エラー! エラー!』

計測不能アンメジャラブル

『生命力過多! 生命力過多!』


 スキャナーから煙が上がった。

 パリンッ!

 サングラスのレンズが、内側からの圧力に耐えきれずに砕け散る。


「なっ……私のスキャナーが!? バカな、帝国の最新鋭機器だぞ!?」

「計測不能だと……? この料理、一体どれだけのエネルギーを秘めているんだ!?」


 狼狽える審査員たち。

 その混乱を切り裂くように、キッドの声が響いた。


「数値? 健康? 美学? ……うるせぇよ」


 彼は熱々のメンチカツを素手で掴み、審査員の目の前に突きつけた。


「飯ってのはな、数値を満たすための『エサ』じゃねぇんだよ」


 キッドの瞳が、獣のようにギラリと光る。


「一口食えば脳みそが痺れて、明日死んでもいいと思えるくらい美味ぇ……だからこそ、俺たちは今日を生きていけるんだよッ!!」


 それは、管理社会への宣戦布告だった。

 カロリーという名の生命力の爆発。


「食ってみな。……飛ぶぞ」


 圧倒的な気迫に押され、審査員長が震える手でメンチカツを口に運んだ。

 カリッ。

 サクサクの衣が弾け、中から熱々の肉汁が奔流となって溢れ出す。


 その瞬間。


「――――ッ!!?」


 審査員長の目が見開かれ、白目が剥かれた。

 脳内を駆け巡る、暴力的なまでの旨味。脂の甘み。スパイスの刺激。

 帝国の「完全栄養食」という味気ない飼料で飼い慣らされた舌に、原子爆弾が投下されたような衝撃。


「あ……あぁ……!」


 審査員長が膝をついた。

 そして、空に向かって絶叫した。


「カロリーうめぇぇぇぇぇッ!!!」


 それが、合図だった。

 会場中の理性が決壊した。


「なんだあの匂い! 我慢できねぇ!」

「ケーキなんて食ってる場合じゃねぇ! 肉だ! 肉をよこせぇぇ!」

「数値なんて知るかぁぁぁ! 俺は生きるぞォォォ!」


 生徒たちがステージに雪崩れ込む。

 執事部隊が優雅に(しかし迅速に)メンチカツを切り分け、配っていく。

 一口食べた者は皆、涙を流して天を仰ぎ、あるいは踊り狂った。

 そこにはもう、作り笑いの仮面などない。あるのは、食欲という原初の欲望を解放した、人間本来の「生きた顔」だった。



「うそ……やだ……」


 狂乱の宴の片隅で、モモは立ち尽くしていた。

 自慢のウェディングケーキは、肉を求める生徒たちの波に飲まれ、無残に踏み荒らされている。


「なんでよ……私の数値は完璧だったのに! 帝国の基準に従ってる私が、負けるわけないのよ!」

「基準? そんなもの、最初から壊れているのよ」


 冷ややかな声。

 ロザリアが、優雅にメンチカツサンドを頬張りながら立っていた。

 口の端についたソースをナプキンで拭い、哀れなヒロインを見下ろす。


「帝国の美学なんて、もう古いわ。

 ……これからは、私たちの時代よ」


「いやぁぁぁ! バグよ! こんなのバグだわぁぁぁ!」


 モモの絶叫は、歓喜の咀嚼音とかき鳴らされる皿の音にかき消された。

 美の独裁は崩れ去り、中庭には茶色い革命の旗が翻ったのだった。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・移動店舗弐号機(革命軍本部モード)


【総合評価】 ★SSS(Revolutionary)

・学園内の評価:「カロリーの神」「茶色は正義」「もはや宗教」

・帝国の評価:「危険思想団体(要監視対象)」


【ミッション完了】 『決戦、学園祭グランプリ』

・結果:万事屋オモテナシの圧勝。

・要因:規格外の熱量カロリーによる、帝国の美学測定器の物理的破壊。


【新規メニュー】 『深海牛のギガント・メンチカツ』

 [食材] アビスの深海牛 / 魔界のラード

 [カロリー] 計測不能(Infinite)

 [効果] 食べた瞬間、理性が飛び、生存本能が暴走する。

    副作用として「明日への活力」と「体重増加(幸せの重み)」が付与される。


【従業員ステータス】

店長ライラ:【満腹】「やっぱ茶色は正義だね。……あ、モモのケーキもちょっと食べた」

執事オトモ:【黒字確定】革命の熱気をそのまま「集金」に利用中。

料理人キッド:【完全勝利】自らの料理哲学を証明し、ドヤ顔が止まらない。

・スポンサー(ロザリア):【覚醒】悪役令嬢の殻を破り、

              帝国に喧嘩を売る「革命の女神」へと進化。


【敵対勢力】

・モモ・ピーチ:【再起不能リタイア……?】

 [状態] 自身のアイデンティティ(数値・設定)を全否定され、精神崩壊中。

 [現在地] 踏み荒らされたケーキの残骸の中。

 [思考] 「許さない……絶対に許さない……!!」


【Next Mission】

 勝負には勝った。だが、まだ「権力」との戦いが残っている。

 モモが最後の切り札を切る時、事態は国家規模へ発展する。

【次回予告】

「うわぁぁぁん! 殿下、聞いてください! ロザリアさんがテロリストを雇って、私を殺そうとしたんです!」 プライドを粉々にされたモモは、なりふり構わぬ「冤罪工作」に出る……!?


茶番は終わりだ。 ここからは、命懸けの「断罪劇」が始まる。

(続きが気になる方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】で応援をお願いします!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ