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『おもてなしが過ぎる! ~亡国の王女と最強執事の、ボロ屋台からはじめる接客無双~』  作者: 家守 慈絵夢
~転生ヒロインの「現代知識」? こちらはプロの「おもてなし」です~編
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第43話 深海の食材と、地上の魔法

 翌日の昼休み。

 学園の中庭に、異様な光景が広がっていた。


「いらっしゃいませ、お嬢様」


 モモの「エンジェル・カフェ」へ向かおうとしていた女子生徒たちの前に、黒い壁――いや、一糸乱れぬ燕尾服の集団が立ちはだかったのだ。

 新生・執事部隊(元・ロザリアのクラスメイト)である。


「え、ちょっ……なに?」

 戸惑う女子生徒に、先頭の執事ノエルがスッと日傘を差し出し、無表情で告げた。


「本日の紫外線指数は『危険』レベルです。そのような無防備な状態で直射日光を浴びる行為は、五年後の肌年齢を著しく低下させます」

「えっ……ご、五年後……!?」


 別の執事バルドが、ハイヒールで歩く生徒の前に膝をつき、足首を凝視する。


「失礼。歩行リズムに乱れを確認。ふくらはぎの疲労度が40%を超えています。これ以上の立ち歩きは、夕方の『むくみ』の原因となりますが……よろしいので?」

「むくみ!? やだ、絶対やだ!」


「でしたら、当店へ。人間工学に基づいたフカフカのソファと、完璧な空調をご用意しております」


 それは単なる勧誘ではない。

 オトモが叩き込んだ、相手の弱点(美容・老化・疲労)を数値化して突きつける「軍隊式・合理的接客」だった。

 「優しさ」ではなく「冷徹な分析」によって危機感を煽られ、女子生徒たちは次々と万事屋のテラス席へと吸い込まれていく。



「……くそっ、やっぱ分かってねぇ!」


 厨房で、キッドがバンッとカウンターを叩いた。

 客は席に着いた。だが、肝心の注文が入らないのだ。


「なんで『パンケーキ』が無いんだ、とか言われてやがる。……俺のコロッケサンドの何が不満なんだ!」

「見た目じゃない?」

 ライラがポテチを齧りながら答える。


「茶色いし」

「茶色!? 馬鹿野郎! 茶色は『メイラード反応』の色だ! アミノ酸と糖が加熱されて生まれた、旨味の結晶の色だろうがッ!」


 キッドの料理人としての魂の叫び。

 しかし、SNS映えに毒された現代っ子には届かない。


「おやおや。嘆いていても始まりませんよ」


 オトモが厨房に入ってきた。その手には電卓があり、冷徹に数字を弾いている。


「味では勝っていますが、視覚情報《映え》で負けています。……ならば、『映え』などどうでもよくなるほどの『実利』で釣るしかありません」

「実利?」


「ええ。女子生徒が『映え』以上に渇望するもの。……それは『美』です」

 オトモは不敵に微笑み、ライラに目配せをした。


「店長、アレを出してください」

「えー、アレ美味しいから私が食べたいのに」

「我慢してください。先行投資です」


 ライラが渋々、保冷庫の奥から「それ」を持ってきた。

 ドサッ。

 まな板の上に置かれた物体を見て、近くにいたロザリアが「ひっ!」と悲鳴を上げた。


「な、なによそれぇぇぇ!?」


 それは、ドロドロとした粘液にまみれた、巨大なゼリー状の塊だった。

 表面には無数の「目玉」がついており、時折パチパチと瞬きをしている。さらに、切断された触手が未だにピクピクと動いていた。


「『虹色クラゲ(アビス・ジェリー)』。深海8000メートルに生息する魔物よ」

 ライラは平然と、目玉の部分を指でほじくり出した。

「ほらキッド、この目玉食べる? 口の中でプチッて弾けて美味しいよ?」


「いらねぇよ! つまみ食いすんな!」

「い、いやぁぁぁ! こっち向けないでぇぇ!」

 ロザリアが涙目で後ずさる。


「グロいな。だが……」

 キッドが包丁を握る。その目に職人の光が宿る。

「こいつの『皮』さえ剥いちまえば、話は別だ」


 シュパッ!

 目にも留まらぬ包丁捌き。

 一瞬にしてグロテスクな皮と目玉が取り除かれると――中から現れたのは、宝石のように七色に輝く、透明でプルプルの身だった。


「成分分析完了」

 ミルカがゴーグルを光らせる。

「高純度マリンコラーゲンと、深海魔素の結晶体。……摂取すると細胞分裂が活性化して、肌年齢が強制的にマイナス5歳になるわ。理論値最強の美容食ね」


「よし。こいつで『スープ』を作るぞ」



 数分後。

 テラス席の空気が一変した。

 運ばれてきたのは、キッド特製『深海の宝石スープ(ジュエル・コンソメ)』。

 黄金色のスープの中で、七色の具材がキラキラと輝いている。


「え……なにこれ、綺麗……」

 肌荒れに悩んでいた一人の女子生徒が、恐る恐るスプーンを口に運ぶ。


「……っ! おいしい!」


 上品なコンソメの味。そして、ゼリーのような具材が口の中で弾けた瞬間、濃厚な旨味が広がる。

 だが、真の驚きはその直後に訪れた。


「えっ……? なんか、視界が明るい……?」

「きゃあ! ちょっと、顔! 顔見て!」


 友人が叫び、手鏡を突きつける。

 鏡に映っていたのは――物理的に発光する自分の肌だった。


「うそ!? 毛穴が……消滅してる!? ていうか、ツルツルすぎて光を反射してるんだけど!?」

「私の髪も見て! 勝手にキューティクルが復活してる!」

「す、すごい……自撮りライトがいらないわ!!」


 効果は劇的すぎた。

 くすんでいた肌は陶器のように白くなり、荒れていた唇は潤い、全身から微弱な光《魔素》が漏れ出している。

 アビスの過剰な滋養強壮効果が、地上の人間の細胞を無理やり「全盛期」へと若返らせたのだ。


「飲むエステだ!」

「モモちゃんのパンケーキ食べてたら肌荒れたけど、これ飲んだら治った!」

「店員さーん! 私にもそのスープください! あとタッパーに入れて持ち帰りで!」


 もはや「映え」などどうでもいい。

 そこにあるのは、美を求める女子たちの凄まじい執念だった。



「……は?」


 向かいの「エンジェル・カフェ」で、モモ・ピーチは呆然としていた。

 自分の店に並んでいた行列が、波が引くように消え、全員が万事屋の方へと雪崩れ込んでいく。


「なによ、あのアイテム……」

 モモは爪を噛んだ。ギリリ、と付け爪が嫌な音を立てる。


「攻略サイトにも載ってない……。あんなチートアイテム、データにないわよ!」

「モモちゃん、どうしたの?」

「うるさい! ……バグよ、こんなのバグだわ! 私が負けるわけないのに!」


 モモは虚空に向かって叫んだ。

「運営! 見てるんでしょ!? 早く修正パッチ当てなさいよ! ヒロインが負けるルートなんて存在しないんだからァ!!」


 彼女の「ゲーム脳」が、現実との乖離に耐えきれず、エラーを起こし始めていた。



 満席となり、活気に溢れる万事屋のテラス席。

 その中央で、ロザリアは優雅に紅茶を傾けていた。


「ふふっ。見たかしら? これが『本物』の力よ」


 彼女は扇子で口元を隠し、かつての宿敵であるモモの店を冷ややかな目で見下ろした。


「見ていなさい、ピンク色の雑菌さん。

 あなたの席なんて、最初からこの学園には用意されていないのよ」


「ええ。その通りです」

 オトモが背後で恭しく頷く。


「ようやくスタートラインですね。……さあ、ここからが商売の本番《搾取》ですよ」


 執事の眼鏡がキラリと光る。

 反撃の狼煙は上がった。

 次は、この勢いのまま学園祭のメインイベントを制圧する時だ。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)


【店舗名】

万事屋オモテナシ・移動店舗弐号機(学園祭出張モード)


【総合評価】

★4.8(Revolution!)

・新着口コミ:「毛穴が消えた!」

       「自撮りライト不要!」

       「執事さんの分析が的確すぎて怖いけど好き」

・売上:美容スープの爆発的ヒットにより黒字転換。


【新規メニュー】

『深海の宝石スープ(ジュエル・コンソメ)』

 [食材] 虹色クラゲ(※調理前は閲覧注意。ライラのおやつ)

 [効果] 肌年齢マイナス5歳 / 瞬間美肌 / 発光(物理)

 [価格] 時価(ロザリア価格)


【従業員ステータス】

店長ライラ:【不満】「私のクラゲが減っていく……目玉食べたかったのに」

執事オトモ:【参謀】合理的な接客マニュアルを随時更新中。

料理人キッド:【複雑】スープは売れたが、コロッケが売れていないので不満顔。

・スポンサー(ロザリア):【完全復活】毒舌悪役令嬢としての「傲慢な輝き」を取り戻す。


【敵対勢力】

・モモ・ピーチ:【錯乱】

 [状態] 未知のアイテムの登場により、シナリオ崩壊の恐怖を感じ始めている。

 [発言] 「運営に報告してやる……! バグだバグだバグだ!」


【次回予告】

「このままじゃ終われない……!」

追い詰められたモモは、ついに禁断の奥の手を使う……!?


最終決戦。勝つのは「魔法の甘味」か、「至高の旨味」か!

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