第42話 執事と、地獄のブートキャンプ
深夜。
万事屋弐号機の裏手に設置された、防音仕様のコンテナ倉庫。
そこで、数人の男子生徒たちが目を覚ました。
「う、うーん……ここは……?」
「僕たち、モモちゃんのライブ帰りに、路地裏で何か黒い影に襲われて……」
縛られているのは、ロザリアのクラスメイト──
かつて彼女の周りに群がっていた「薔薇の派閥」の面々だった。
意識がはっきりするにつれ、彼らは自分たちの状況に気づき、戦慄した。
全員、頑丈なパイプ椅子にロープで拘束されているのだ。
「おやおや。お目覚めですか、産業廃棄物の皆様」
カツン、カツン。
スポットライトが点灯し、軍服のような意匠を取り入れた燕尾服姿の男――オトモが現れた。
手には、青白い火花を散らす黒い棒『愛の鞭』が握られている。
「な、なんだ君は! 僕たちを解放しろ!」
「解放? 勘違いなさらないでください」
オトモは氷のような微笑を浮かべ、鞭をバチィッ! と空で鳴らした。
「昨夜、貴方がたを丁寧に回収させていただいたのは、あくまで『修理』のため。 これより、貴様らの腐りきった性根を徹底洗浄いたします」
◇
「まずは解毒だわ」
次に現れたのは、ガスマスクを装着したミルカだった。
手には、ドロドロとした緑色の液体が入ったバケツを持っている。
「成分分析の結果、あなたたちの脳内は『ピンク色の毒』で汚染されてる。 まずはこれを飲んで、強制的に排出してもらう」
「な、なにそれ……臭っ!? 腐った雑巾みたいな臭いがするぞ!」
「アビスの深層海藻と、強力な発汗作用のある薬草をブレンドした特製スムージーよ。……飲みなさい」
ミルカは無慈悲にも、漏斗を生徒の口に突っ込み、緑色の液体を流し込んだ。
「んぐっ!? ごぼぁぁぁぁ!!?」
地獄の嚥下音が響く。
数秒後。
「あ、あつ……熱い!! 体が燃えるようだ!!」
「理論通りね。体温を3度上昇させて、代謝を極限までブーストしてるの」
ミルカが淡々と解説する。
生徒たちの毛穴という毛穴から、尋常ではない量の汗が噴き出した。
それは驚くべきことに、薄っすらとピンク色を帯びていた。
「うわ、汚い。……やっぱり脳まで浸食されてたわね。全部出し切りなさい」
◇
一時間後。
毒素を出し切り、ボロ雑巾のようにぐったりとした生徒たちの前に、再びオトモが立った。
「毒は抜けましたね。ですが、まだ身体がガタガタです。
背筋が曲がっている。口角が下がっている。……美しくありません」
オトモが眼鏡を光らせる。
「これより、焼き切れた神経回路を繋ぎ直します。……少々、刺激が強いですよ?」
バチィッ!!
「アッーーー!!」
一番端の生徒が、電流の直撃を受けて悲鳴を上げた。
「痛いですか? それは貴方の表情筋が凝り固まっている証拠です」
オトモは平然と言い放つ。
「この『愛の鞭』は、低周波治療器の五百倍の出力で筋肉を直接刺激し、強制的に理想の姿勢へと矯正する器具です。
さあ、口角を30度上げなさい。背筋を伸ばしなさい。……遅いッ!」
バチバチバチッ!!
「ひいぃぃぃ! イエス・サー!!」
「声が小さい! 腹から出しなさい!」
バチィッ!!
「イエス・マイ・ロード!!!」
◇
その光景を、マジックミラー越しに見ている二人の少女がいた。
「……ねぇ、ライラちゃん。これ、犯罪じゃないの?」
ロザリアが青ざめた顔で呟く。
目の前で行われているのは、教育という名の拷問だ。白目を剥きながら笑顔の練習をさせられているクラスメイトを見て、彼女は震え上がっていた。
「ん? 大丈夫だよ。オトモの『おもてなし』は、たまに行き過ぎるけど結果は出すから」
ライラはポテチをむしゃむしゃと食べながら、他人事のように言った。
「見てみなよ。あの子たちの目、変わってきたでしょ?」
確かに、最初は恐怖に怯えていた生徒たちの目に、奇妙な光が宿り始めていた。
極限状態の中で、余計な思考が削ぎ落とされ、純粋な「規律」だけが注入されていく。
◇
さらに数時間後。
姿勢矯正、発声練習、皿洗い一千枚ノック……。
地獄のメニューをこなし、生徒たちは心身ともに限界を迎えていた。毒は抜けたが、エネルギーも空っぽだ。
「……腹減った……」
「もう動けない……」
そこへ、ガチャンと扉が開いた。
漂ってきたのは、暴力的なまでに食欲を刺激する香り。
「休憩だ。……ほらよ、特製『深海牛のビーフカレー』だ」
キッドが巨大な寸胴鍋を運び込んできた。
アビスのスパイスと、深海牛の髄から取った濃厚なフォンドボー。
それは単なる食事ではない。
「食え。砂糖で麻痺した脳みそを、本物の『旨味』で叩き起こしてやる」
生徒たちは、飢えた獣のように皿に飛びついた。
スプーンで一口、カレーを口に運ぶ。
その瞬間。
「ッ……!?」
カッ!
生徒たちの目が大きく見開かれた。
複雑玄妙なスパイスが血流を駆け巡り、濃厚な旨味が枯渇した脳細胞に染み渡る。
「う、うまい……! なんだこれ……味がする! 本当の味がするぞぉぉ!」
「体が熱い! 力が……力が湧いてくる!!」
彼らは泣きながらカレーを貪り食った。
モモの与えていた、脳を溶かすだけの砂糖菓子とは違う。
これは生きるための、戦うための「生命の味」だ。
「キッドさん……いや、兄貴! おかわりを!」
「おう。欲しけりゃ魂を売れ。これからは俺たちの兵隊だ」
生徒たちは涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を上げ、敬礼した。
「「「一生ついていきます兄貴ィィィ!!」」」
◇
翌朝。
眩しい朝日が差し込む中庭に、黒い集団が整列していた。
「……えっ?」
ロザリアが目を疑った。
そこにいたのは、昨日の腑抜けた男子生徒たちではない。
制服のシワ一つなく、背筋は定規のように真っ直ぐ。
顔つきは精悍そのもので、その瞳には一点の曇りもない「忠義」の光が宿っている。
「おはようございます、ロザリアお嬢様」
オトモが優雅に一礼すると、背後の生徒たちも一糸乱れぬ動きで最敬礼をした。
ザッ!
「諸君、我々の敵は?」
オトモが静かに問う。
「「「ピンク色の泥棒猫ッ!!」」」
腹の底から響く、重厚なコーラス。
「我々の使命は?」
「「「ロザリア様への絶対忠誠ッ!! 滅私奉公ッ!!」」」
「……(ドン引き)」
ロザリアはあまりの変貌ぶりに後ずさった。
もはや執事というより、特殊部隊だ。
「よろしい」
オトモは満足げに頷き、眼鏡の位置を直した。
「それでは、反撃を開始します。
……あのふざけたカフェに、『本物』の接客を見せつけてやりなさい」
「「「イエス・マイ・ロード!!」」」
新生・執事部隊の出撃。
その足音は、軍隊の行進のように学園中庭に響き渡った。
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【店舗名】 万事屋オモテナシ・移動店舗弐号機(学園祭出張モード)
【総合評価】 ★計測不能(Revolution)
・現状:学園内の評判は最悪ですが、「最強の地上部隊」が完成しました。
【店舗設備】 『ヴェアミーリオ(弐号機)』
・裏庭:特設ブートキャンプ施設(撤収済み)。
・厨房:キッドのカレーにより「洗脳解除」の聖地と化す。
【新規獲得ユニット】
『新生・執事部隊(薔薇の派閥)』 [人数] 12名
[状態] 覚醒(Awakening)/絶対忠誠
[装備] 完璧に着こなされた燕尾服/鋼の精神
[特技] イエス・マイ・ロード/モモの誘惑無効化
(※キッドの飯以外受け付けない体質へ変化)
【従業員ステータス】
・店長:【高みの見物】
ポテチ片手に教育を鑑賞。
・執事:【鬼教官(満足)】
修理完了した「作品」の仕上がりに悦に入る。
・料理人:【食の教祖】
胃袋を掌握し、部下たちから「兄貴」と崇拝される。
・整備士:【毒抜き担当】
科学的根拠に基づいた地獄を提供。
・スポンサー(ロザリア):【ドン引き】
あまりの変貌ぶりに恐怖するも、希望を見出す。
【敵対勢力】
・モモ・ピーチ:【転生ヒロイン】
[状態] 万事屋が再起不能になったと思い込み、
油断してタピオカを飲んでいる。
[認識] 「あの野蛮な店? もうオワコンでしょ(笑)」
【ミッション完了】
『緊急メンテナンス:精神構造の再構築』
・成果:ロザリアのクラスメイトの洗脳解除および強化改造。
・報酬:忠実なる下僕たち、反撃の準備完了。
【次回予告】
「いらっしゃいませお嬢様。……最高の紅茶はいかがですか?」 生まれ変わった執事たちの完璧すぎる接客に、女子生徒たちが次々と陥落して……!?」
飯テロ×接客無双。 ここから先は、万事屋のターンだ!
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