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第38話 地上への切符と、鋼鉄の怪物

 将軍ガニシュカとの決戦から、数ヶ月が過ぎた。


 アビスの深海には、かつてないほど穏やかな時間が流れていた。

 スラムとカジノを隔てていた壁は取り払われ、瓦礫の撤去と新たな街づくりが急ピッチで進んでいる。

 そんな復興の槌音が心地よく響く広場の中央に、巨大な幕で覆われた「山」が鎮座していた。


「お待たせ。……紹介するわ」


 白衣をオイルとすすで真っ黒にしたミルカが、誇らしげにロープを引く。


「これが、新生・万事屋オモテナシ。私たちの新しい『店』よ!」


 バサァァァッ!!


 幕が切って落とされる。

 現れたのは、深海の闇に燃え上がるような、鮮烈な「朱色ヴェアミーリオ」の巨体だった。


「うおっ……!? で、デカくなってねぇか!?」

 キッドが口をあんぐりと開けて見上げる。


 それは、以前の壱号機を遥かに凌駕する威容だった。

 将軍ガニシュカの脱皮した最強の甲羅を極限まで研磨・加工し、美しい流線型に仕上げた装甲車。

 サイズは大型バスやトレーラーに匹敵する。その分厚い装甲と、車体側面に見え隠れする「折り畳まれた多脚アーム」が、ただの車ではないことを主張していた。


 万事屋オモテナシ弐号機『ヴェアミーリオ』。

 深海の王の鎧を纏った、地上最強の移動店舗だ。


「おいおい、こんなデカくて大丈夫かよ? 小回り利かねぇぞ?」

 キッドが尋ねると、ミルカはフンと鼻を鳴らした。


「壱号機は急造で狭かったでしょ? 今回は『居住性と厨房機能』を最優先したの。

 それに、デカくても問題ないわ。今回のコンセプトは『どこへでも出張できる』。路地裏だろうが戦場だろうが、道がなければ作ればいいのよ」


 プシュウゥゥ……。

 重厚なエア音と共にガルウィングが開き、タラップが降りる。

 中は、外見の武骨さとは裏腹に、超一流ホテルのロビーのような広々とした空間が広がっていた。


「すっごーい! 広い! キッチンも倍の広さ!」

 ライラが目を輝かせて飛び込む。


 厨房には、魔力で火力を調整できる『紅蓮の魔導コンロ』に、深海の濾過技術を応用した無限に清水が出る『無限水蛇ウロボロスの蛇口』まで完備されている。

 これなら、大規模のパーティ料理も余裕でこなせる。


「そして、これが心臓部よ」

 ミルカが運転席のコンソールを指差す。

 そこには、オクトヴィア王女から託された「高純度魔力結晶」が、壱号機の残骸から回収した金を再構築した黄金回路の中で、脈打つように輝いていた。


「名付けて『感情共鳴型・魔導ハイブリッドエンジン』」

「ハイブリッド?」


「そう。勘違いしないでね。魔力結晶はあくまで、クソ重い甲羅を動かすための『増幅装置』」

 ミルカがビシッとライラに釘を刺す。


「燃料は今まで通り、『お客様の感謝オモテナシ・パワー』が必要よ。

 機体がデカくなった分、燃費も最悪。感謝が尽きれば、こいつはただの巨大な鉄屑。……サボったら即ガス欠だからね?」


「うっ……結局、倍働かなきゃいけないのね……」

 ライラががっくりと肩を落とす。


「その代わり、以前の純金回路を強化した『黄金オーバードライブ』も復活させたわ。

 一時的に魔力と感謝を直結させて、超加速が可能よ。……ただし、回路が焼き切れるから『一日二回』まで」


「十分です」

 背後から、落ち着いた声が響いた。

 燕尾服をビシッと着こなしたオトモだ。

 数ヶ月前には全身包帯まみれだったが、今は傷一つない完璧な姿に戻っている。


「オトモ! もう体はいいの?」

「ええ。アビスの温泉療法と、ミルカ様の怪しげな再生カプセルのおかげで、以前よりも調子が良いほどです」


 オトモが白手袋を締め直し、愛おしそうに真新しいハンドルに手を置いた。


「それでは、参りましょうか。……次なるお客様の元へ」



 アビスの出口となる「大縦穴」の前には、多くの見送りが集まっていた。


「行ってらっしゃい。……いつでも帰っていらっしゃい」

 王女オクトヴィアが、慈愛に満ちた瞳で告げる。


「我ガ分身(甲羅)ヲ、頼ミマシタゾ」

 その隣で、赤いロングコートを着た巨漢――人間態の将軍ガニシュカが敬礼する。

 中身はムキムキだが、その表情は穏やかだ。


「ふん……せいぜい野たれ死ぬなよ」

 ジャックは少し離れた場所で、皿洗いの手を止めて悪態をつく。その目は少し寂しそうだった。


「行ってきます! お土産、いっぱい持って帰ってくるから!」

 ライラが大きく手を振る。


 ブオオオオオンッ!!

 弐号機のエンジンが咆哮を上げる。

 現在出力、100%。アビス全員からの「ありがとう」で満タンだ。


「案内は任せな! あんたらのおかげで、俺もアビスの市民権を得られたからな!」


 弐号機の前を泳ぐのは、かつて一行をアビスへ運んだ『巨大提灯アンコウ』だ。

 彼が先導し、弐号機は地上へと続く激流の縦穴へと突入する。


 ドゴォォォォォ……!

 上から落ちてくる海水は、まさに滝。普通の車なら押し潰される水圧だ。


「水流が強すぎますね。……では、変形します」

 オトモがレバーを倒す。


「モードチェンジ。『クラブ・クライム(カニ登り)』」


 ガシャン! ガキンッ!

 弐号機の側面から、鋭利な爪を持つ多脚アームが展開された。

 その爪が岩壁に突き刺さり、巨体を垂直に固定する。


「うおおっ!? 壁を走ってる!?」

 キッドが叫ぶ。

 弐号機は激流をものともせず、ワシワシと岩壁を這い上がっていく。車内は将軍の甲羅とサスペンションのおかげで、驚くほど揺れない。


「快適すぎて眠くなるぜ……」

「さあ、見えてきましたよ」


 頭上に、小さな光の点が見える。

 それは次第に大きくなり、青く輝き始めた。


「掴まってください! 抜けますよ!」


 ズバァァァァァァァァンッ!!


 弐号機が海面を割り、勢いよく空へと飛び出した。

 水しぶきが虹を作る中、着水した車体からフロートが展開され、波間に浮かぶ。


「…………っ!」


 ライラがサンルーフを開けて、身を乗り出した。

 そこには、どこまでも広がる青い空と、水平線。

 そして、アビスにはなかった、眩しい太陽があった。


「眩しい……! それに……」


 ライラが大きく息を吸い込む。


「空気が美味しい! お日様の味がするわ!」


 味覚を取り戻した彼女にとって、潮風も、陽の光も、すべてが極上のフルコースだった。


「ふふっ。地上編の開幕ですね」

 オトモがサングラスをかけ、ハンドルを切る。

 目指すは近くに見える大きな港町だ。



 タイヤ走行に切り替えた弐号機は、港町の入り口へと差し掛かった。

 久々の陸地。久々の賑わい。

 ライラが胸を躍らせた、その時だった。


 ザッ! ザッ! ザッ!


 統率の取れた足音と共に、武装した兵士たちが道を塞いだ。

 彼らの胸には、大陸を支配する大国――『ゴルテナ帝国』の紋章が輝いている。


「止まれ! その不審な車両!」


 数十の槍と銃口が、一斉に弐号機へと向けられた。

 太陽の下、新たな波乱の幕が開く。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)


【店舗名】 万事屋オモテナシ・移動店舗弐号機

【車両名】 『ヴェアミーリオ(朱色)』

【総合評価】 ★3.80(新装開店!)

【現在地】 地上・ゴルテナ帝国貿易港


【ステータス更新】

・ライラ:【地上到達】太陽の味に感動中。

・オトモ:【完全復活】運転・戦闘・執事、全機能オールグリーン。

・弐号機:【稼働開始】壱号機の2倍サイズ。魔力×黄金×感謝のハイブリッド駆動。


【次回予告】

第四章『学園の狂騒と、悪役令嬢の晩餐会』開幕!

ついに地上へ戻った万事屋一行!

しかし、そこで待っていたのは帝国の検問!?

いきなりピンチかと思われたその時、現れたのは――。


「あら、久しぶりね。田舎者さん?」


ライラの過去を知る強烈な幼馴染(悪役令嬢)」が登場!?

舞台は名門貴族が集う「聖ガルディア学園」。

華やかな学園祭の裏で渦巻く「ざまぁ」の予感。

次章も、過剰なサービスで皆様をお待ちしております!

(気に入っていただけたら、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いします! 新章のエネルギーになります!)

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