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第33話 激走キッチンと、垂直の特攻

 「……いいか、時間はねぇ。調理と移動を同時にやるぞ」


 ウミウシの里。

 キッドが、見るも無惨な姿に変わり果てたオモテナシ壱号機のボンネットを叩いた。

 先日の落下と将軍への攻撃で、自慢のミスリルアームは根元から粉砕され、サスペンションは完全に死んでいた。

 だが今は、装甲の隙間に生きたウミウシがパテのように埋め込まれ、タイヤには長老クラスの巨大ウミウシが巻き付いている。

 ウミウシの弾力と粘着力だけで形を保っている、動くヘドロの塊だ。


「同時にって……どういうこと?」


 ライラが首をかしげる。

 荷台には、ウミウシの消化液(強酸)がなみなみと注がれたドラム缶が据え付けられている。


「このドラム缶を鍋にする。

 エンジンの排熱でスープを加熱し、壁を走る振動で攪拌かくはんする。

 ……そして、頂上に着く頃には、将軍の殻を溶かす最強の『龍のドラゴン・ドロル』が完成してるって寸法だ」


 キッドが狂気的な笑みを浮かべ、運転席に飛び乗った。

 ハンドルを握る手には包帯が巻かれている。あの一撃の反動で骨にヒビが入っているはずだが、アドレナリンで痛みをねじ伏せていた。

 彼は、見送りに立つミルカと、その奥の寝台で、全身を粘液に包まれて眠るオトモに視線を送る。


「ミルカ、オトモを頼む。……絶対に勝って帰るからな」


「ああ。ここには指一本触れさせないよ。行ってきな!」


 ミルカが力強く頷く。

 後顧の憂いはない。

 エンジンが咆哮を上げる。目指すは頭上数百メートル。カジノの排熱ダクト、その垂直の壁だ。


「野郎共、ランチタイムだッ! しっかり捕まってな!!」


 ブオオオオオオオオッ!!


 壱号機が発進する。

 ウミウシタイヤの吸着力が、物理法則を無視して壁面に食らいつく。

 重力が背中を襲うが、車体は落ちない。

 垂直の壁を、猛スピードで駆け上がり始めた。


「きゃあああああっ!? 落ちる落ちる落ちるッ!!」


 ルルが悲鳴を上げ、ライラにしがみつく。


「ビビるんじゃねぇ!

 いいか、この振動がスパイスを混ぜ合わせるんだ!

 右にカーブ! 遠心力で酸を馴染ませろッ!!」


 キッドがハンドルを強引に切る。

 車体が大きく傾き、ドラム缶の中の液体が激しく波打つ。

 エンジンの熱がドラム缶に伝わり、酸が不気味な泡を吹き始めた。


 ジュゴゴゴゴ……!


「熱っ!? キッド、お尻が熱い!」


「我慢しろ店長! 今は強火フルスロットルだ!」


 だが、ダクトの中は平坦ではない。

 上からは灼熱の蒸気と、カジノ崩壊の余波で瓦礫や生ゴミが雨のように降ってくる。


「前方、瓦礫の雨! 視界不良です!」

 ルルが叫ぶ。


「チッ、邪魔くせぇ!

 ……だが見えたぜ、俺の通るべき『調理ライン』が!」


 キッドはアクセルを緩めない。

 落ちてくるパイプ椅子や壊れたスロット台を、最小限のハンドルさばきで回避する。

 その動きは、まるで食材の筋を見極め、包丁を入れる料理人のそれだった。


 キィィィィィンッ!!


 その時、蒸気の向こうから殺気。

 スチーム・バット(蒸気コウモリ)の群れだ。

 鋼鉄のように硬化した翼を持つ害獣が、壱号機に特攻を仕掛けてくる。


食材てきのお出ましだ! 店長、迎撃!」


「任せなさい!」


 ライラが立ち上がる。

 彼女は武器など持っていない。持っているのは、底なしの胃袋だけだ。

 前回の敗北、オトモが倒れた無力感。それらが全て「飢餓」へと変換されていた。


「邪魔よッ!!」


 ライラは飛来したコウモリを、なんと空中で素手で鷲掴みにした。

 そして――


 ガブッ!!


「キィッ!?」


「んぐっ……! 硬いけど、中は蒸し焼きになってて美味しい!」


 バリバリと音を立てて咀嚼する。

 その野性味あふれる捕食シーンに、後続のコウモリたちが恐怖で軌道を逸らす。


「ルルも食べる? スモークチキンみたいよ?」


「い、いいえ! 私はナビに集中しますから!」


 ルルが涙目で叫び、歌うように声を張り上げる。


 ♪――――!

 反響音ソナーが、蒸気の奥にある「赤い光」を捉えた。


「キッドさん! 前方300メートル!

 ダクトの側面に、すごい熱源反応!」


「ビンゴだ! そこが最後の食材売り場だ!」


 キッドがさらに加速する。

 目指す先に、マグマのように赤く輝く植物の群生地が見えた。


 サラマンダー・ペッパー。

 これさえあれば、スープは完成する。


「熱い……! 近づくだけで火傷しそう!」


 ルルが顔を覆う。

 壱号機の装甲すら歪むほどの熱気。普通の人間なら即死レベルだ。


「止まるなキッド! 私が取る!」

 ライラがボロボロの耐熱シートを頭から被り、身を乗り出した。


「店長!? 死ぬぞ!」


「オトモがいない今、体張れるのは私しかいないでしょ!」


 壱号機が群生地をかすめる一瞬。

 ライラは灼熱の果実に手を伸ばし、素手で茎を鷲掴みにした。


 ジュッ!!


 皮膚が焼ける音。激痛。

 だが、ライラは笑った。


「捕まえたわよ……この激辛野郎!!」


 ブチィッ!!

 力任せに引きちぎり、そのままドラム缶の中へ放り込む。


 ドボンッ!!


 瞬間、ドラム缶の中身が爆発的な化学反応を起こした。

 紫色の煙が噴き出し、強烈な刺激臭が充満する。

 鉄のドラム缶が、内側から溶け始め、悲鳴を上げている。


「完成だ……!

 全てを溶かす禁断のスープ、『龍のドラゴン・ドロル』!!」


 キッドが叫ぶと同時に、壱号機はダクトの出口――カジノの裏口(崩落した穴)へと飛び出した。


 ドォォォォンッ!!


 空中に躍り出る壱号機。

 眼下には、将軍ガニシュカの駐屯地が広がっている。

 そこでは、脱皮不全の痛みに狂った将軍が、周囲の岩盤に体を打ち付け、のたうち回っていた。


『グオオオオオオッ! イタイ! クルシイ! ダレカ、コロシテクレェェェッ!!』


 暴れるたびに衝撃波が走り、大地が砕ける。

 まさに災害。

 だが、キッドはブレーキを踏まなかった。

 アクセルをベタ踏みし、ドラム缶のバルブに手をかける。


「へッ……望み通りにしてやるよ!

 受け取りな……痛み止めの『出前』だ!!」


 キッドがバルブを一気に開放する。

 完成したばかりの熱々の『龍の涎』が、空中の壱号機から将軍の頭上へ、滝のように降り注ぐ。


「食らいな……特製激辛ソースだッ!!」


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】 万事屋オモテナシ・革命軍

【総合評価】 ★2.80(変動なし)

【現在地】 カジノ裏・上空(垂直落下中)


【ステータス更新】

・キッド:【調理運転】習得。負傷した腕で、走りながら煮込む荒技を成功させる。

・ライラ:【火事場のクソ度胸】。素手で激辛の実を採取。

・壱号機:限界突破。ウミウシの粘液だけで形を保っている状態。


【次回予告】

第34話『裸の王と、真紅の暴走』。

溶ける甲羅。現れる絶望。

真の地獄は、殻を破った後に始まる。

 走りながら煮込む!

 空中でコウモリを食う!

 素手で激辛の実をもぎ取る!

 これぞ万事屋オモテナシ流の「3分クッキング」です。(※絶対に真似しないでください)

 ついにスープが完成し、暴れる将軍の頭上からぶっかけることに成功しました。

 ですが、これで終わる将軍ではありません……。

 「展開が熱い!」「続きが読みたい!」と思っていただけたら、

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 (キッドの運転技術に免じて、星をいただけると嬉しいです!)

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