第24話 深海の関所と、フジツボの砲台
スラムの熱狂は、そのまま進軍の足音へと変わった。
先頭を行くのは『オモテナシ壱号機』。
その後ろには、数百人のスラム連合軍が続く。彼らは武器こそ持っていないが、その体には「健康」という活力が、瞳には「自由」への渇望が宿っていた。
「目指すは上層、カジノエリア! 歌姫ルルと、店長の味覚を取り戻す!」
「おおおおおっ!!」
キッドが運転席でハンドルを握りながら叫ぶ。
だが、その行く手には、アビス・ベガスの階級社会を象徴する巨大な障害が立ちはだかっていた。
【第3隔壁・嘆きの門】。
スラムの汚れた空気が上層に行かないよう、完全に遮断する厚さ10メートルの鋼鉄の壁。
そして、その壁一面にびっしりと張り付いている、無数の不気味な突起物。
「……なんだあれ? 火山?」
ライラが目を凝らす。
ドォォォォン!!
突如、突起物の先端が開き、爆発的な水流弾が発射された。
壱号機の装甲が衝撃で揺れる。
「ぐわっ!? 砲撃か!?」
「いいえ、あれは生物です」
オトモがモニターを拡大する。
壁に張り付いていたのは、岩のように硬い殻を持つ巨大フジツボたちだった。
「ゲゲゲ……! ここは通さんぞ、下等生物ども!」
中央の巨大フジツボから、陰湿な声が響く。
第3隔壁守備隊長、バーナクル男爵。
彼は壁と一体化し、そこから動くことはないが、鉄壁の防御力と固定砲台としての火力を持っていた。
「俺様の殻は、ダイヤモンドより硬い! そしてこの壁からは絶対に剥がれん! 貴様らはそこで、俺様の唾(水流弾)でも浴びてな!」
ドガガガガッ!!
無数のフジツボから一斉射撃が始まる。
スラム連合軍は瓦礫の陰に隠れるしかない。
「くそっ! あの殻、硬すぎて石なんかじゃ傷一つ付かねぇ!」
「近づこうにも、雨あられと撃ってきやがる!」
膠着状態。
オトモが冷静に分析する。
「……やっかいですね。フジツボは『接着』の達人。無理に剥がそうとすれば壁ごと崩壊し、生き埋めになりかねません」
「オトモの拳で割れないの?」
「割れますが、中の身まで潰してしまいます。……貴重な『食材』がもったいない」
オトモが意味ありげに調理場の方を向いた。
「食材……?」
キッドが反応する。
彼はモニターに映るフジツボの大群をじっと見つめた。
硬い殻。岩に張り付く接着力。
普通なら「攻略不可能な要塞」に見える。
だが、料理人の目には――それは「巨大な酒蒸しの山」に見えていた。
「……へっ。なるほどな」
キッドがニヤリと笑い、調理場から一本の「特殊な道具」を持ち出した。
それは、ミルカが壱号機の修理パーツと高圧ポンプを組み合わせて作った、試作段階の武器。
【高水圧・調理用カッター(ウォーター・ピーラー)】
「おい執事! ハンドル代われ! ……あいつらの『殻剥き』は俺がやる!」
キッドが壱号機の屋根へと飛び出した。
手にはホース状のノズルが握られている。
「バーカ! 生身で出てきて蜂の巣になりたいか!」
バーナクル男爵が嘲笑い、砲門をキッドに向ける。
「蜂の巣? ……いや、これからは『食べ放題』の時間だぜ!」
キッドがノズルを構える。
ブシュウウウウウッ!!
放たれたのは、針のように細く、鋭い高圧水流。
だが、キッドはそれを殻の表面には当てない。
狙ったのは――フジツボが壁に張り付いている、わずか数ミリの「接地面の隙間」。
「料理の基本だ! 貝類を剥がす時は、殻と身の間に刃を入れる!」
【キッド流奥義・三枚おろし・改『高圧殻剥がし《ハイプレッシャー・ピーリング》』】
水流の刃が、フジツボの接着面を正確無比に切り裂いた。
岩をも砕く水圧が、テコの原理で作用する。
「なっ、なに……!? 足元が……!?」
パカッ! ポロロッ!
あれほど強固に張り付いていたフジツボたちが、次々と壁から剥がれ落ちていく。
まるで熟れた果実が木から落ちるように。
「ひぃぃ!? 俺様の絶対防御が!?」
「次は隊長、お前だ!」
キッドが水圧を最大にする。
男爵の巨大な殻の隙間に、水の刃が滑り込む。
「ちょ、待て! 俺は貴族だぞ! こんな……うわあああ!」
スポォォォン!!
小気味良い音と共に、バーナクル男爵が壁から剥がされ、宙を舞った。
そして――
ドサッ!
落下地点には、いつの間にかミルカが用意していた「巨大な熱湯鍋(移動式)」が待ち構えていた。
「アチチチチッ!? 茹でられるゥゥゥ!」
「一丁あがり!」
キッドが親指を立てる。
壁から敵がいなくなったことで、門は沈黙した。
「す、すげぇ……!」
「あの要塞を、一瞬で『調理』しちまったぞ!?」
スラム連合軍が歓声を上げる。
恐怖の対象だった門番は、今やただの「茹で上がった巨大食材」と化していた。
「さあ、みんな! 戦闘の後は腹ごしらえだ!」
ライラが鍋の前に立つ。
「フジツボって、見た目はアレだけど……カニとエビの中間みたいな味で、めちゃくちゃ濃厚なのよ!」
その言葉に、スラムの住人たちが生唾を飲む。
倒した敵を食べる。
それは野蛮な行為ではない。命をいただき、血肉に変え、さらに強く進むための儀式。
茹で上がった男爵(の殻の中身)から漂う、暴力的なまでに美味そうな香り。
ライラは、味はしないが、その湯気だけで確信した。
――これは、勝てる味だ。
「いただきます!」
「「「いただきます!!!」」」
関所の前で、まさかの大宴会が始まった。
満腹になった革命軍の士気は、もはや止めようがないほどに高まっていた。
そして、その様子を遠くから見ていたロブスター兵が、無線機を握りしめ、ガタガタと震えていた。
「……ほ、報告します! 関所が突破されました!
奴らは……奴らは、我々『甲殻族』を、ただの『食材』として見ています!
……喰われます! 我々も、あのように調理されるのです!」
恐怖は伝染する。
「硬さ」を誇りとしてきた彼らにとって、「殻を剥かれて食べられる」ことこそが、最も根源的な恐怖だったのだ。
関所突破。
ついにオモテナシ一行は、煌びやかな地獄――カジノエリアへと足を踏み入れる。
■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】
万事屋オモテナシ・革命軍
【総合評価】
★1.10(↓↓↓暴落)
・革命軍:関所突破&現地調達成功で評価は上昇。
・しかし――
甲殻族側のG-Logが“集団パニック”に突入。
「我々は食材にされる」という恐怖が全軍に拡散し、
士気・統率・戦意が 壊滅を通り越して“崩壊”。
逃亡者が続出し、軍の機能が停止寸前。
その結果、敵勢力の評価が “深刻なマイナス圏”に落ち込み、
総合値が暴落した。
【エンジン出力状況】
・ステータス:中出力(MIDDLE)
・現在出力:55%
・特記事項:フジツボ男爵の出汁エネルギーを吸収。高出力武装が解禁間近。
【従業員状態】
・料理長:
状態:覚醒(Peeler)。「甲殻類キラー」の称号を獲得。
・店長:
状態:宴会部長。“奪われる恐怖”を、敵を食べることで乗り越えつつある。
・執事:
状態:冷静に次の手を読む。
「次は……『感覚』を取り戻す番です」
【獲得スキル・アイテム】
・スキル『高圧殻剥がし』:あらゆる付着物・装甲を剥がす調理術。
・食材『大量の巨大フジツボ』:濃厚な出汁が出る。精力増強効果あり。
【現在のクエスト】
『メインクエスト:カジノ王への挑戦状』
・目的地:カジノ・ロワイヤル最上階。
・ターゲット:クラブ・ジャック。
・目的:ライラの「味覚」奪還。
【次回予告】
奪われた五感たち。
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