表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/44

第23話 硬化病と、パンデミック

 スラムが燃えた夜から、数日。

 『万事屋オモテナシ』の治療院は瓦礫の山となり、一行は指名手配犯として追われる身となった。


 だが、彼らは逃げなかった。

 スラムのさらに奥深く、廃棄された地下水道エリアに、新たな拠点を構えていたのだ。


「……ひでぇ有様だな」


 キッドが顔をしかめる。

 地下水道には、無数の魚人たちが横たわっていた。

 彼らの体は、まるで石像のように灰色に変色し、ピクリとも動かない。

 関節が固まり、エラが石灰化し、呼吸すらままならない状態だ。


 【進行性・生体硬化症ストーン・スキン】。

 通称「硬化病」。今、スラムで爆発的に流行している奇病だ。


「……痛い……体が、動かねぇ……」

「助けて……息が……」


 硬くなった皮膚がひび割れ、そこから体液が滲む。

 それは「硬さこそ正義」とするアビスにおいて、皮肉にも最も恐れられる死に方だった。


「原因は明白ですね」


 オトモが、水道の水を試験管ですくい、光にかざした。

 水は白く濁り、底にはキラキラと光る結晶が沈殿している。


「上層《カジノ街》からの排水です。軍部や富裕層が使った『硬化剤』の廃液が、ろ過もされずにここに垂れ流されている」


「あいつら……! 自分たちは硬くなって強くなったつもりだろうけど、そのツケを下層に押し付けてるだけじゃない!」


 ライラが憤る。

 軍部は「強い兵士」を作るために薬を打ち、その副作用を含んだ汚水をスラムに捨てていたのだ。

 スラムの住人は、文字通り「社会の毒」を飲まされて石になっていく。


「……おい、人間!」


 その時、一人の魚人が足を引きずりながら近づいてきた。

 以前、オトモに石を投げたチンピラの一人だ。だが今は、右半身が石のように変色している。


「お前ら……医者なんだろ? こいつらを……俺の家族を治せるか?」


 彼の背後には、完全に石化して動かなくなった幼い子供が抱えられていた。

 以前のような敵意はない。あるのは、藁にもすがる思いだけ。


「軍の病院に行っても『金のない奴は診ない』って……『硬くなれて良かったな』って笑われたんだ……!」


 悔し涙を流す魚人。

 ライラはオトモを見た。

 オトモは静かに頷き、白手袋を締め直した。


「……準備はいいですね、皆様」


「おうよ! これだけの人数、まとめて『下処理』してやるぜ!」

「中和剤の散布準備完了! 派手にいくわよ!」


 オモテナシ一行が動く。

 それは隠れながらの治療ではない。

 スラム全体を救う、大規模な「集団施術マス・オペレーション」の開始だ。


「壱号機、スピーカー最大出力! ……これより、強制治療を開始します!」


 オトモの声が地下水道に響く。

 同時に、ミルカが開発した「強力軟化ガス(お酢成分配合)」が噴射された。

 白煙が充満し、魚人たちが「酸っぱい!?」と目を丸くする。


「さあ、踊りますよ!」


 オトモが残像を残して駆けた。

 シュババババッ!!

 その動きは、もはや目視できない。

 横たわる患者たちの間を風のように駆け抜け、すれ違いざまに全身のツボを連打していく。


 【オモテナシ流・連弾ガトリング・解し】


 百裂拳のような指圧。

 石灰化した関節に衝撃を与え、ヒビを入れ、可動域を強制的に開放する。


「ぐあっ! ……あ? 動く!?」

「腕が……曲がるぞ!」


 さらにキッドが続く。

 巨大な鍋で作った「特製ヌルヌル海藻スープ」を、ひしゃくで豪快に配っていく。


「飲め! 内側から粘膜を保護しろ! 硬くなったエラを潤すんだ!」


 ライラも走る。

 味覚のない彼女だが、今は一人一人に声をかけ、背中をさすり、スープを飲ませる。


「大丈夫! 柔らかくなるのは悪いことじゃない! 生きてる証拠よ!」


 数時間後。

 地下水道は、うめき声ではなく、驚きと安堵の声で満ちていた。

 数百人の石化患者たちが、肌の色を取り戻し、互いの「柔らかい体」を抱き合って喜んでいる。


「治った……本当に……」

「人間が……俺たちを助けたのか?」


 その時だ。

 

 ガシャーン!!


 水道の鉄格子が破られ、再びロブスター親衛隊が現れた。

 数は50。重武装だ。


「発見したぞ! 反逆者どもだ!」

「貴様ら! 勝手に『廃棄物』を修理するな! 石になった魚人は、そのまま砕いて道路の舗装材にする予定だったんだぞ!」


 隊長の言葉に、スラムの空気が凍りついた。

 舗装材。

 自分たちの命は、道路の砂利程度の価値しかなかったのか。


「……確保しろ! 抵抗するならスラムごと吹き飛ばせ!」


 ロブスターたちが銃口を向ける。

 オトモが前に出ようとした、その瞬間。


 ザッ……!


 オトモの前に、壁ができた。

 それは、今しがた治療を終えた魚人たちだった。

 チンピラも、老婆も、子供も。

 武器など持っていない彼らが、オトモたちを庇うように立ちはだかったのだ。


「……手出しはさせねぇ」


 先ほどのチンピラが、震える足で踏ん張り、ロブスターを睨みつけた。


「俺たちは舗装材じゃねぇ……生きてるんだ!」

「この先生たちは、俺たちを『柔らかく』してくれた! お前らみたいなカチカチの石ころに、渡してまるか!」


「なっ……貴様ら、下等生物の分際で軍に逆らう気か!?」


「うるせぇ! 硬いのがそんなに偉いなら、一生石にでもなってろ!」


 ウオオオオオオッ!!

 民衆が雄叫びを上げた。

 それは恐怖による悲鳴ではない。初めて自分たちの尊厳のために上げた、「革命の叫び」だった。


 ドクン……ドクン……ドクンッ!!


 壱号機のエンジンが、かつてないほど激しく脈打った。

 数百人の感謝。そして「生きる意志」。

 莫大なエネルギーが奔流となって駆け巡る。


 【エンジン出力:20% → 45%】


「……見えますか、店長」


 オトモが、立ち上がった民衆の“柔らかな盾”を見つめ、静かに微笑んだ。


「柔らかいものは、脆いわけではありません。……集まれば、どんな鎧よりも強靭な『波』になる」


 民衆の蜂起。

 数の暴力に恐れをなしたロブスター隊が、たじろぎ、後退していく。


「お、覚えてろ! 増援を呼んで皆殺しにしてやる!」


 捨て台詞を吐いて逃げ帰る軍部。

 スラムに、勝利の歓声が響き渡った。


 だが、これは始まりに過ぎない。

 ライラは、歓喜の輪の中で、上層のカジノ街を見上げた。


「……待ってて、ルル。今度は私たちが、あんたを助けに行く番よ」


 スラムは統一された。

 次なる標的は、この腐った「硬化社会」の中枢。

 カジノ街への、殴り込みである。


■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)

【店舗名】

万事屋オモテナシ・革命軍

※治療院から組織へと進化しつつある。


【総合評価】

★2.50(↑爆増!)

・スラムのパンデミックを解決し、数百人の信奉者を獲得。

・顧客満足度:スラム住民「柔らかいって最高だ! ★5.0」


【エンジン出力状況】

・ステータス:中出力(MIDDLE)

・現在出力:45%

・特記事項:民衆の熱狂により出力大幅アップ。壱号機の「武装変形」の一部が使用可能に。


【従業員状態】

・リーダー(ライラ):

 状態:カリスマ覚醒中。民衆の希望の星となる。

参謀オトモ

 状態:指揮官モード。カジノ攻略の作戦を立案中。

・キッド&ミルカ:

 状態:大量調理と調合で疲労困憊だが、士気は高い。


【現在のクエスト】

『メインクエスト:アビス・ベガス攻略戦』

・目的:上層エリアへの進軍。

・障害:スラムと上層を隔てる巨大関所「フジツボ・ゲート」。

・戦力:オモテナシ一行 + スラムの有志たち。


【次回予告】

深海の関所・フジツボの砲台。

本日のおもてなしは、いかがでしたでしょうか?


当店のサービスにご満足いただけましたら、ぜひ、「お客様アンケート(ご感想、評価)」や「次回のご予約ブックマーク」をお願いいたします。


お客様からの温かいお声が、オトたちの「過剰なおもてなし」をさらに加速させる燃料となります!

次回も、極上のサービスをご用意してお待ち申し上げております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ