第18話 爆走! 黄金の夜逃げと、怒りのデスロード
朝日が昇る荒野。
帝国軍の包囲網を前に、エンジン始動の音が轟いた。
ドクン……ドクン……グオオオオオオオッ!!
それは内燃機関の爆音ではない。心臓の鼓動と、魔獣の咆哮が混ざり合った、大気を震わせる「生物」の叫びだ。
「ひぃっ!?」
最前列で銃を構えていた兵士たちが、泡を吹いて倒れた。
『新生・オモテナシ壱号機』から放たれる『王者の威圧』。
ベヒモスの素材に染み付いた「捕食者の気配」が、純金回路によって増幅され、周囲に恐怖の衝撃波を撒き散らしたのだ。
「シートベルトをお締めください。……少々、揺れますよ」
運転席のオトモが、優雅にギアを入れる。
隣の助手席で、ライラが狂喜の声を上げた。
「全速前進! 邪魔なのは全部吹き飛ばしなさい!!」
ズドォォォォォォォン!!
壱号機が発進した。
それは加速というより、射出だった。
数トンの質量を持つ黒と黄金の怪物が、停止状態から一瞬でトップスピードに達する。
「うわぁぁぁ! 来るぞ! 撃て! 撃てぇぇ!」
指揮官の絶叫と共に、数百の装甲車から砲撃が開始される。
ドガガガガッ!
徹甲弾の雨が壱号機を襲う。だが。
カィィィン! キィィィン!
弾丸は全て、赤黒い装甲に当たって無力に弾け飛んだ。
傷一つ付かない。それどころか、弾いた運動エネルギーを吸収し、装甲が妖しく脈動する。
「無駄だぜェェ!!」
窓から身を乗り出したキッドが叫ぶ。
「こいつはミスリル包丁でも切れなかった皮だぞ! 鉛玉ごときで傷つくかよ!」
「前方に重戦車部隊! 道を塞いでるわ!」
ミルカがモニターを見ながら叫ぶ。
包囲網の厚い壁。三台の重戦車が横に並び、鉄壁のバリケードを作っている。
「オトモ! 避ける?」
「いいえ。――『捕食』します」
オトモはアクセルを緩めない。
直撃コース。
衝突の瞬間、壱号機のフロントバンパー(ベヒモスの牙加工済み)が展開し、巨大な顎のように開いた。
「『暴食突撃』!!」
ガァァァァァァァァンッ!!
轟音。
重戦車が、まるで紙細工のようにひしゃげ、宙を舞った。
壱号機は減速すらしない。障害物を噛み砕き、踏み潰し、その残骸をタイヤで轢き潰して突き進む。
包囲網に風穴が空いた。
壱号機は砂煙を上げ、荒野へと飛び出す。
「逃がすな! 追えぇぇ!!」
背後から、無傷の装甲車部隊と、上空の飛行船が追撃を開始する。
帝国の最新鋭装甲車は速い。荒れ地でも時速100キロで食らいついてくる。
「しっつこいわね! ハエみたい!」
「執事! 空からの爆撃が来るわよ! 装甲は耐えてもタイヤが持たない!」
「問題ありません。ミルカ様、アレの出番です」
「待ってました! 金貨回路の伝導率、テスト開始よ!」
ミルカがコンソールパネルを叩く。
車内に張り巡らされた黄金のラインが、カッ!と眩い光を放つ。
「冷却機能反転! 『氷結街道』展開!」
屋根に搭載された『ブリザード・カノン』が、後方に向けて冷気を噴射した。
ヒュオオオオオッ!
絶対零度の冷気が地面を凍らせ、壱号機の通った後に「氷の道」を作り出す。
そこへ、猛スピードで追撃してきた装甲車たちが突っ込む。
「うわっ!? 滑る!?」
「制御不能だぁぁぁ!」
ガシャーン! ドカーン!
後続車が次々とスリップし、玉突き事故を起こして横転していく。
炎上する車列を尻目に、壱号機は氷の上を滑るように加速する――はずだった。
ズドォォン!!
突如、壱号機の目の前に巨大な影が落下してきた。
氷の道を粉砕し、行く手を阻む金色の要塞。
帝国の『美食将軍』ガストロが駆る、特注の二足歩行戦車だ。
「待てェェェ! 私のベヒモスを……貴重な食材を持ち逃げする下賤な盗っ人どもめ!」
ガストロが操縦席で吠える。
その目は、ただの肥満体のそれではない。獲物を追い詰める狩人の目だ。
「オトモ、右へ!」
「いえ、左です!」
オトモがハンドルを切るが、ガストロの戦車は巨体に似合わぬ俊敏さで先回りした。
ギギギィィッ!!
巨大なフォーク型アームが、壱号機の屋根をかすめた。
嫌な音が響き、火花が散る。
「うそ……ベヒモスの装甲に傷が!?」
ミルカが悲鳴を上げる。
無敵と思われた装甲に、白い傷跡が刻まれていた。
「ふん! 私のフォークはアダマンタイト加工済みだ! さあ、串刺しにしてやる! 『処刑フルコース・串打ち』!」
ガストロのアームが振りかぶられる。
速い。この距離では躱せない。
「……チッ。あの体型で、動きは『三ツ星』級ですか」
「私の城に傷をつけたわねデブぅぅ!!」
オトモが舌打ちし、ライラが激怒する。
追い詰められた。
だが、この状況こそが好機。
「キッド様!」
「おうよ! 肉料理の作法ってのを教えてやるぜ!」
キッドがレバーを引く。
壱号機の側面から、巨大なアームが出現した。
その先端には、屋台サイズの超巨大な『ミスリル包丁(コンテスト優勝賞品)』。
「そっちはフォークか? こっちは包丁だ!」
ガギィィィィィンッ!!
交差する包丁と肉刺。
キッドの斬撃が、ガストロのフォークを根本から叩き折った。
「なっ……私の特注フォークが!?」
「今です! 『黄金オーバードライブ』!」
オトモがステアリングにある「黄金のボタン」に手をかける。
だが、ミルカが青ざめて叫んだ。
「待って! まだ冷却が追いついてない! 今それを使ったら、金貨回路が溶け落ちちゃうわよ!?」
「構いません。一瞬でケリをつけます!」
オトモは躊躇なくボタンを押した。
ブシュゥゥゥゥッ!!
車内の純金回路が、高熱でドロドロに融解しかけ、危険な輝きを放つ。
壱号機が悲鳴のような咆哮を上げ、物理法則を無視した加速を見せた。
「どきなさい豚ァ!!」
ドガァァァァァァァァンッ!!
体当たり。
ガストロの戦車は、ボウリングのピンのように空高く弾き飛ばされた。
「おぼえてろぉぉぉ……私のデザートがぁぁぁ……」
キラン、と空の彼方で将軍が星になった。
同時に、壱号機のダッシュボードから黒煙が吹き出す。
「あつっ!? ほら言ったじゃない! 金が溶けてる!」
「ふぅ……ギリギリでしたね」
オトモは煙を払いながら、涼しい顔で片眼鏡の位置を直す。
バックミラーには、砂煙の向こうに小さくなるガーグの街が見える。
完全に振り切った。
「あーっはっは! 最高! ジェットコースターより面白いわ!」
ライラは身を乗り出し、風を浴びながら叫んだ。
隣では、キッドとミルカが安堵のため息をつき、それからニヤリと笑ってハイタッチをした。
「やったな! あの将軍を吹っ飛ばしたぞ!」
「……本当に化け物ね、この車も、あんた達も」
危機を乗り越え、結束はより強固なものとなった。
壱号機は速度を落とし、海岸線沿いの街道へと入る。
前方には、どこまでも広がる青い海。
「さて、店長。空は帝国のハエが飛び回り、陸は戦車が塞いでいます」
オトモが空を睨む。
帝国軍の追跡は終わらないだろう。彼らがこの「最強の屋台」を諦めるはずがない。
「逃げ道はもう、一つしかありませんね」
「……あの中?」
ライラが海を指差す。
「ええ。冷たくて、暗くて、美味しい魚がたくさんいる『スープの中』です」
「魚料理ね! 悪くないわ!」
黄金のラインが輝く黒い屋台は、波飛沫を浴びながら、次なる目的地――深海への入り口を目指して走り去っていった。
■ 現在のG-Log掲載情報(自動更新)
【店舗名】
リラクゼーションサロン・オモテナシ(新生・移動要塞モード)
【総合評価】
★0.04(維持)
・新着口コミ:なし
※帝国軍・将軍ガストロ「星になったので投稿不可。フォーク弁償しろ ★0.0」
【店舗設備】 『新生・オモテナシ壱号機』
・状態:オーバーヒート(黄金回路の一部が融解、要メンテ)
・追加機能①:『暴食突撃』
・追加機能②:『氷結街道』
・追加機能③:『調理武装』
・必殺技:『黄金オーバードライブ』 → 金貨回路を限界稼働させる超加速。使用後、回路が溶けるため連発不可。
【従業員】
・店長:暴走運転にご満悦。海鮮料理への期待が高まる。
・執事:超絶ドライビングテクニックを披露。将軍の実力を評価。
・同乗者:アーム操作担当。将軍のフォークを一刀両断。
・同乗者:エネルギー制御担当。回路融解の危機を管理。
【今回の戦果】
・帝国軍包囲網の突破
・重戦車3台の破壊
・美食将軍ガストロの撃退(辛勝)
・逃走成功
【現在の目的】
・陸と空の追跡を逃れるため、海へ潜る準備をする。
・次の目的地:『裏ミシュラン』に記された「深海都市アビス」を目指す。
【次回予告】 静寂の海と、深海の歓迎者。




