第13話 極低温のソルベと、仮初めの共犯者
満腹都市ガーグの北、荒野のセーフティゾーン。
衛生局の追跡を振り切った『オモテナシ・ゼロ号機』は、岩陰にひっそりと停車していた。
エンジンが止まると、車内には重苦しい沈黙が満ちた。
「……助かったのは礼を言う。だが、俺たちはここで降りるぜ」
助手席(木箱)に座っていたキッドが、不機嫌そうに立ち上がった。
隣では、ミルカが膝を抱えてうずくまっている。
彼らは店を失った。帰る場所も、調理器具も、すべて燃やされたのだ。
「どこへ行くつもりですか?」
「知らねぇよ。……だが、貴族モドキのお守りはごめんだ。俺たちとは住む世界が違いすぎる」
キッドが吐き捨てる。
確かに、オトモとライラの空気感は、スラムの彼らとは異質だった。
だが、オトモは慌てる様子もなく、荷台の巨大冷蔵庫へと歩み寄った。
「おやおや。降りるのは構いませんが、この冷蔵庫の『性能テスト』を見てからでも遅くはないのでは?」
カチャリ。
オトモが冷蔵庫から、金属製のボウルを取り出した。
その表面は霜で白く覆われている。
「逃走中の振動を利用して、シェイクしておきました」
蓋を開けると、中には淡いピンク色の結晶が輝いていた。
『特製ソルベ(シャーベット)』だ。
材料は、ライラが隠し持っていた「サボテンの果汁」と「少量の砂糖」。それだけだ。
「……アイス?」
ライラが目を丸くする。
灼熱の荒野で、氷菓子。それは王族ですら滅多に口にできない贅沢品だ。
「どうぞ。頭も体も熱くなりすぎましたから」
オトモが4つのカップに取り分ける。
キッドは警戒していたが、ミルカが「……食べる」と手を伸ばした。自分の冷蔵庫が作ったものが気になるのだろう。
一口、口に運ぶ。
「…………っ」
ミルカの目が大きく見開かれた。
冷たい。
暴力的なまでの冷気が、舌の上で優しく解け、果実の甘みだけを残して喉を潤していく。
炎で焼かれた喉が、焦げ付いた心が、スーッと鎮火されていく感覚。
「……嘘。完璧な温度管理……氷の結晶がミクロン単位で均一化されてる……」
「へぇ、やるじゃねぇか」
キッドも一口食べ、驚いたようにスプーンを止めた。
「俺の腕でも、ここまで滑らかにはならねぇ。……悔しいが、極上のソルベだ」
「んん~っ!! 美味しいぃぃ! 生き返るぅぅ!」
ライラは既に二杯目に突入していた。
車内に、カチャカチャとスプーンの音だけが響く。
「美味しい」という事実だけが、4人の間にあった見えない壁を、ソルベのように溶かしていく。
全員が食べ終わった頃、オトモが静かに切り出した。
「さて、本題です」
オトモは懐から一枚のチラシを取り出した。
『大肉祭り・料理コンテスト開催。優勝賞品:金貨1000枚&伝説の調理器具セット』。
「明日は肉祭り本番。メイン食材は『暴虐の魔獣牛』です」
「……だから何だ。俺たちにはもう店も道具もねぇ」
「ええ。ですが、ここには『最強の冷蔵庫』と『最高のコンロ』があります」
オトモが指差す先には、屋台に積まれた二つの魔導機器。
「提案です。手を組みませんか?」
オトモは眼鏡を光らせ、商人《悪党》の顔をした。
「貴方達には『キッチン(場所)』と――あの化け物に立ち向かえる『捕食者』がいません」
「……アンタらは?」
「私たちには『魔獣を解体する技術(キッド様)』と『機材を調整する知識(ミルカ様)』が足りない」
「……つまり?」
「利害の一致です。優勝して、賞金を山分けしましょう。新しい店を建てる資金くらいにはなるはずです」
キッドとミルカが顔を見合わせる。
友情ではない。信頼でもない。
だが、あの衛生局の鼻を明かし、料理人としての矜持を取り戻すには、これ以上のチャンスはない。
「……冷蔵庫のデータも取りたいしね。あの執事の技術は盗む価値があるわ」
「……チッ。しゃあねぇな。乗りかかった船だ」
キッドがニヤリと笑い、拳を突き出した。
「契約成立だ。だが勘違いすんなよ? 俺たちはあくまで『ビジネスパートナー』だ。馴れ合うつもりはねぇ」
「ええ、もちろん。用が済めば解散です」
オトモも拳を合わせる。
仮初めの同盟。
だがその時、遠くのガーグ市街から、地響きのような咆哮が聞こえてきた。
グオオオオオオオオオッ!!
大気を震わせる獣の声。
ついに搬入されたのだ。この街を破壊し尽くすメインディッシュ、魔獣牛ベヒモスが。
「……聞こえる」
ライラが涎を垂らして立ち上がった。
「肉が……肉が私を呼んでいるわ!」
◇
コースはいよいよメインへ。
4人の即席チームが、最強の食材に挑む。
■ 現在のレビュースレート掲載情報(自動更新)
【店舗名】
リラクゼーションサロン・オモテナシ(ガーグ支店・荒野セーフティゾーン)
【総合評価】
★5.0 ⇒ ★5.0(変動なし)
・新着口コミ:なし
※衛生局から逃走中のため、口コミ投稿環境が存在しない
・効果:裏ガーグの料理人界隈で「冷菓を作る屋台」として噂が広がる
【店舗設備】 オモテナシ・ゼロ号機(フルキッチン化目前)
・外装:鉄柱 + 紫カーテン
・内装:ロイヤルスイートベッド + 魔導コンロ + 無限水蛇口
・機能:魔導冷却ユニット『ブリザード2000(改)』
・追加成果:走行振動を利用した“自動シェイク機能” ←New!
・注意:冷蔵庫の冷気が強すぎて、屋台内部が時々“極寒”になる
【従業員】
・店長:ソルベ2杯で完全復活。ベヒモスの咆哮に涎で反応
・執事:整体師 兼 魔導技師 兼 交渉人(悪党スマイル習得)
【今回の獲得アイテム】
・料理:『特製サボテン・ソルベ』 ←New!
→ 荒野のオアシス。4人の心を一時的に繋いだ“契約の味”
・状態:『パーティ結成』 ←New!
→ 目的:肉祭り優勝&賞金山分け
→ 期間:ベヒモス討伐まで
・情報:『大肉祭り・料理コンテスト』の詳細
→ 優勝賞品:金貨1000枚&伝説の調理器具セット
【現在の目的】
・4人の即席チームで、魔獣牛ベヒモスを調理・攻略する
・肉祭りコンテストで優勝し、賞金で新店舗の建設資金を確保する
【次回予告】 暴虐の魔獣牛と、始まりの包丁。




