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令和鬼合戦6:門の深淵~赤きカザンの咆哮~

地獄の門へと飛び込んだ雉翼衆ちよくしゅう三番隊。 天才・九十九つくも薫が、魂の底から敬意を抱いていた伝説の忍――雉翼衆総大将・雲隠巌斎くもがくれ・がんさい

地獄の気流を支配する老将と彼に憧れる若き天才。瘴気渦巻く地獄の空で二人の忍が言葉を交わします。

 魂脈こんみゃくとは、神経系に沿って流れる「魂の血流」である。忍術を使うために必要な魂のエネルギー。

通常、それは肉体の中に留まっているが、忍者はこれを練り上げることで忍術を使うことができる。それらを体外へ放出し「風遁」や「土遁」などの忍術へと変換する。そして、現代の忍が纏う外骨格は、この魂脈を流すことで硬度を上げることもできる特殊な物質でできている。


 倉敷駅の戦いで、岡山犬牙衆 九番隊 副隊長 源雲切みなもと・くもきりが振るった野太刀によって築かれた鬼の死体の山。初めて地獄の門を閉じた後、九十九 つくも・かおるはその肉の山を無造作に踏み台にし高く跳躍した。


雉翼衆では一番背が高く厚い胸板とがっちりとした四肢を持ちながら彫刻のごときしなやかさを併せ持っている。白銀の長髪が瘴気の風に冷たくたなびいた。

彼ら雉翼衆が纏うのは、他の部隊とは一線を画す雉翼衆専用外骨格『蒼穹そうきゅう』。防御用の装甲を極限まで削ぎ落とし空気抵抗を排した流線形のフレーム。武器にもなる姿勢制御用の小型ウィングが、彼らを「人間」から「最速の猛禽」へと作り変えていた。


空を自在に翔けるのは単なる忍術ではない。背負った特殊な素材の『外套マント』を

飛行忍術の「風受開翼ふうじゅかいよく」で翼のように展開し自ら放つ風をその裏面で受け止めることで強大な浮力を得る独自の飛翔術だ。

 柳は漆黒のマントを、アンナは軽量化された薄いマントを大きくはためかせ飛び立つ


「行きます」


 その背後から、影が弾丸のごとき加速で続く。

三番隊隊長、柳 真一やなぎ・しんいち。小柄で 筋張った細身の身体は、空中戦を考えて鍛えられたもの、まさに空を駆けるための「翼」だ。短髪の下から覗く眼光は、獲物を狙う鷹のように鋭く、冷徹な上忍の風格を漂わせている。


 そして三番隊副隊長、本田 アンナ(ほんだ・あんな)。小柄で少年のような幼さが残るベリーショートの髪に、大きなプロテクトゴーグル。その軽量な肢体は、僅かな気流の揺らぎすらも自身の浮力に変える、飛行の天才の証だった。飛行速度も速く、風遁と火遁が得意だ。


彼らが所属する『雉翼衆ちよくしゅう』の入隊条件は、風遁ふうとんによる飛翔、あるいはそれに類する忍術を扱えること。空を制する者だけがこの部隊の門を叩ける。

 九十九は風遁を使いこなせるようになったがまだ完ぺきではない。空中で思わぬ方向に行ってしまうこともある。そこで土遁どとんを応用して自身の周囲の重力を制御し、滑るように滑空した。重力を操れるのは歴代で二人しかいない。九十九は忍者学校時代から天才と呼ばれていた。


 門が開いた場所は、鼻を突く硫黄の臭いと、肌を焼くような乾燥した熱風が襲いかかる。そこは、果てしなく広がる「灼熱地獄」だった。


見上げる空に太陽はなく、重苦しく垂れ込めた暗雲が全てを覆っている。雲の隙間からは絶え間なく青白い雷鳴がほとばしり、雲の上に何があるのかを伺い知ることはできない。

 この世界を照らすのは、空を割る雷光と、大地を裂いて流れる溶岩の輝きだけだ。


「……あれが、地獄の標か」


 九十九の視線の先、暗闇の中にそびえ立つ巨大な火山のシルエットがあった。本田アンナが飛翔しながら横に並び、その山を指差す。


「あれが『地獄富士じごくふじ』よ。高さは三千七百七十六メートル。富士山と全く同じ高さだからそう呼ばれているの」


 噴火口からは真っ赤な溶岩が滝のように流れ出している。その威容は、地獄のどこにいても視認できるほど巨大だった。


「地獄富士は大きいから、地獄のどこにいても見えるわ。もしはぐれて迷ったら、まずはあれを探しなさい。あれを基準にすれば、自分の位置がわかるはずよ」


 アンナはさらに高度を上げながら、地獄での「生存ルール」を九十九に教え込む。


「基本的に、羽の生えた鬼はいないわ。だからこうして空を飛んでいれば安全よ。……でも、油断は禁物。力のある鬼だと、そこら中の岩石を投擲してかなりの上空まで狙ってくるから。地獄富士より高く飛んでいれば、奴らの攻撃は届かない。 安全を確保したければ、あの山の頂より高い場所を維持することね」


 九十九は下層を這いずる鬼の群れを見下ろした。確かに、溶岩の川のほとりには数え切れないほどの影が蠢いているが、こちらを睨みつけることしかできない。


「地獄富士の南に広がるのが、この灼熱地獄。あそこに見える溶岩の川が大きく曲がっている場所があるでしょ? その先、十キロメートルの地点に、私たちの『空中要塞』があるのよ」


 アンナはさらに高度を上げ、蛇行する溶岩の川の先を見据えた。


「雲の下、高度五千から五千五百メートルの位置に拠点があるわ」


 雷光に照らされて浮かび上がったのは、巨大な複数の「たこ」に吊り下げられた、バスケットコートほどの広さの足場だった。


「空中要塞、『天凧あまだこ』よ」


 雉翼衆が地獄調査の拠点として構築した浮遊する砦だ。それは戦闘用の施設ではない。物資の保管や、極限状態の隊員が休息するための小さな浮島。四人の上級風遁使いが絶えず術を注ぎ込むことでこの高高度を維持している。


「地上とは電波が一切届かないわ。門を直接くぐらない限り、向こうとはやり取りできない。私たちは完全に孤立した偵察部隊なのよ」


 九十九は、その小さな要塞と、その遥か上空で荒れ狂う雷雲を見上げた。

地上では羅夢多らむだたちが戦闘しているだろうか。だが、九十九の瞳にあるのは鬼への憎悪とさらなる深淵への渇望だった。


「孤立か。……望むところだ」


 高度五千五百メートル。落雷が絶え間なく続く暗雲の直下。  複数の巨大な凧に吊り下げられた浮遊基地、空中要塞『天凧あまだこ』に、柳とアンナ、そして九十九の三人が音もなく着地した。

 バスケットコートほどの広さの足場は、四人の上級風遁使いが四隅で印を結び、絶えず風を送り込むことで、地獄の猛烈な上昇気流をいなして滞空を維持している。


「物資持ってきたわよ」


アンナが手際よく、食料、飲料水、予備外骨格パーツ等、背負っていた物資が入った袋を中央の保管庫へ降ろしていく。

 その時、足場の端、溶岩の光が届かない闇を背にして立つ、一人の影があった。


「……ごくろう、三番隊」


 低く、だが鼓膜を直接震わせるような重厚な声。

そこに立っていたのは、雉翼衆の総大将、雲隠 巌斎くもがくれ・がんさいだった。


 柳やアンナよりもさらに小柄で、深く刻まれた皺、枯れ木のように細く節くれ立った四肢。年齢は四百歳を優に超えていると噂されるが、その真偽を知る者はいない。肩に羽織った外套が、凄まじい風にバタバタと激しく煽られている。鬼から人間を守り続けてきた伝説の忍。半年間、地獄にいるだけで心身に異常をきたすのが普通だが、数十年地上に戻っていない『天凧』の守護神だ。


 不意に、地獄の底から吹き上げた巨大な突風が『天凧』を襲った。足場が大きく傾き、四隅の風遁使いが苦悶の表情を浮かべる。


「――静まれ」


 巌斎が短く一喝した。その瞬間、暴風が嘘のように消えた。彼が放った風遁が、周囲の気流を完全に相殺し、真空の静寂を作り出したのだ。地獄の気象すらねじ伏せる、圧倒的な力の片鱗。


「総大将。柳、本田、帰還いたしました。新人の九十九を連れてまいりました」


柳が簡潔に報告する。


「噂の天才です」


本田が笑いながら報告する。

その紹介を受け枯れ木のような老人がゆっくりと眼を開いた。


「……ほう。あの『九十九』か」


 巌斎の濁りのない双眸が、九十九を射抜く。この老人の前では赤子のようにすべてを見透かされているような気がした。


「九十九薫です。……総大将にあこがれて雉翼衆に志願しました。……いつか超えることを目標にしています」


九十九にしては珍しく、言葉に僅かな熱が混じった。


「カカ、記録など紙屑よ。……九十九よ。お主の風は確かに鋭い。だが、まだ『自由』ではないな」


巌斎は、節くれ立った手で地獄富士の向こう側を指差した。


「空を駆ける者が何かに縛られていてはこの地獄の気流は超えられん。……『自由』になれ。お主が真に我を超えたいと思うのならな」


 九十九の胸の奥で、憧れが、激しい「闘争心」へと書き換えられた。

自分が憧れた男は、超えることを歓迎しているようだった。


「……承知しました。俺は、総大将を超えて鬼を殲滅する」

「……感謝します。総大将」


 九十九は深く一礼した。

 九十九は、憧れの男と同じ地獄の空気を吸っていることに、かつてない高揚を覚えた。だが同時に今の自分ではまだこの老人の域には届かないことも理解していた。


「柳。八時間の休憩後に探索を開始だ」


 柳に促され、九十九は要塞の端にあるベッドへと向かった。地獄の熱気と硫黄の臭いから眠れるか心配だったが硬い軍用ベッドに横たわった。

 向こうには雷鳴に照らされ不気味に輝く「地獄富士」が見える。


「……俺は必ず超える」


 九十九は、自分の中に芽生えた「憧れ」という名の熱を抱えたまま静かに目を閉じた。  地獄の空で見る初めての眠り。天才の意識が深い闇に沈んだ。

第六話をお読みいただきありがとうございました!

憧れの総大将・雲隠巌斎との邂逅。老将が見せた圧倒的な器と九十九が捧げた敬意。高度五千メートルの空中要塞で九十九は束の間の休息に入ります。

次回、第七話。衝撃が物語を加速させます!

面白いと思っていただけましたら、ぜひ**【評価】や【ブックマーク登録】**よろしくお願いいたします!※AIとの共同執筆作品となります。

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