令和鬼合戦:偽りの親子~鉄斎と次郎~
時代は幕末から明治へと移り変わる動乱の過渡期。 地獄から連れ帰った「一本角の子供」との生活は、五年という月日を数えていました。
名を鈴木一から「鉄斎」へと変えた男が、備前(岡山)の地で育んだ禁忌の平穏。 鬼を最強の敵に育てるはずが、皮肉にも武人の心に芽生えたのは「家族」という名の情愛でした。
あの日から、五年が過ぎた。
元号は慶応から明治へと変わり、世の中が廃刀令や文明開化に揺れる中、備前岡山藩の忍びの家系である鈴木一は、名を「鉄斎」と改め、犬牙衆の中でも一際孤高な存在として知られるようになっていた。その裏で、彼は誰にも言えぬ秘密を育て続けていた。
地獄で拾ったあの子供は、今や身長百八十センチを超える立派な青年に成長していた。 鉄斎は試行錯誤の末、ある法則を見出していた。月に一度、額から突き出す角を切り落とすと、彼は驚くほど「人間」として育つのだ。角が生えては切り、生えては切る。その繰り返しの中で、少年は言葉を覚え、食事を摂り、普通の人間の若者と変わらぬ知性を身につけていった。
「……叔父さん、今日の訓練はこれで終わり?」
青年は鉄斎を「叔父」と呼び、慕っていた。鉄斎は彼に「次郎」という名を与え、同居する親族として犬牙衆の末端に届け出を済ませていた。
次郎には、地獄にいた頃の記憶は一切ないようだった。
鉄斎は、次郎という存在に底知れぬ疑問を抱き続けていた。
本来、鬼というものは角を失っても鬼のままだ。過去の実験データでも、角を折られた鬼が人間性を獲得した例など一度もない。彼らは言葉を話さず、人間の肉を求め、破壊の衝動にのみ突き動かされる。
だが、次郎は違った。
鉄斎が教える忍術を熱心に学び、毎日の剣の訓練にも文句一つ言わずに励む。その腕前は……まあまあ、といったところだ。犬牙衆に入れば「中の中」程度の実力だろう。当初、鉄斎が期待していた「自分を満足させてくれる最強の敵」になる気配は微塵もなかった。
しかし、皮肉なことに、戦いにしか興味がなかった鉄斎の心境に変化が訪れていた。 独り身の殺風景な鈴木邸に、次郎がもたらす明るさは、鉄斎にとって日々の小さな楽しみとなっていたのだ。
来月から、次郎も正式に犬牙衆への入隊が決まった。
身内に甘いという批判を避けるためか、鉄斎が備前の拠点を守るのに対し、次郎の配属先は他国(他県)へと決まった。
「ここ一年、角も生えてこない。……もう、完全な人間だ」
次郎との訓練も、あと数えるほどしかない。鉄斎は寂しさを隠すように、以前よりも厳しく指導をした。
鉄斎は気づいている。次郎には、どうやら密かに付き合っている女子がいるようだ。
鬼と人間の間に子が成せるのか。そんな前例はない。だが、鉄斎はそれを咎める気にはなれなかった。次郎のやりたいようにやらせてやりたい、という親心に近い感情が、かつての狂戦士の中に芽生えていた。
「次郎、外へ出ても鈴木の名を汚すなよ。これからは刀の時代ではないかもしれんが、忍としての誇りは捨てるな」
「わかってるよ、叔父さん。戻ってきたときは、また手合わせしてよね」
笑い合う二人。それは、どこからどう見ても仲の良い叔父と甥の姿だった。
だが、鉄斎の中に眠る本能だけが、静かに警鐘を鳴らし続けていた。
一年も生えてこない角。それは「治癒」したのか、それとも……内側へと向かって、より深く「根」を張っているだけなのか。
第四十七話をお読みいただきありがとうございました!
幕末・明治の動乱期を背景に、備前の地で育まれた歪な絆。 鉄斎と次郎。鬼と人の境界線上で育まれた、偽りでありながら本物の親子の時間が過ぎていきます。
次回、お楽しみに!
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※AIとの共同執筆作品となります。




