令和鬼合戦:大阪の小門~凱旋の咆哮~
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羅夢多たちが灼熱の地で牙を研いでいる間、地上では不気味なほどの「静寂」が続いていました。
半年間、一度も開かない地獄の門。その異常事態が、地獄に取り残された精鋭たちの生命線を静かに削り取っていきます。
札幌の最大級の「氷結地獄」の門が閉じられてから半年が経過していた。
かつて戦場となった場所は今、自衛隊と忍組織によって厳重に封鎖されている。司令部の一角にあるオペレーションルームで大ノ木 モモは青白いモニターの光に照らされていた。
「……また、今日も反応なしか」
モモが吐き出した溜息は、冷え切った室内で白く濁った。
鬼脈と魂脈のレーダーの波形は凪いだ海のように平坦なままだ。
通常、地獄の門は日本のどこかで少なくとも一週間に一度は発生する。それが長い間続いてきた「世界の理」だった。しかし、あの札幌の戦いを境に地獄の門はどこにも出現していない。
「半年……。こんなこと歴史上一度もなかったはずよ」
モモはキーボードを叩き地獄に残留している部隊の物資推計データを表示させた。
天凧にある物資は補給なしでも最長一年ほどは活動を継続できる。だが、それはあくまで「生存できる」というだけの話だ。
「食料や飲料水の備蓄は、もう限界に近いはず……。戦う以前に、飢えと渇きが彼らを襲っているかもしれない」
画面には、地獄に送り出されたままの鈴木 羅夢多と九十九薫の忍者学校の同期との写真が並んでいた。
最後に見た羅夢多の背中は、まだどこか幼さを残していた。だが、地獄の過酷な環境と半年という月日は、彼をどれほど変えてしまっただろうか。まだ生きているのだろうか。
「……羅夢多、九十九。あんたたち、本当に無事なの?」
モモは窓の外、かつて門がそびえ立っていた虚空を見つめる。
門が開かないということは新たな鬼が地上に来ないということだ。
それは一見、平和に見える。だが、モモのような技術者や指揮官たちにとっては地獄側が何か巨大な力を溜め込み「門を閉ざして人間をほろぼそうとしている」という最悪の戦略に見えていた。
誰一人、地獄から戻ってこられない。
誰一人、地獄へ助けに行けない。
「もし……もし次に門が開いたとき、そこに立っているのがあんたたちの死体だったら……私は……」
モモは震える手で、羅夢多からもらった小さな「お守り」を握りしめた。
科学では説明できない予感が彼女の胸を締め付ける。
地獄の底で、彼らはまだ戦っているのか。それとも鬼に飲み込まれてしまったのか。 沈黙を続ける空は今日も何も答えてはくれなかった。
半年間の沈黙は、唐突に破られた。
場所は多くの人々がひしめく大阪・梅田。その一角、空間がガラスを割ったような音を立てて歪み『小さな門』が口を開けた。
「門だ! 門が出現したぞ!!」
即座に大阪対鬼特務忍群が駆けつけ一般人を避難させる。
かつての札幌のような巨大な「大門」ではない。せいぜい四メートルの地獄の綻びのような小さな穴。だが、そこから溢れ出す鬼脈の圧力は研ぎ澄まされていた。
「……何かが来るぞ! 構えろ!!」
警備隊が忍刀を抜いたその時、門の中からドス黒い影が次々と這い出してきた。
それは鬼の群れだった。そして、門の境界が歪むほどの巨体が、無理やり空間を押し広げて現れた。
ズ、ズゥゥゥゥン……ッ!!
全長五メートルの十本角。全身から黒い霧を吹き出す『毒霧の黒鬼』。その圧倒的な存在感に、警備隊の誰もが死を覚悟した。しかし、その巨鬼の頭は真っ二つに割れた。
「……大阪か。たこ焼きくいてぇ!」
最初に声を上げたのは、九十九だった。重力で空間を安定させながら、悠然と巨鬼の背に立っている。
そして――最後の一人が、巨鬼の額から地上へと飛び降りた。
「……戻ったぞ」
鋼のように響く声。
鈴木 羅夢多。彼の顔には半年間の凄惨な修行を物語る。纏っている魂脈は洗練されていて、強大なエネルギー体へと昇華している。
「岡山犬牙衆九番隊、鈴木羅夢多。これより司令部、および岡山基地への帰還報告を行う」
羅夢多がそう告げた瞬間、彼が纏う蒼白い『鬼火装』が照明を飲み込むほどの輝きを放った。
第十七話をお読みいただきありがとうございました!
地獄の門が半年間も開かないという異常事態を描きました。 忍としての体力はあっても、水や食料という物理的な限界が迫っています。 モモの祈りは、地獄の底に届くのでしょうか。
次回、第十八話。面白いと思っていただけましたら、ぜひ**【評価】や【ブックマーク登録】**をよろしくお願いいたします!




