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ROUND18・水と風

 冷静さを取り戻した悠紀は、頼れる仲間のおかげもあり、順調に勝ちを拾い上げて行った。

 一回戦、二回戦ともに3人目までもつれることもなく。

 若葉もめろんも、腕に磨きを掛けたという言葉は偽りでも誇張でもなく。

 若葉のデュラノアはその殺戮性を体現したかのように中下段の揺さぶりはより激しく。デモネードは、容赦のない置き攻めとトリッキーさで、まさに屍の山を築いていく。

 悠紀の朧丸は、基本に忠実。奇をてらわなぬ堅実な攻めを貫く。

 そして。

 対戦台の向こう側にいるのは、アッシュブロンドの、見慣れた人物。

「では、『二代目アマネとゆかいななかまたち』と『開花宣言』の試合を始めます」

 進行役の声に促され、3人と3人。両チームが向かい合う。

「よく急造チームでここまでこられたな。ま、私も人のことは言えんがな」

 悠紀も雨音も、お互いの手の内は知っているが、残りふたりのメンバーのデータはないだろう。事実、悠紀は雨音の連れの実力を推し量りかねている。

 チーム代表者、向こうは雨音が。こちらは悠紀がじゃんけんに挑む。

 結果悠紀は負け、向こうが席の選択権を得る。使用する台は1Pサイド。恐らくチームメイトに配慮してなのかも知れない。

 こっちは相手チームの順番を見て采配を変えられる権利を選択。

 向こうチームは月本玲於奈こと『レオナ』。星良沙理依こと『サリー』。そして対象に雨音こと『ドラゴンナイト』を据える。

「・・・俺が先発でもいいか」

 その提案に驚いたのは、若葉だ。

 それは決して焦っているわけではない。先程までの焦燥感に突き動かされての提案ではない。

 いつから見知らぬ人間と戦う時に、相手のことが怖くなってしまったのだろう、と思う。

 ゲームを始めた時は、遥か格上でも、負けて当然。勝てば自分の実力が上がったような高揚感を感じられていた。

 自分が自惚れていないのなら、ある程度の力を得た頃にそれは感じていたと思う。

 自分より強者。未知の強さに敗北の沼へと引きずり込まれる。自分の知らない戦法。動きで翻弄される。

 ランクやポイントに囚われて、楽しむということを忘れていたのかも知れない。それを若葉の言葉が思い返させてくれた。

「私は構わないよ」

「先鋒を買って出るからには、ちゃんと仕事してくださいね」

 その勝手な意見に、ふたりは快く送り出してくれた。

 向こうの先鋒は玲於奈。

 使用キャラは『アクエリア』。ファンタジア・ヘブンでも人気の、巫女三姉妹のひとり。水の魔法を操り、それを生かした技を使う。

 悠紀、玲於奈共に席に座り、スタートボタンに手を掛ける。玲於奈はカードを使用していなかったが、ここまでくれば、カードの成績は当てにならないだろう。

 やがて、悠紀の意識が画面の中へと引き揉まれた。


 青い髪をたなびかせる女性キャラは、水の魔法を行使する。それは直接攻撃も持つが、最たる特徴が直接攻撃と相反するような、設置技などのトリッキーさだ。

 案の定、玲於奈の選択は画面端まで距離を取り、宙に浮かぶ水球を放つ。ゆらゆらと漂うように浮かぶそれは、触れればダメージこそ少ないものの、相手キャラに作用する攻撃判定を持つ。

 この辺はデモネードにも似た性能を持つ。にも関わらず、早々に初手を許すことになったのは、それに噛み合うかのような距離を離す移動技も持っているからに他ならない。

 画面上の距離をなかったことにするかのようなワープ技、『水面渡り』で早々と距離を稼がれ、『水光珠』を設置させられた。

 空中から放つ飛び道具『天水槍』をファストガードで凌ぎつつ、様子を伺う。

 玲於奈の操るアクエリアの動きは悪くない。

 相手との間合いを計りつつ、空中から飛び道具で削るのは初心者っぽい安易な動きに思えるが、ちゃんと間合い調整、撃つタイミングをずらすなど、工夫が見える。だが、それを悠紀は全て凌ぐため、体力ゲージの変動はない。

 だがこのまま追い込んでも、アクエリアにはワープする技を持つため、相手が功を焦って押し迫るのを、レオナは冷静に飛び道具を放ち続けている。

(簡単に誘いには乗らないか)

 玲於奈はゲームはかじっているとは言ってたから、こっちの思惑にも気づいているのだろう。

(なら)

 悠紀はレバーを弾く。朧丸の頭上を青い槍が掠め、侍が駆けた。

 飛び道具を放ち、落下してくるアクエリアに合わせて、朧丸もジャンプ。

 ワープはしない!

 空中で叩き落として、地上に引きずり込む!

 だが、朧丸の斬撃をアクエリアはガード。そのまま朧丸のレンジにまで引き込むことに成功する。

 あとはガードを揺さぶって・・・。

 ゲームをかじっているとは言え、中下段の連携を完全にガードできる人間はそうはいない。このまま崩させてもらう。

 悠紀がレバーを前に倒し、ボタンを押す。

 中段。

 それをアクエリアはガード。まだまだ。

 再度悠紀がボタンに手をかけ、攻めを継続させようとした瞬間。

 アクエリアの身体が発光し、朧丸は吹き飛ばされた。

 ガードキャンセルヘビーアタックだ。

 ゲージ一本消費と引き換えに、相手を弾き飛ばす緊急回避としての側面が強く、ダメージは無いに等しい。悠紀は限界ギリギリ、瀕死の境地になるまでなるべく自力で凌ぐ方法を選択するが。  

 ここは早々に追い返して、再度遠距離で仕留めようという腹か。

 だが。

 アクエリアが朧丸を吹き飛ばした瞬間。即座に水面渡り。

 アクエリアの姿が朧丸の吹き飛ぶ方向へ出現。

 朧丸とアクエリアの位置が入れ替わる!

 そして、画面が暗転。

 アクエリアのハイブリッドアーツ。

『渦泡衝』。

 両腕で輪を作ったくらいの大きさの球状の水の渦を生み、それを宙に漂わせる技だ。

 攻撃判定を残し続ける水球を放った後、すぐにアクエリアは動くことが出来、例えガードされても攻めを継続できる。

 下手に動けば、渦巻く水球に巻き込まれ、ガードに徹しようとも中下段の揺さぶりが来るだろう。

 悠紀は水の渦をガードする中、相手のモーションが見えた。案の定、アクエリアの選択は中段のレバー入れ技。だが、重ねが甘い。

 一か八か。

 朧丸は起き上がりに投げを入力。侍が柄でアクエリアの頭を殴りつけ、蹴りを見舞うモーション。

 投げの演出で渦泡衝をやり過ごす。その後、朧丸は攻撃判定が残り続ける渦泡衝に巻き込まれ、痛み分け。画面外での張り付けは脱したが、アクエリアを逃がしてしまった。

 離れた距離を埋めるように、悠紀はレバーを素早く前方へと弾くのだった。


 さすがだな。

 雨音は思った。

 もう、悠紀は一端の格闘ゲーマーだ。

 自分に憧れ、追い続けてきた少年は、今や自分を支えていただけの器ではない。

 こうして、新たな仲間を引っ張るだけの力がある。

 だが、こちらもまだ負けてはいない。

 玲於奈や沙理依には圧倒的に強いとされている戦法や手のみを練習して貰った。

 所詮は付け焼き刃。本来のゲームの楽しみ方とは逸脱した向き合い方だろう。自分の我儘に付き合ってくれた友人には感謝している。

 こうして、大きくなった弟子の成長した姿がこんなに近くで、対面で見られたからだ。


 画面がフラッシュし、振るった刃が輝きを放つ。

『第1試合、勝ったのは開花宣言!』

 司会者が、悠紀の勝利を称える。

 悠紀は安堵の息を吐く。

 決して弱くない相手だった。置き攻めがもっと狡猾に徹底されてたら、あるいは。

 「ごめん」

 玲於奈が小さく謝りながら席を立つ。それを雨音は大丈夫だ、と言わんばかりに身体に触れる。

 一息をつく間もなく、次鋒との対戦。

「ゆーきクン、よろしくね〜」

 沙理依が悠紀に向かって握手を求める。それに応えるように右手を差し出すと、沙理依は両手で握り返す。

 握った手を上下に振りながら、

「手加減はぁ・・・無理だよネ」

 沙理依が悠紀から手を離さず、身体ごと押し迫る。

「手心を加えてくれたらァ、いいことしてあげちゃうカモ」

 言いながら沙理依は手を離すと、自分の手のひらを悠紀の両頬に触れる。

 沙理依の澄んだ瞳が眼前にまで差し迫り、その距離わずか数センチ。

 その背後で、怒り狂いそうなほどに憤慨している若葉をめろんがなだめているのを悠紀は知る由もない。

「・・・ふむ」

 言いながら、沙理依は距離を取る。

「雨音っちの言う通り、ぺたんこ娘には惑わされない、かァ」

 そう言いながら、肩をすくめた。

「とにかく。改めて、よろしくね」

 そう言って、沙理依はウインクを飛ばしながら、対戦台の向こう側に消えていった。

 悠紀はと言えば。

 早鐘のように鼓動を刻む心臓を、全力で、強靭な精神力で従属させていた。

・・・凄く、いい匂いがしたのは言わないでおく。


 沙理依の使用キャラはシルフィルスだ。アクエリアと同じく、巫女三姉妹の三女。アクエリアが水の魔法ならば、シルフィルスは風を操る。

 風の魔法使いらしく、機動力が高く、並のキャラは徹底されるとその動きを捕らえることすら難しいだろう。

 案の定、沙理依のバトルスタイルはその機動力を生かした、遠距離からの牽制が主だ。

 空中必殺技の『疾風』で牽制を兼ねたゲージ溜め。宙を駆け巡る空中ダッシュと2段ジャンプで的を絞らせない。

 この辺はシュヴァルツェールと似た感じもするが、のらりくらりとした戦い方はこちらのペースを乱される。

 一瞬の隙を突き、悠紀の朧丸に先制を食らう。拘束で急襲する降下攻を初段、しゃがみ弱キックからヘビーアタックまでを繋ぐスタイリッシュモーション!

「!」

 悠紀は驚愕した。

 普通、ヘビーアタックで締める攻撃というのは単発、連続技に関わらず、そこで終了。相手を大きく吹き飛ばすため、攻撃は途切れる。

 だが、吹き飛ばされたはずの朧丸の身体が引き寄せられる。

 沙理依のシルフィルスが構えを取ると同時に、画面全体に緑色の風のエフェクトが走る。

 シルフィルスの必殺技のひとつ『向風』だ。

 EXPゲージを一本の半分消費して、画面内に相手に干渉する風を一瞬吹かせる。

 向風の本来の効果は、遠距離であろうと間合いを強引に詰めるために相手を引き寄せる技だ。ヘビーアタックにキャンセルを掛けて出せば、吹き飛びを抑制できるどころか、逆に相手を引き寄せ・・・。

 シルフィルスが踊る。

 再度弱攻撃からのスタイリッシュモーション。今度は必殺技で連続技をフィニッシュ。

 コンボからコンボという、シルフィルス専用ともいうべき連続技も難なくこなす。

 逆に、朧丸の攻めは、吹き抜ける風に阻まれて、刀が届かなくなる。

『向風』とは反対の性質、相手を追いやる『追風』だ。

 追風の効果中は、一時的にダッシュやジャンプの性能が低下する。

 目に見えて見えない壁に押し付けられたかのように遅くなり、ジャンプ力も落ちる。

 タイミングを伺ったり、遠距離での行動其の者を瓦解させる特殊な必殺技は、さらにペースが乱される。

 さらに、超低空で出されるしゃがみガード不能の必殺技は、見えない中段と呼ばれ恐れられている。

 たまらず悠紀はガードキャンセルヘビーアタックを使用し、シルフィルスの攻めから脱出。

 幸い、沙理依のガードは甘い。恐らく一極集中。向風を始めとする、特殊必殺技を用いた連続技を練習していたのだろう。

 起き上がりの揺さぶりに対応出来ていないのか、ストレートで悠紀は沙理依を下す。

 シルフィルスは、ガードを崩す手段には事欠かないが、反して防御力が柔らかいという弱点も併せ持っている。火力の高い連続技を2セットも決めれば、たいてい終わる。

「あちゃあ〜。ごめん雨音っち!」

『開花宣言、連勝です』

 司会者の声がどこか遠くに聞こえる程、悠紀の息は荒い。それは、この後の大きな戦いを見てなのか。

『さあ、前回準優勝者同士の対戦になりました!』

 雨音は不敵な笑みを浮かべながら、向かいの筐体に座る。

 雨音は3人目。こちらはまだ1人目。それが有利な要素になるとは思わなかった。雨音は、十分これから3人を下す力を持っているからだ。

 不敵な笑みと共に、雨音のアッシュブロンドが怪しく揺れる。

 玲於奈と沙理依と違い、雨音はカードを使用。相変わらず、バケモノみたいな戦績と勝率だ。去年、悠紀たちが準優勝で終わったのは、自分たちが足を引っ張ったからではないのかとすら錯覚する。

 台の向こうに消える瞬間にこちらを見る雨音の目は、追い込まれた状況でなお、その獰猛な輝きを絶やさない獣のような目だった。

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