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ROUND16・THE ULTIMATE ROUND開幕

「頑張ってね、お兄ぃ」

 玄関先まで見送りに来た亜衣に、悠紀は「おう」と応えた。

 寝ぼけ眼を押さえながらも、妹は玄関先にまで見送りに来てくれた。それは、兄と共にする友人への想いも重なっているのだろう。

「若葉のこと、よろしくね」

 その言葉に、悠紀は、

「ああ」

 と、力強く応えたのだった。


 人の影もまばらな街を抜け、悠紀は駅前に辿り着く。

 若葉とは駅で待ち合わせ、めろんは自分で会場に向かっているので、そこで合流の運びだ。

 めろんが所属するアイドルグループ、えれくとりっがーが、今年のウルティメット・ラウンドの公式アンバサダーなる役職に任命されたので、その関係で会場には一足先に赴いているらしい。

 そんなことを考えているうちに、1台の車がロータリーへ入ってくる。それはゆるやかに動きを止めると、助手席の扉が開く。

 そこから現われたのは、見知った顔。

 若葉だ。

 そして。

 そのあとに、若葉父の姿が続く。

 若葉は父親同伴の自分に、困ったような微かに頬を染めた顔を伴って。

「別にお見送りはいいって言ってんのに」

「こんな朝早くに、ひとりで出歩かせるわけにいかないだろう」

 そこには、ひとり娘を心配する父親の姿があった。そんな父親に、若葉はうっとおしそうにあしらっている。

「着いたから、パパはさっさと帰って」

 送ってくれた父親に向かってなんて言い草だ。

 だが、若葉は少し硬さは見えるけど、父親に対しても素を出すことができるようになったんだな。

 寂しそうな父親を尻目に、若葉は足早に駅舎に向かおうとする。悠紀も、若葉父に会釈をして、その後に続こうとする。

「梅津君」

 そんな悠紀を、若葉父が呼び止めた。

「若葉は最近生き生きしているように思える。それ程、今日という日に懸けていたのだろうな。それだけ、私が娘のことを抑制していたのだということも」

 今の若葉と若葉父の関係を見て、今ではそれがいい意味で大きく広がったのだと感じる。

 若葉の明日以降の未来は、悠紀が干渉するものでもないし知る由もないが、今日という日が何事もなく迎えられたのを嬉しく思う。

「娘のこと。よろしく頼む」

 そこまで言って、若葉父は瞬時に顔を激昂させ。

「調子に乗るなよ!あくまで今日1日に限ってだ!」

 そんな若葉父の激励(?)を背に、悠紀は若葉の後を追ったのだった。


 電車の中は、始発だけあってまだがらんどうだ。車両に乗っているのは悠紀と若葉ぐらいだ。

 若葉は、窓の外の遠ざかる街に目を向けている。

「本当に信じられない。私達、今から大会に向けて電車に揺られるんスよね」

 若葉にとっては去年、ネットを介した画面の中でしか知り得ない世界だったはずだ。それがゲーセンから、大会へと広がった。

 窓の外に視線を向けたままの若葉の表情はどんなものなのか。悠紀には計り知れない。

 悠紀も、胸から様々な感情が湧き出し、混じる鼓動が巻き起こっているからだ。

 大きい規模の大会は、1年ぶり。ウルティメット・ラウンド店舗予選を途中棄権した悠紀にとっては尚更だ。

 ネットの特設サイトでは、各地の店舗予選突破チームが紹介されている。

 優勝候補。

 前回大会優勝者『天上天下』。チームメンバーも前回と同じ。その強さは流石の一言。

 使用キャラクターランクがSSSなのは当然。戦績も、勝率だけで言うなら悠紀、若葉と同じくらいだろう。だが、そのプレイ回数はそれと比べるまでもない。

 トップエースの『リビングストーン』。

 同じくエース級の強さを持つ『キャンサー』。

 雨音でもその進軍は止められず、大将戦までもつれ込むも、その結果は散々たるものだった。

 大将の『リビングストーン』は元より、次鋒の『キャンサー』が強すぎるため、3人目が舞台に立つこと無く、且つ進めてきたからに他ならない。あまりにもデータの少ない中戦う羽目になったのだ。・・・いや、それは言い訳だな。ちなみに、前回大会は唯一大将リビングストーンを引きずり下ろしたプレイヤーとして準優勝ながら表彰もされたっけ。

 そのサイトの中には、雨音率いる『二代目アマネとゆかいななかまたち』と、虎一擁する『風輝学園ゲーム同好会』の名も。

 必ず追いついて見せる。

 スマートフォンの中に表示されるデータを胸に、悠紀は決意を新たにした。

「悠紀さん」

 そんな考えに浸っている思考を、若葉の言葉が引き戻した。

「朝ご飯、食べました?」

 そう言いながら、若葉はカバンから何か包みを取り出した。

「残念ながら今日はママ、お母さん作ですが」

 包みを広げると、そこにはおにぎりが並んでいる。

「電車の中じゃお行儀悪いけど、今ならいいでスよね」

 今いる車両に、ふたりの影以外はいない。多少マナーは悪いだろうが、腹ごしらえさせてもらおう。

 何より、若葉の手の上に乗るおにぎりはまだ温かく、美味そうだ。

 ラップに包まれた外装を剥ぎ、口に含む。

「ん。美味い」

 口の中でほろりとほどける米。程よい塩気と、梅の酸味。シンプルながらに次々と口の中に収めたくなる味だ。

「なーんか、私が作ったやつより食いつき良くないですか?」

 半眼の若葉が悠紀に突き刺さる。

 海で食べた、若葉作の弁当を思い出させる。

 あの時の弁当は、若葉の母親と一緒に作ったと言ってたけど。

「今度は私の作ったやつで美味いと言わせて見せますから!」

 少なくとも若葉の中で、『今度』を思い描いているのだと、悠紀は安心したのだった。


 電車に揺られること約1時間。

 悠紀と若葉は目的の地に辿り着いた。

 巨大正方形のような屋根が特徴的な、ビッグスクエア。今日のウルティメット・ラウンドの決戦の地だ。

 駅前は、まだ朝は早い時間帯に属されるだろうが、今日のイベントが目的であろう人影が見える。

 会場に吸い込まれる人。それは大会そのものに出るか、それを見守る観客としてか。

 ゲーム好きには、今日の催し物は一大イベントの扱いであるらしく、観客の数も凄い。まるで音楽をゲームに置き換えたフェスの様相だったのを、去年驚かされたのを覚えている。

「おーい!」

 そんな中、声を張り上げながら手を振り近づいてくる人物。

 悠紀と若葉の元へたどり着くやいなや、膝に手を置き、息を整える。

「久しぶり!」

 髪の毛を、淡い緑色に染めた女の子。

 桜田めろん。悠紀のチームメイトだ。

 アイドルグループ『えれくとりっがー』に所属する、紛れもない芸能人だ。

 昨夜電話した間柄であろうとも、こうして直接会うのは久しぶりだ。時たま、テレビの向こう側からその姿を見ることはあったが。

「今日という日をめちゃくちゃ楽しみにしてたよ!」

 その興奮度合いが、態度から見て取れる。

「安心して。あれから私も腕に磨きを掛けてきたつもりだから!」

 その自信に満ちた顔から、頼もしさが増している。

「若葉ちゃんも、おはよ!」

 めろんと若葉はお互いに手のひらを合わせ、ハイタッチ。

「んじゃ、行きますか!こうしている時間も惜しい」

 エントリーは先着順。ここでそれをしくじれば、すべてが終わる。

 めろんと無事合流出来た悠紀と若葉は、意識も新たに決戦の地へ赴いたのだった。


 エントリーは無事成功。

 チーム名は変わらずに『開花宣言』と相成った。

 悠紀はチーム名で相撲を取る気はないので思い入れはないが、今回は流石に見が引き締まる。あの時、悠紀の怪我せいで戦うことすら叶わなかった、若葉たちの想いも背負っているからだ。

 キャラクターは事前登録制。記入したキャラクター以外は今大会では使用できない。同キャラも不可。チームの順番は自由。

 大会は2ラウンド先取で、先に3人撃破した方が勝利となる。

 対戦前にじゃんけんをし、勝ったほうが台の選択権か、相手チームの出順を見てこちらの采配を変えられる権を選べる。

 悠紀は侍の朧丸。

 若葉は竜の姫、デュラノア。

 めろんは死霊の王であるデモネード・ネコロラノフⅧ世。

 スタンダード、テクニカル、ディフェンスと、見事にキャラクターバランスがバラけた感じもする。だが、それを引き出すのはプレイヤーの手腕次第だ。

 続々と、たった1枠の出場権を狙って、悠紀と同様の考えを持つゲーマーがひしめき合う。

 各地の店舗予選に勝ち上がれず出場権を得られなかっただけで、この場にいる人間も手練れに変わりない。油断していい相手では決してない。

 当日出場枠は、会場の片隅に用意された本戦出場者の肩慣らしのために使う数台並んだ筐体を用い、時間短縮のために一斉に行われる。

 やがてエントリーは締め切られ、最後の望みであろう、それに漏れたチームだろう。そこかしこから悔しそうな声が漏れる。

「ふたりとも、ちょっと話があるんだ」

 悠紀は意を決し、若葉、めろんと向き合う。

「今回の当日予選、先鋒は俺で固定にしてもいいか」

 もし無事にエントリーできたらと、ずっと考えていたことだ。

「リンドバーグではふたりに迷惑かけた。そのお返しと言ったらなんだけど」

 その時、悠紀は手に怪我を負っていた。その腕ではまともにキャラクターをコントロールすることは叶わず、リンドバーグ代表を虎一に明け渡すこととなった。

「律儀だねー」

 その提案に、めろんは呆けたような顔を見せている。

「肩慣らしもしたいだろうけど、ここは俺に任せてくれると助かる」

「リンドバーグで、大将でふんぞり返っていた時の罪滅ぼしのつもりですか?」

 その時の悠紀は、若葉とめろんの力のみで勝ちに行こうとしていた。まったくもって情けなく、しかも、当然のことながらそれがどれだけナメた考えであるのと、それを証明するように、それが叶うことはなかった。 だから、そう取られても仕方ない。

「いいんじゃないスか?私は別に構いやしませんケド」

「私も特に断る理由はないよ」

 ふたりの寛大な心に感謝。

 それに報いる働きをしなければ。まだ、悠紀たちはスタートラインに立ったばかりなのだ。

 当日予選は、当然中継されるべき部分ではない。ここで終われば、大人しく帰ることを余儀なくされる。

 程なく、係員のアナウンスが入る。

 間もなく当日予選を始める、と。

 流石の若葉も、表情を固くして息を飲む音すら聞こえそうだ。

 めろんは、悠紀から見た感じではそこまで緊張が見えない。流石は大勢の人の前に出る仕事をしているだけはある。

 指定された筐体に通され、対戦相手のチームが向こう側に向かう前に、お互いが握手。

 そして。

 悠紀はカードリーダーにカードを乗せ。

 スタートポタンに指を掛ける。

 かくして、頂上決戦の舞台へコマを進める権利を得るための戦いが、始まった。


 フタを開ければ、悠紀の3タテで初戦を突破。

 続く2戦目、3戦目も危なげなく相手チームを下す。

 周囲では、悠紀の預かり知らないところでざわついている、

(あれ、去年の準優勝の奴だろ?)

(当日予選のレベルかよ)

 その一騎当千ぶりに、周囲のプレイヤーは恐々としている。

「・・・何だか嬉しそうだね、若葉ちゃん」

 めろんは、悠紀の背中に視線を落としたままなのを指摘され、慌てて顔を上げる。

「べ、別に嬉しそうにしてたわけじゃないし。これくらいやってくれなきゃ困るだけだし」

 その言葉に、めろんは微笑ましくも苦笑する。

 決して、この当日予選のレベルが低い訳では無い。

 まるで、今までの鬱憤を晴らすかの如く。悠紀はその力を遺憾なく発揮し。

 集まった総勢16チームの頂点に立ち、見事本戦への切符を手に入れたのだった。

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