BONUS STAGE3・BATTLE FIELD OF WILD WOLF 後編
流石人気ゲーム。プレイするのにも数十分を要した。
順番待ちの列に並んでいる間、アプリで細かな機体調整に勤しむ。
せっかくプレイするのなら、カード分は元を取らないと。自分で出した金ではないが、虎一に報いるためにも楽しまねば。
「えーと、右腕部にはマシンガン、と」
フェアリーは、使用する武器、武装により重量が決まっているらしく、装備できる武器は機体の最大積載量に関わってくる。その最大積載量を高めるのも、ポイントを溜め、新たな機体を構成する四肢のパーツを購入し、交換しなければならない。
左腕にシールド。近接武器ビームサーベル。こんなもんでいいか。
ピクシーも機体同様ゲーム内で手に入れたポイントでカスタマイズできるらしい。
先にも述べたが、ピクシーは機体性能には何ら関わりを持たない要素だ。機体カスタマイズを捨ててまでピクシーに注ぎ込むことをするだろうか(機体カスタマイズとピクシーカスタマイズのポイントは共通)。
それに、悠紀の選んだ(選ばされた)『シャニカ』は、ビューモードと呼ばれる全身をスマートフォンの画面に映すモードでも異彩を放つ。
例えば虎一のティエレッタは、しずしずと主を影から見守る、まさにメイドの鑑ような様相。
一方『シャニカ』は。
画面をタップするとピクシーは応えてくれるという触れ込みなので、悠紀は試しに画面を押してみる。
『なんスか?用もないのに汚い指で触らないでくれますゥ?』
『あーあ。どうせならつよぉいエースパイロットに拾われたかったなァ』
『見るに絶えない戦績ですねぇ。ザコザコザーコぉ』
・・・こいつは本当に戦闘をサポートする気はあるのか?出てくる言葉全てが癪に障るというか。戦績はまだ一回もプレイしてないから0に違いないが。
「ほほう。早速パートナーとのコミュニケーションで戦意を高めているようだな」
同じ列に並ぶ、傍らの雨音が愉しそうに笑う。戦意は高まらないが、言い表せない感情が渦巻く。
空いた筐体に先に雨音が向かい、次いで悠紀。
ポッド型筐体の中は以外に広く、閉塞感はあまり感じられない。
二本の操縦桿を模したようなレバー。そして下部にあるフットペダル。並んでいる間にパンフレットを見て操縦法はなんとなく理解した。あとは実戦でその感触を確かめたい。
カードリーダーに登録し終えたばかりのカードを乗せる。本来のプレイ料金は最低300円かららしい。料金によって遊べるコースも選択できるようだが。
格ゲーメインの悠紀からしたら、信じられないくらいの高級志向のゲームだ。今の悠紀は初回無料プレイコース一択だ。この一回を悔いなく、最後のつもり且つ、絞り取るくらいに堪能する。
そんな意思を込め、腰をシートに預けつつ位置を調整。
『出撃ですかぁ?せいぜいチームメイトに迷惑を掛けないようにしてくださいねぇ』
出撃前の緊張を和らげるつもりすらないらいしい。
『マスターみたいな名もなきザコのパイロットは、戦場の隅で大人しく隠れているのがお似合いですよぉ』
・・・少し大人しくしててくれないかな。
画面上に表示されている出撃までのカウントダウン。そこで最終的なセッティングを施す。初心者且つ、選択肢がほぼない悠紀はそのまま数字が減っていくのを見守る。
どうやら、このゲームを嗜むプレイヤーは仲間内でマイクを持ち寄り、ポッド内だろうと通信で連携を取るのだという。虎一が早速カバンから自前のヘッドホンを取り出しているのを見た。恐らく、それもこのゲームをプレイする時の楽しみなのだろう。生憎この一回こっきりのつもりの悠紀は、そんな物を用意する考えに至らない。
やがてカウントがゼロになり、画面がシャッターで閉じた演出が開き、そこには抜けるような青い空が現れる。
『レディ』
別の電子音声がポッド内に響き。
『ゴー』
シートが揺れ、画面の中が眼前に迫る動きを見、地上に降りる演出とともに、悠紀の初戦場は始まった。
『マシンガンのトリガーは右手ですよぉ。お箸を持つ方ですよぉ。左利きだったら反対ですからねぇ』
当たり前のことを、相変わらず癇に障る言い方で告げるシャニカ。
『撃ち方はご存知ですかぁ?画面内のターゲットサイトに相手を収めてぇ、トリガーを引くんですよぉ』
悠紀が放り出された場所は、ビルの立ち並ぶ市街ステージだ。
遠くから、銃弾の飛び交う音が早くも聞こえてくる。悠紀はその最前線に飛び込むこと無く、なるべき距離を離す。
まだ、当然初心者の域を出ないし、操作にも慣れていない。
もし外のモニターに今の行動映し出されているなら、やたらマシンガンとサーベルを出し入れし、小刻みに上昇下降を繰り返す奇妙な動きに見えるだろう。
『当たらなければ、死にはしない、ですかぁ』
シャニカはマスターである悠紀の腰抜けぶりに辟易しているだろう。被弾しなければそれこそ死なないし、チームに迷惑を掛けるようなこともない。
このゲームは2チームに別れ、戦場を舞台に戦うゲームだ。チーム共通の戦力ゲージを先にゼロに、もしくはタイムアップ時点で戦力ゲージの多かった陣営の勝利だ。
機体ごとにコストが設定されており、撃破されるとその分が戦力ゲージから引かれる。いい武装、兵装を施している機体はコストが高くなり、撃墜時のリスクも高まる。
そんな折り、画面右前方から赤く、穏やかではない音と共に、危機を知らせるアラートが鳴る。敵機の襲来を告げる警告音だ。
『あ、敵ですねぇ。復習しましょうか。射撃は右トリガー。シールド防御はぁ』
「ちょっと黙っててくれ!」
スクリーンには、すでに手練れの動きと思しき動きの機体が、鉛玉をこちらに叩き込んでいる。
ダメージを示すフラッシュエフェクトと、小刻みにスクリーンが揺れる演出が焦りを生み出す。
ガチャガチャと、悠紀はまるで格ゲー初心者のようにレバーを動かすのみだ。
撃つことに専念するのか、シールド防御、もしくは距離をとって回避に徹するか。そんな考えを巡らせているうちに、敵機はビームサーベルを抜き、悠紀の機体をすれ違いざまに斬りつける。
大きく画面が揺れる演出と共に、大ダメージを追った表示が示され、悠紀の機体は爆散。
『ああ〜。やられちゃったぁ。シロウトですかぁ?赤ちゃんパイロットはぁ、大人しく帰って寝たらどうですぅ。コックピットシートじゃなく、ママのお膝の上でぇ』
機体が撃墜されると、戦力ゲージが残っている間は何度でも復活できる。拠点に戻って、リスポーン。
その間にやられたときの反省や、自分のプレイを鑑みるのだろうが、スクリーンに表示されるシャニカと、そのアドバイスにもならない声に、戦闘意欲が削がれる。
その他のプレイヤーは、ピクシーの言葉に踊らされてなどいないのか、激しい銃撃戦、剣を切り結び合っている。
このゲームをプレイして思ったことは、自分がその道のプロだとは思わないが、触れるジャンルによって、いかに得手不得手があるということを知った。
待機時間がゼロになり、再び悠紀は戦場に送り込まれる。
画面内から得るべき情報量は凄まじく、悠紀はそれをまだ一度に処理しきれない。
画面内の敵機の動き。レーダー内に収められた動き。戦況。あらゆる流動的な要素をリアルタイムで受け止め、自身の行動に昇華させなければならない。
腐っても格ゲープレイヤーの反応速度でどうにかなるものでも無い気がする。
自覚する分かるくらい、悠紀は自分のプレイが無様で、ただ慌てるのみだった。
ビルの影からの待ち伏せに気が付かず斬り伏せられ、遠距離からの狙撃にも気づかず。功を焦った突撃も、簡単にあしらわれる。何度拠点に送り返されたことか。チームが敗北した原因は、間違いなく悠紀のせいであろう。
虎一は、もしかしたら元来こういうゲームに対する素質があるのかもしれないし、雨音に関してもそう思う。
初回無料分でお試しプレイに講じた悠紀はそんなことを思った。
結果、雨音は初プレイにも関わらず、三機程を撃墜する高プレイを見せつけ、
「なかなかおもしろいな。私はミルフィをお兄ちゃん大好き妹に育て上げたいと思う」
雨音はもはや、違うゲームだと思っているのではないだろうか。
悠紀は、未だ冷めやらぬ戦場帰りの身体を外で休ませている。結果、悠紀は一機も相手を拠点送りにすること無く、初プレイを終えた。
その一端を担ったのが、耳元でやかましくアドバイスにもならない言葉を飛ばし続けるシャニカにほかならない。それは実力の伴った無い責任転嫁だろうか。
『ホント、マスターはダメダメでしたねぇ。戦績も、下から数える方が早い逆撃墜王ですし』
最後の最後まで、主の気分を良くさせてくれない相棒である。だが。
『でも、まあ。また遊んであげてもいいですよ。ザコマスター』
プレイの終わり際、シャニカのそんな言葉を捨て台詞のように貰ったのだった。
バイトも終わり、家に帰ると、玄関前に若葉がいた。
亜衣と散々対戦していたのだろうか。丁度、玄関先で亜衣に見送られているところだ。
「あ、お帰りお兄ぃ」
靴を吐き終えた若葉が亜衣に手を振り、ゆっくり扉が閉まっていく。
悠紀が扉のノブに手を掛け、若葉と入れ違いになる瞬間。
「・・・なあ、若葉」
「はい?」
若葉の澄んだ目が悠紀を見る。その姿は、何処かの誰かと重なった。
「お願いなんだけど、試しにザコザコ言ってみてくれないか?」
最初、若葉は何を言われているかわからない様子だったが、やがて、その目を嫌悪の眼差しへと変化させる。
「何言ってるんですか?堂々と新たな性癖の発表ですか?キモ」
・・・現実とゲームを一緒にしてはいけません。
そんなことを思い知らされた一日だった。




