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BONUS STAGE3・BATTLE FIELD OF WILD WOLF 前編

 駅前の公園。

 そこには涼やかな水を天に吐く噴水がシンボル的にそびえ、設えたベンチには家族や恋人たちの憩いの場として広がる場所である。

 悠紀たちにとっては、ゲームセンター『リンドバーグ』への経由地としておなじみだ。

 その広場を望む、路地の影。

 そこに悠紀と雨音はいた。

「・・・あの。なんでこんな場所で、俺達はこんな格好で覗いているんですか?」

 身を屈めるように、悠紀は建物の影から噴水側を覗きながら頭上の先輩に問いかける。

「五月蝿い。黙って見ていろ」

 悠紀の頭上。

 竜胆雨音は小さい身体を悠紀の背中に押し付けるように、同様に雨音は鋭い目つきと共に同じく広場に視線を飛ばしている。

 雨音から突然の連絡が来たのは昨日だ。

 内容は、虎一が最近付き合いが悪くなったという話だった。

 悠紀と雨音、虎一は、ゲームを通じて仲良くなった3人だ。

 だが、先日のウルティメット・ラウンドによるチーム分裂をきっかけに袂を分かった。だが、それによりその仲が悪くなった訳では無い。こうして、今でも頻繁に合う間柄なのは確かだ。

「あいつ、もしかしたら彼女でも出来たのではなかろうか?」

 だとしたら、真っ先に悠紀に連絡をしてくるだろう。

 まだ彼女が出来た何だのという話はしたことはないが、虎一なら嬉々として話してきそうだ。

 いつか、お互いそんなことを話す日も来るのだろうか。そう思うと感慨深い。

「・・・今んところ、あいつに彼女がいる気配があるとは思えないけど」

「じゃあ、この付き合いの悪さは何だ?」

 虎一の友人は、何も悠紀たちだけではない。通う学校にもいるだろうし、悠紀とはそもそも学校は違うし、雨音ももはや高校生ではないのだ。

 遊ぶのはもっぱらゲーセン内。そのゲーセンですら顔を合わせることが少なくなったのなら、心配でもあるが。

 それでも週末は会う仲だし、悠紀はそれほど深刻には考えていないのだが。

問題なのは、今が平日だということだ。

 学校終わりでそのままこの広場前。悠紀はバイトがあるので早い所引き上げたいのだが・・・

「・・・来たぞ!」

 雨音の声に気付き前を向くと、金髪にピアスと。なるほど虎一の姿だ。

 雨音の心配事のような女の子の影は見られない。待ち合わせの線も考えたが、そうではなさそうだ。

 なぜなら、虎一の足はその場所が誰かを待つという目的ではないのだろうその足はそのままリンドバーグへと向かっていた。

「おし、追うぞ!付いてこい!」

 まるで犯人を尾行する刑事の如く。その顔は嬉しそうだ。

 雨音の後に続き、悠紀は物陰を後にした。


 確かに奇妙と言えば奇妙である。

 行き先がリンドバーグならば、コソコソする必要は何処にもない。

「どこぞの階の店員とでも付き合っているのかも」

 嫌でも色恋に持っていきたいらしい。

 雨音の思惑とは違い、虎一は当然、店員さんにも目もくれず、エスカレーターを登っていく。

「負けが込んだ勝率を戻すため、対戦に勤しんでいるのか」

 そんな姑息な手段を取るだろうか。腐ってもウルティメット・ラウンドの去年の決勝進出者だぞ。

 エスカレーターを登ったところで、そこで流石に悠紀は驚きを隠せなかった。

 虎一は、格闘ゲームフロアで降りなかったからだ。エスカレーターをそのまま折り返し、さらに上の階へ登っていくではないか。

「おいおい。愛しい彼女と楽しくプリクラか?」

 上のフロアには、女子高生で混雑するシール機がひしめくフロアがある。

 そこは悠紀にとって魔境。来たことは片手で数えるほど。それも昔、悪ノリで雨音、虎一と無理やり撮らされた時以来だ。その写真は、悠紀の勉強机の奥に追いやられてはいるが。

 雨音のいらぬ心配が真実味を帯びてくる。悠紀の知らない友人の一面。確かに少しショックではないと言われたら嘘になる。あいつが望めば、一緒にシールでもなんでも撮ってやるのに。

 だが、そんな心配をよそに、虎一の足はその前で止まった。そこはプリクラゾーンではない。プリクラゾーンはさらに一階上だ。

 そこは、大型筐体のひしめくエリアだ。

 実物のカードを使用したゲームや、人間がそのままポッドの中で操縦するタイプの大型筐体がひしめき合うフロアだ。

 丁度、そのタイプの新作ゲームがリリースされ、話題だというニュースを森田のグループから聞いたっけ」。悠紀は格ゲー畑出身なので、プリクラエリアも含めて縁の無い世界だ。

 物陰から見ていると、虎一はいそいそとスマートフォンを取り出し、とある列に並ぶ。

 それは、件のポッド型筐体に乗り込んで遊ぶタイプ最新ゲーム。

『電子聖戦フェアリーゾーン』と呼ばれるゲームだった。

 ふと、傍らを見ると、雨音の姿が見えない。

 視線を巡らせると、そこには。

 顔面蒼白の虎一と、それを面白そうな表情で見上げる雨音の姿がった。


『電子聖戦フェアリーゾーン』。

 ジャンル的にはFPSと分けられるゲームだ。

 フェアリーと呼ばれる人型巨大ロボット兵器を操り、戦わせるアクションゲームだ。

 スクリーンがほぼ360度に張り巡らされているポッド型筐体の内部は、まさにロボットのパイロットの気分を味あわせてくれ、その臨場感を高める。

 CPU戦、対戦も充実し、チームを組んで強力プレイも出来たり、日々熱い対戦が全国で繰り広げられている。

 カード対応はもちろん。スマートフォンと連動させ、専用アプリで機体カスタマイズも可能。そのバリエーションも豊富で、戦場で同一の機体はないと言われるくらい選択肢は潤沢らしい。それだけなら、凡百のFPSと変わらない用に思える。

 どうも悠紀はそちら側に疎いので、どのゲームも同じように感じられる。が、その手に詳しい人間にとっては、そのどれもが違うのだろう。それは格闘ゲームでも同じだ。バージョンが違えば、それはもう別のゲームである。

 フェアリーゾーンを他のゲームと一線を画す存在に押し上げるのは、ある特徴的なシステムを搭載しているからである。

 プレイヤーが操るロボット、『フェアリー』。その機体に搭載されている超自立型人工補佐AIである『ピクシー』の存在だ。

 そのピクシーなるシステムを搭載した最新鋭の兵器としての設定は、多くのプレイヤーを呼び込むこに成功した。

 デフォルトだけで数十を超える美少女キャラクターがそのAIを担い、プレイヤーの操る機体に併せて、様々な報告助言をくれるのだ。こちらの話し言葉に反応し、応えてくれたり。いやはやゲームは凄まじい領域に来たのだと思う。森田たちが主に反応したのはそこの部分らしかったようで。

 各ピクシーの声を人気声優が演じ、油と硝煙の漂う戦場に花を添えている。

 さらに毛色が異なるのが、プレイヤーの敬称を変えることができる、ということ。

 例えば、あるひとりのピクシーをとってみても、プレイヤーの呼び名を『隊長』、や『リーダー』などと変えてくれるのだ。それは全ピクシーに適応しており、選択肢の中であれば好きな呼び名で、好きなキャラクターに呼んでもらえる、ということになる。

 さて。

 目の前には、虎一。恥ずかしそうに雨音の追求に今現在、フェアリーゾーンにお熱であることを白状した。プレイした理由も、通っている学校の友人に勧められたからだと。

 今ならキャンペーン中で、新規にカードを作ってプレイすれば、初回プレイが無料という大盤振る舞いというサービスも手伝って、らしい。

 カード代は別だが無料なら、という思惑で、見事に沼にハマってしまったらしい。

 意外なのは確かだ。

「で、貴様はどんなピクシーを選んだんだ?」

 雨音は強引に虎一にスマートフォンを開かせる。

 それも気になるな。そう言えば、虎一とそういう話をしたことはない。

「頼む先輩!返してくれえっ!」 

 虎一は、顔を真っ赤にさせながら奪われたスマートフォンの返却を要求している。

「ほほう・・・」

 悠紀もそれを覗き見る。そこに表示されていたのは、虎一のプレイヤーネーム。ファンタジア・ヘブンと同様、デコトラという名で登録されていた。

 プレイ回数や勝率はまだまだ少ない。

 そんなことは重要ではないと言わんばかりに、雨音が指先で画面をスクロールさせる。機体設定をもすっ飛ばして指を滑らせ、

 そこには・・・。

『ティアレッタ』なる、黒髪に穏やかな表情を称えた、清楚を絵に書いたような美少女キャラクターがそこには表示されていた。

 ・・・意外な趣味だな。虎一の性格からは思い浮かばない。意外な趣味の一端を見た。

 専用アプリでは、キャラクターボイスも視聴できるようで・・・。

『旦那様、出撃の用意が整いました』 

 と、澄んだ、それでいて冷静に務める声が聞こえる。

「旦那様、か。お前の性癖を初めて見聞きした気がするな」

 しかも、ティアレッタの服装は、足先までを覆うロングスカートのメイド服姿だ。これも、悠紀のイメージから程遠い、虎一のイメージ。

 なんとも言えない生温かい雨音の表情に、虎一は真っ赤な顔をしてうずくまっている。

 悠紀も、虎一の異性の趣味嗜好を初めて知った。ゲームの話をする気安い仲だが、こういう片鱗も含めて。

 ファンタジア・ヘブンでもお互い使うキャラは男キャラだし。同ゲームには女の子キャラは山程いるが、強さ、キャラ性能に関してはともかくとして、それに触れる話もしなかった。

「で、お前はファンタジア・ヘブンを放っておいて、ティアレッタにお熱だと」

 眼下で身悶えし、呻く虎一。

 だが、ゲームセンターで誰が何のゲームをプレイしようとしたとしても、それは自由だ。当然、虎一がフェアリーゾーンに熱中していようと、それは誰に責められるものではないだろう。

「・・・なあ、悠紀。お前も一丁やってみねえか」

 墓地から這い出るゾンビのように、憔悴しきった虎一が、血走った目で悠紀の肩に手を乗せ、言う。

 誘ってくれるのは嬉しいし、ありがたいが、悠紀には他のゲームに費やす時間もヒマも金も無いというのが本音だ。

 虎一がのめり込むのだから、フェアリーゾーンがただのキャラクターだけのゲームではないのだろう。

「フィールドの中で四方八方を警戒しなければならない戦場は、鋭敏な感覚を養うぜ。それはきっと格ゲーにも生きると思うんだ。俺もそれが目的でプレイしていた」

 気持ちいいくらいに真っ直ぐな言い訳だな。

 だが、虎一がフェアリーゾーンに手を染めた理由の真意はともかくとして、設えてある外部モニターに表示されているロボット同士の戦闘は確かに激しく、俯瞰から見ても目で追うのは容易ではない。

 無数に飛び交う銃弾。閃く光線。翻る光の剣が機体の背後から襲いかかる。

 爆発と熱煙を背負いながら、斬り伏せた爆散する機体を尻目に、剣を振るった機体が次の獲物を求めてブースターを蒸かしながら宙に舞う。

 そこには明らかにコントロール捌き、戦略が要求される戦場に思えた。それは確かにファンタジア・ヘブンの対戦に匹敵する攻防に重なった。

「今ならカードを新規で作れば初回無料だ」

 カード代は実費だろう。フェアリーゾーンのためだけに作るのは気が引ける。

「何ならカード代は俺が奢ろう」

 必死だな。逆に秘密の花園を荒らして申し訳ない気分になった。

「面白そうだな」

 見ると、既に雨音はカードを購入し、スマートフォンにデータを登録している最中だった。なんという行動の速さだ。

『お兄ちゃん!気を付けて出撃()ってきてね!』

 甘ったるいサンプルボイスに、納得したように雨音は頷き。

「私のピクシーはこいつにしよう」

 画面の覗き込むと、ピンク色の童顔少女が、その顔に笑みを浮かべていた。呼び名はお兄ちゃん。もうボケでやっているようにしか思えない。

「ほら悠紀様。お納めください」

 そう言いながら、虎一は新品のカードを殿様に献上するように手のひらの上に乗せ、悠紀に差し出す。

 奢ってもらってなんだが、悠紀は乗り気ではない。

「ほれ、さっさとアプリダウンロードしろ」

 雨音が半ば強制的に指先を操作し、フェアリーゾーンのアプリアイコンが画面上に現れる。仕方ないので、悠紀はそれをタップ。

 カードを登録し、プレイヤーネームを渋々入力。

 使用フェアリーはデフォルトの中から一体をまず選ぶらしい。カスタマイズはまだ出来ないようだ。

 適当に、初心者向けのスタンダード機を選ぶ。こういう場合、スタンダードタイプを選んでおけばまず間違いない。

 そして、ピクシー選択。

 画面には、無数の美少女キャラクターが並ぶ。その中に、件のティアレッタもおり、雨音の選んだ『ミルフィ』もいた。

 指でスクロールしなければならないほど、画面は下部まで渡っている。自分が乗るロボットの数より多いのはどういうことだ?

 ピクシーは、自機の性能には何ひとつ関係しないから、どれでもいいっちゃいいんだけど。

「目移りして決められないのか。じゃあ、これにしろ」

「あ!」

 ピクシー選択画面で指の動きと共にスクロールで選び倦ねている悠紀に業を煮やし、横から雨音の指が伸び、適当に画面をタップ。

 藍色の髪の、少し幼い感じの美少女キャラクターが選択された。

『あなたが私のマスターですかぁ?パイロットにはおよそ見えない湿気たツラですねえ。ま、せいぜい戦死しなように頑張ってくださいねぇ』

・・・なんか、どことなく既視感を感じさせるキャラクターだな。

「あの、登録し直したいんだけど」

「ピクシーはカード一枚につきひとりだ。やり直したいんだったら、カードを買い直すしか無い。2枚目はもう自腹だぞ」

・・・機体は戦場や環境に合わせて選択やカスタムできるのに。不公平だろ。

「先輩、カード交換してくださいよ」

 これは雨音の勝手な操作によって引き起こされた事故だ。雨音にはその責任がある。

「私のピクシーは、妹愛好家垂涎の仕様だが、それでもいいのか?」

 実妹がいる中、それは嫌だ。

 カードを買い直すのも馬鹿らしいし、もったいない。初回無料分くらいは取り返さないと。

 そんな思いを抱きながら、悠紀、虎一、雨音は順番待ちの列へと並んだのだった。

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