偽聖女扱いされ王国を追放されたら破壊神に拾われて闇の聖女となりました。でも、パチンカスに負けた。
キュムキュム キュムキュム
「ファイブボンバーやるー?」
「いーよー、あたし問題出すから、アキコ答えてー」
「うーい」
キュムキュム
「問題出来ましたー。では問題。兄者の良い所を五つ答えろ。制限時間三十秒」
「おけ。んー…、弟に殴られてミンチにされて海に捨てられても、その件で弟への恨みを口にしなかったぐらい弟思いな事」
「そーだねー。主人公達にキレ散らかしてたのも、弟を変えてしまったのが許せなかったからかもねー」
「二つ目、黙ってたらイケメン」
「外見のモデルはビジュアル系の歌手らしいからねー」
「三つ目、試合の盛り上げ方を理解してる」
「本編ではただのクズ扱いだったけど、高い金払って大会見に来た一般妖怪の皆さんへのファンサービスとして見たら、兄者の行為は何一つ間違って無かったよね」
「四つ目、同作者の別作品でめっちゃ愉快な主人公してる」
「兄者が王子様になって兄者の雇用主が王子の護衛役になってたの見た時は、倍返しだ言ってた人が次のドラマで悪徳弁護士になった時ぐらいの衝撃だったよね。アキコ、後五秒」
「五つ目、えーとそうだ、アレがあった」
ペカー
「うおっ、まぶし」
「ひっ、まぶし」
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私はどこにでも居る女子高生アキコ。そんな私は今、異世界に居た。
で、何で今自分が異世界に居るのかを分かってるかと言いますと、私の眼の前に王冠被ったじーさんが居たから。
それと、私の左右には『異世界キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』ってキャーキャー騒いでる同級生とパチンコ屋の景品を抱えたオッサンが居たからだ。
「よくぞ来た聖女達よ!」
ハイ、異世界転生確定。今回の場合は肉体がそのままだから異世界転移なんだけど、異世界転生という言葉の中には異世界転移の意味も含まれてるから異世界転生って言っても正解だと私は思っている。アニメ化したなろう系作品のアレとかアレも肉体そのままで異世界来てるけど異世界転生って言ってるし。
さて、話を戻そう。現状確認。王様の見た目とか今いる王宮みたいな場所には見覚えがある。これ、私が昔プレイしていたゲームだ。だとしたら、ゲーム知識が役に立つかな?
ま、聖女として異世界転生されたからには、取り敢えずテンプレセリフ言っときますか。
「え、ええ?ここって私が昔プレイしたゲームの世界?そして聖女って何?」
「はいはーい、あたしが本物の聖女でーす」
私が無難な主人公ムーブをすると、横に居たテツコが積極的アピールを始めた。
「王様!あたしこの世界の事何でも知ってます!キシャー!絶対このガリ勉やそっちのオッサンより役に立ちますよ!キシャー!」
テツコは私をライバルとして見ているのか、この異世界転生で逆ハーレムをしたいのか、私の方を見て歯茎剥き出しのサルみたいな威嚇をしながら、王様に媚びた。
そして、私達と一緒に転生して来たのであろうオッサンは、パチンコ屋の景品を抱えながらキョロキョロと辺りを見ていた。
「何だぁ?景品交換所はこっちの方と聞いてたんだけど?なあお嬢ちゃん、この辺に交換所あるか知らない…って、学生が知るわけねーか。おい、そこのコスプレじーさん。交換所の場所知らないか?」
「む、この聖女からはパチンカスの匂いがするぞ。お前、もしや原作ゲームを知らんパチンカスなのか?」
オッサンがパチンカスだと知った王様が険しい顔で確認する。つーか、こいつら自分達が乙女ゲームの世界の人間という自覚も日本の知識もあるのね。話の通じないバカよりはマシだけど、ちょっと厄介かも。
「もし、俺がパチンカスなら何だって言うんだ?」
「聖女のチートパワーは、この世界の元になったゲームへの愛着と原作知識の合計で決まるのじゃ。じゃから、パチンコやパチスロでしかこの世界を知らんパチンカスは聖女では無い。じゃけえ追放する」
「あ、それじゃ俺パチンカスじゃ無いです。バリバリゲームやってました!」
どー見てもパチンカスのオッサンは首をブンブン振って否定したが、王様は疑いの目をオッサンへ向け続けながら、指を鳴らすと見覚えのあるイケメンがぞろぞろと現れた。
「これより聖女判別を行う!三人の聖女達よ!この攻略キャラ達四人の名前をせーので答えるのじゃ!間違えたり無回答の奴は追放な。はい、せーの!」
「左から順番に聖騎士アラン・マグワイヤ。天才魔導少年レオナルド・ヘッジホッグ。エルフ族長の息子ボルグス。DLCで攻略可能になる王太子ワグナー八世様です」
「え、えっとアラン?アレン?とー、エルフとレオ君。最後のは王子?王子って攻略出来たの?」
「リプレイ、ベル、スイカ、チェリー」
あれだけ自分が聖女だと連呼していたテツコは、エアプなのがバレて追放された。オッサンもパチスロ台の各キャラ担当図柄を言ってしまい追放され、残った私一人が聖女確定となった。
「それじゃ、よろしくね攻略キャラの皆」
「「「「はーい」」」」
私は攻略キャラ達を引き連れて魔王軍に支配された陣地を少しずつ取り返して行く。ゲーム知識による安全な攻略順序を守る事で誰一人欠ける事もなくサクサクレベルアップしていった。
…そりゃまあ『王国の人達を誘拐犯として非難して自力で帰る』って選択肢とありましたよ?でも、最初に言ったでしょ。私はどこにでも居る普通の女子高生なの。魔王軍を倒す聖女の力と原作知識で仲間の効率的な育成は出来るけど、王国人全員を殺す実力も召喚とは無関係の王国民を見捨てて平然としていられる度胸も無いの。
それに、このゲームの魔王は完全人外な見た目をしたバケモンだし、その上に存在する破壊神は本編中には出番ナッシンなので、あっち側に裏切る予定も全く無いし、なんだかんだイケメン達は優しいし、逆ハーレムは楽しい。きっと、王国はこの状況を楽しめる人間に絞って聖女召喚を行ったんだろうな。聖女召喚テンプレに出てくる自滅ばかりしてる王国と違い、ちゃんとやるべき事をしている。よきかなよきかな。
しかし、私の攻略情報とそれに従うイケメン達の無双は魔王城にて遂に止まった。
「ナニコレ…話が違うんだけど」
魔王城で待ち構えていたのは、魔王軍ではなく破壊神の軍だった。何でクリア後の裏ダンジョンの雑魚敵がウヨウヨしてるんだよ!
「流石は魔王城、恐ろしい殺気を感じる。だが、聖女様は今の私達のレベルなら力押しで勝てると言ってくれた!イクゾー、力こそパワーだ!」
「待って殿下!こいつらは違うの!」
ステポテチーン
「うわーっ!」
「ここまでとは!」
「痛いんだにゃん!」
「わが父マイファーザー、申し訳ありません…」
イケメン達のヒットポイントが秒で溶けた。全員瀕死時のセリフと共にバタバタと倒れ、踏みとどまった私一人が残された。
あ、終わった。私死ぬんだ。この世界、死に戻りはあるのかな?一回死ななきゃわかんねーや、アハハ。死にたくないなあ、つーか、痛いの嫌だなあ。
そんな風に現実逃避をしていると、男の手が私の肩にポンと置かれた。
「ひっ!」
背後に回り込んだ敵の手と思い振り払いながら相手を見ると、それは破壊神の配下でも魔王軍でもなかった。
「待たせたな!」
「…オッサン?」
それは、数週間ぶりに見るパチンカスのオッサンだった。私と同じ聖女の服を着たオッサンだった。キモい。
助かったと思ったが、ニセ聖女が一人増えた所さんでこの状況が変わる訳がないと絶望しなおす。
「オッサン、カッコつけて助けに来てくれたのは嬉しいけど、死人が一人増えるだけだよ。パチ屋の台でしかこの世界の事を知らないオッサンには分からないと思うけどあいつらは…」
「本来このステージに出てくる敵じゃないんだろ?なら、俺が負けるはずねぇんだ」
オッサンは破壊神の軍勢へ真っ直ぐ向かって行く。完全に自殺行為だ。
「プリズムアロー!」
野太い声で聖女魔法を放つオッサン。弓を引く構えから放たれた光の矢は破壊神の軍勢を…一瞬で消し飛ばした!嘘ぉ!?
「何でぇ!?そいつら、魔王倒してレベル制限解除しないとまず勝てない強さなんですけどー?」
「そっちのルールはサッパリ分からんが、俺の打っていたパチスロではステージに対応した敵以外が出現したらその時点でボーナス確定なんだよ」
「ごめん、何言ってるか分からない」
「勝ったんだからそれでいーだろ。そして、破壊神の軍勢撃破でのボーナスはAT突入確定だ。走るぞお前ら!」
そう言うと、オッサンは身体から虹色のオーラを出し、パンツが見えそうなぐらいの前傾姿勢で駆け出した。イケメン達もムクムクと起き上がり後に続いた。
「AT(悪を倒しタイム)突入!虹色オーラは継続率84%以上確定だ!」
「私達も続くぞ!聖女と共に走ってランだ!」
「分かったぜ殿下!」
「了解しました」
「十字キーで好きなモードを選ぶんだにゃん!」
「待って、置いていかないでよ!」
私も必死に彼らを追うが、コイツら走るのむっちゃ速いやんけ!幸い、数十秒進むごとに雑魚敵が立ちはだかり、その時には全員足を止めて敵を倒しているので、何とか最後尾に着いていけるけど、私は完全に戦力外状態だ。
【集え〜五人の戦士よ〜ラストバトルはもうすぐだ〜】
「オッサン!何か変な曲が流れてきてるんだけど?」
「これはAT中の良い状態の時に流れる曲だ。乙女ゲームとやらの方には無いのか?」
「こんな戦隊ヒーローみたいな曲知らねえよ!多分パチスロ用に作った曲なんでしょ?知らんけど!それにしても、この廊下長くない?」
「魔王城の廊下は、どこまでも一直線に続いてるもんだろ?たまに、右と左に扉が出現するけどな」
全く話が噛み合わない。やはり乙女ゲームとパチでは色々と違うみたいだ。そして、腹立たしい事にこの魔王城内はパチンカスの知る世界に近い設定らしい。
「まったく、どんな設定よ」
「恐らく設定4以上だな。さっき金のトロフィー確認した」
「だーかーら、私の知らない用語を…」
キュムキュム
廊下の奥から足音と禍々しい気配を感じ、私達は足を止めた。そこに現れたのはこの魔王城の主…ではない。
「聖女パチンカス、よくここまで来れたわねキシャー!」
「おいでなすったな、闇の聖女」
【闇の聖女バトル!10ゲーム以内にレア役を引けば上位ATのチャンス!!】
「パチンカスではないお嬢ちゃんの為に説明しよう。闇の聖女とは」
「かつて王国に召喚されたが聖女の力無き故に追放された少女が破壊神の眷属となった存在。魔王の死後に破壊神の軍勢を率いて現れ、王国への復讐と全人類を生贄にしての破壊神復活を企む存在、つまりはゲームの裏ボス」
「なんだ、知ってるんじゃねぇか」
「闇の聖女の裏ボス設定は原作ゲーム時点であったからね。それで、こいつを倒すのにはレア役が必要なのでしょ?スイカ、チェリー、期待してるわ」
リプレイとベルに雑魚散らしを任せ、私はスイカとチェリーと共に闇の聖女に飛びかかる。
「本家プリズムアロー!」
「100トンハンマーだにゃん!」
「白のホワイト!」
私達の必殺技を受けて闇の聖女のバリアが破壊される。
「オッサン、これでいいの?」
「まだ分からん。闇の聖女バトル中のレア役で上位ATに突入する確率は25%。だが、引いてみせる!俺のパチンカス人生をこの一打にかける!うおおおお!」
プチュン。
オッサンが闇の聖女に拳を振り下ろした瞬間、魔王城内の明かりが全部消え、辺りが闇に包まれた。これ、成功なの?失敗なの?
「オッサン…?」
何とか目をこらして、オッサンを見つけ成否を確認する。オッサンからは返事が無い。口を半開きにしてプルプルと震えていた。
「オッサン、失敗したの?」
「…フリーズ引いた」
「え?」
「上位ATのチャンスゾーン中にフリーズ引いたんだよ!凄い薄い所さん引けたんだ!」
「それって、勝ったの?負けたの?」
「勝ち確定、万枚コースだ!!多分、お前のプリズムアローがフラグだと思う!ありがとう!マジ助かる!」
辺りがぱあっと明るくなる。すると闇の聖女は光に包まれて消滅し、ナレーションが流れてくる。
【我は主神。破壊神の代行者となっていた闇の聖女が倒され、ようやく神の座へと帰る事が出来た。聖女達よ大義であった。今宵はこの酒池肉林の場にて心ゆくまで楽しむがよい!】
主神の声が途絶えると、私達は魔王城から床も壁も金ピカな成金屋敷にワープしていた。
「上位ATと大量ストックゲーッっ!脳汁止まんねええええ!!」
「ここどこよ」
「神の座って言ってたろ」
「乙女ゲームの真エンドで見た神の座は、こんな金ピカ違う」
「気にすんな。今の時代、どんなスロットも一番いいモードは画面が金ピカになるんだよ!さあ、お嬢ちゃんも勝利の美酒を味わえ!うえーい!」
「…うえーい」
もうどうでも良いや。これはそーゆーもんだと割り切る事にして、私は男達と一緒に宴会したり、金ピカのお風呂で身体洗ったりした。そんな事を四時間ぐらい続けていると、突然神の座の中央に時空の裂け目が現れた。
「オッサン、これは何?」
「あー、コンプリートだな。昔風に言えば打ち止めだ。世界を救った聖女は元の世界に帰れました、めでたしめでたしというエンディングが流れて強制的に遊戯終了だ」
「それじゃ、ここに入れば帰れるんじゃん!攻略キャラの皆、今までありがとー!私達帰るから王様によろしくねー!」
私とオッサンが手を繋いで裂け目に飛び込むと、一瞬めまいがした後、現代日本に無事帰ってこれた。放課後二人で下校中だった時から時間は殆ど経ってないし、私の見た目も全然年取ってなさそう。ヨシ!
…二人で下校中?私、転生前に誰かと一緒に居たんだっけ?
「ねえオッサン、私誰か他の人と一緒に異世界行ってた気がするんだけど」
「一緒に行ったのは俺だろ?」
「うん、そう。そうだよね」
「んじゃ、俺は景品交換所行かなきゃだから、お嬢ちゃんも親に心配される前に真っ直ぐ帰れよ」
「うん、またねー」
その後、オッサンと会う事は二度となかった。通学路に面したパチ屋に来ていたのだからご近所さんと思ったのだが、イベント日の高設定狙いで県外から遠征していた様だ。
そして時は流れ、私は大人になり結婚し子供も生まれた。異世界転生者の親も異世界転生経験者というテンプレがある以上、私の子供もいつか異世界行くかも知れない。その時の為に、わが子にはしっかり教育しておかねば。
「…と言う訳で、パチ屋のリニューアルオープンイベに打ちに行って最新機種の知識を蓄えたいのだけど。これも息子の為なのよ」
「駄目ー。パチンコは無料アプリだけで我慢しなさい」
夫の財布の紐は闇の聖女のバリアより固かった。
・テツコ
あたしだよ!せっかく追放されて破壊神様と結ばれて勝ちテンプレに乗ったのに、パチンカスのせいで台無しだよ!ちなみに、破壊神様の力を得た代償に人間だった頃の存在が人々の記憶から消されてしまったから誰もあたしという存在自体覚えてないらしいわよ。キシャー!
・アキコ
自分を普通の高校生と思っている天才。何年も前にプレイしたゲームの攻略情報完全記憶してるのも、それを元に最適のレベリングを出来るのも、一回死んだら終わりなのに恐怖心が全く無いのも、パチンカスの言葉にすぐ順応したのも普通じゃないのよ!そんで、自分を普通のラインに置いてあたしの事を努力しないバカだって見下してたんだ。だから、異世界に来た時に隙を見て殺してしまおうと思ってたの。こちら側で殺せば完全犯罪だからね。でも、聖女の立場はあっさり奪われたし、闇の聖女になっても勝てなかった!ぐーやーじーいー!キシャー!
・イケメンゴレンジャイ
あたしを追放した王と攻略キャラ達。クズだけど聖女召喚テンプレみたいなアホじゃないから自滅はしなかった。まあ、あたしの手に入らなかった奴らの事なんかもうどーでもいい。
・魔王とかその配下とか
一応まだギリ生きてる。聖女を欠いた王国とどちらが勝つかは五分五分だけど、どーせ最後には破壊神様が降臨して全部滅ぼすからあたしには関係無い。
・破壊神様(本編未登場)
しゅきぃ〜。
・主神
過去に破壊神様と相打ちになって、破壊神様を封印は出来たけど自力で神の座へ帰れなくなっていた…らしい。この主神と彼の住んでいた神の座は乙女ゲームには一瞬だけ登場していたのをパチンコメーカーさんが手を加えて完成させたんだと思う。知らんけど。声優はぶるあああって叫ぶ人。
・兄者
ファイブボンバーのお題になった大人気漫画キャラ。デカい奴の肩に乗って現れるスタイルや、不死身キャラの攻略方法やらのテンプレとなった凄い人。これの良い所を五個言えたアキコはやはり天才だと思う。…そーいや、五個目聞きそびれたなー。
・アキコの旦那と息子
元の世界に帰れたアキコが得た新たな家族。もしかしたら、いつかあたしの邪魔をしに来るかもしれない。怖いなー、戸締まりしとこ。
・パチンカス
こいつさえ!こいつさえ居なければ魔王城に破壊神様から貰った配下投入した時点で勝ち確だったのよ!何なのよ、『本来そのエリアに出ない敵が出現したらボーナス確定』って!確かにパチンカスの業界ではそんなものかも知れないけど!あー、でもアキコ連れて日本に帰った事だけは褒めてやるわ。これで邪魔な奴は居なくなった。数十年後あたしは復活し、破壊神様と共に全ての人間と主神を滅ぼすのよ!キシャシャー!