4話 粒粒辛苦
俺は、街での一件から何か出来ることはないかと思いさらに学習に力を入れた。
何か街のためにしたいという気持ちが父に伝わったこととスキルが分かったことで父がある提案をしてくれた。
それは魔法か剣のどちらの訓練をしたいか選んで実施して良いという内容だった。
俺は、その話を聞いて考え込んでしまった。それには理由がある。俺のスキルである「奮励努力」は、魔法と剣のどちらに適性があるか分からなかったからだ。
仮に剣士の職を選ぶとなると今までしてきた魔法の学習が無駄になってしまう。
それに剣士という職では、目の前の人しか助けることが出来ないし。俺が誓った街の人全員を守りたいという内容は、剣士では実現できない。
一方で魔法使いでは広い範囲を守ることは出来るが、動きが遅くモンスターが目の前の人を襲っていたとしても助けることは叶わない。
そこで俺が考えたのが魔法を使える剣士になることだ。この考えを実現できれば目の前の人も街の全体の人も守ることができると考えた。
この俺が考え出した剣士に名前をつけるなら「魔剣士」とでも言うべきだろうか。
俺は、どんなに大変な道のりでも魔剣士に成りたいと考えた。
気持ちを伝えるために、父の元へ向かった。
俺にとって自主的に自分の考えを伝えようとするのは初めてのことだ。父の元に近づいて緊張しながらもなんとか言葉を紡いだ。
「僕は、魔法と剣の両方を修行したい。そうしなければ僕の守りたい人、全員を守ることが出来ないんだ。」
それを聞いた父は、驚いたように押し黙ってしまった。
「それは、想像を絶するほどの大変な道だぞ。本当に出来るのか。」
しばらくして父が紡いだ言葉は、怒りというよりも心配しているような声音だった。
「魔法を人の2倍、剣を人の2倍、合計で人の4倍、努力して練習するよ。だからどうか2つとも訓練することを許して。」
その返答を聞いた父は、心配しながらも嬉しそうに答えた。
「そこまで深く考えているなんて知らなかった。子どもの成長は、早いんだな。私は、エルピスが誰よりも努力出来ることを観てきた。だから、エルピスの言葉を信じるよ。悔いが残らないように全力で挑戦してみると良い。」
父の言葉からは、信頼してくれていることが感じ取れて言葉に表すことが難しいほどに嬉しかった。こんなふうに信頼してもらえたことは、前世でも無かった。それだけでも俺は、転生できて良かったと改めて感じた。
それから俺は、魔法と剣の修行を本格的に行った。
俺が決めたことではあるが想像以上に大変だ。いつも全ての修行を終えると倒れるように眠っている。
なぜ、魔法と剣の両方を極めようとする人物が存在してこなかった理由を理解することができた。
それは、言うまでもないかもしれないがどちらか一つの訓練だけでもクタクタになってしまうからだ。
だが、俺は街を守るためにも修行を投げ出すわけにはいかないという思いでなんとか修行を続けられている。
※ ※
本格的に訓練を始めてから一ヶ月ほど経過した。
訓練を始めてから俺の身に不思議なことが起こり始めた。それは、使えないはずの属性の魔法が使えるようになったことだ。
魔法の属性には、火、水、闇、光に加えて風や土などの特殊属性などの種類がある。魔法の属性には、相性が存在していて水を扱うことができる者は、反対に位置する火属性の魔法には適性がない。これは、闇と光などの属性についても同様だ。
しかし、特殊属性の魔法については未解明なことが多く相性についての理論も通用するかは定かではない。
俺が初めて扱うことのできた魔法は、火属性の魔法だった。なので水属性の魔法を行使することはできないはずだ。
しかし、水魔法について勉強した内容を活用して毎日、可能な限り訓練したら1週間ほどで扱うことができるようになった。
これは、本で勉強した内容とは真逆の結果であったため驚きを隠せなかった。
俺は、努力が報われたことが嬉しくなり魔法と剣の両方の修行にこれまで以上に力を入れて臨んだ。
訓練を始めてからさらに1週間ほど経過した頃のことだった。
俺は、能力の習得が早いようで魔法では特殊属性以外の魔法を全て中級程度まで扱えるようになった。剣の扱いは、西洋式を初めて学んだこともあって最初のうちは悪戦苦闘したがなんとか上級程度まで身につけることができた。
剣の扱いについては、前世の経験も活用して我流の剣技も考えながら訓練に臨んでいる。
最初の頃は、肉体的に辛かった剣と魔法の訓練を無理なく続けられるようになっていた。
まだ、世界最強の剣士とは到底言えないけれど確実に少しずつ俺の目標に近づけている。
最近は、剣の修行の際に父に初めてとは思えないほど飲み込みが早く才能の塊だと褒められた。
父の贔屓目もあるのかもしれないが褒めてもらえたことが純粋に嬉しかった。
しかし、前世の経験も活用しているので少しズルをしているような気持ちになってしまった。
だから俺は、もっと努力して誇れる成果を挙げたいと考えるのだった。




