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3話 初めての外出

 今日、俺は10歳の誕生日を迎えたことでスキルを鑑定するために両親と初めての外出をしている。

 冬が終わり春の訪れを感じさせる心地よい陽気だ。

 馬車から空を仰ぐと透き通るような青空が際限なく広がっていた。

 外を眺めていると絵画から飛び出してきたかのような美しい街並みを確認できた。 この景色をキャンバスに描けば美術の教科書に間違いなく載るだろうと感じる程だ。

 景色に夢中になって考えごとをしていると馬車がゆっくりと止まった。どうやら目的の場所に到着したようだ。

 馬車を降りると歴史を感じるが管理の行き届いた大きなお屋敷が建っていた。

 建物をぼんやりと眺めていると父と母が俺の手を取って中に入ろうと手を引いてくれた。

 建物の中に入るといかにも専門家ですよと言わんばかりの老人が出迎えてくれた。

 両親と挨拶を交わすとさっそくスキルを鑑定しようという話になった。

 痛みとか無いと嬉しいななどと考える間もなく鑑定するための部屋に移動させられた。

 その部屋は、一面が真っ白な部屋で家具などが一切ない物寂しい部屋だった。どうやら鑑定するためには、余計なものがあってはいけないようだ。

 「では、鑑定を始めます。」 

 その声を聞いて間もなく部屋全体をカメラでシャッターを押したかのような光が発生した。

 光が止んでからゆっくりと目を開けると鑑定をしてくれた老人が姿勢良く立っていた。

 「これで鑑定の作業は、終了となります。鑑定結果は、こちらの用紙に記載されていますのでご覧ください。」 

 老人は、説明を終えると優しく用紙を手渡してくれた。

 そして俺は、判定結果が記された用紙に視線を落とした。

 俺は、目の前のスキル名に驚きを隠せなかった。勉強のし過ぎで目が疲れているのかもしれないと思い目を擦った。それからもう一度、恐る恐る視線を用紙に落とした。

 しかし、やはり俺の見間違えでは無かったようでなんとも懐かしく感じる日本語で「奮励努力」とスキル名が記されていた。

 いやいや、おかしいだろ。スキルが奮励努力ってなんだよ。もともとスキルなんてなくとも俺は努力できるタイプだ。せめて剣に関連するスキルが欲しかった。あの武神とやらは、見かけだけなのかと感じた。

 ぐるぐると驚きのスキルのことを考えているといつの間にか両親が迎えに来てくれたようで結果を尋ねられた。

 応答に困った俺は、少し考えてから結果の記された用紙を2人に優しく手渡した。

 果たしてどんな反応をするのだろうかと様子を窺っていると両親が満面の笑みを浮かべた。なんで大喜びしているのか分からなかった俺は、ぼんやりと二人の笑顔を眺めていた。

 すると父が口を開いた。

「この文字は、神の国の文字とされていて私たちに読むことはできないんだ。だが、この文字で記されているということは将来が有望な印と言い伝えられているんだよ。」

 俺が不思議そうにしているのを感じ取った父が説明してくれたようだ。

 ただの日本語が神の国の言葉とはどういうことだろうか。前世が日本であったことと何か関係するのだろうか。あくまで予想になるが前世の国の言葉でスキル名が記載される仕組みになっているのではないだろうか。

 仕組みの構造について考察していると母に抱きしめられた。

 そうして、今日の1番の目的を果たしたので みんなで昼食を取ろうという話になった。

 家族とのんびりと昼食を食べ終えると街を見て回ろうということになった。

 今日出かけているこの町は、父が治めている街で父の家名である「ノンフォーク」という名前が付けられているようだ。

 初めての外出で見るもの全てが真新しく。せわしなく周りをキョロキョロと眺めていると父さんがまずは商店街から見て回ろうと提案してくれた。

 商店街には、果物屋、魚屋、服屋、道具屋、武器屋、銀行など生活に必要不可欠となるお店が所狭しと出店していた。

 見た感想は、とても住みやすそうな街だなといったありきたりなものだ。

 だが、この便利な商店街を見れば誰もが口々にそう吐露するだろう。

 両親と手をつないで商店街を見て回っていると飴細工されたバラの花の形をした飴を売っているお店を見つけた。前世の時の好物は、飴だったので懐かしさでぼんやりと眺めていた。

 「あの飴、食べてみたいの。せっかくだから買ってみようか。」

 母が優しい声音で提案してくれた。

あまりの嬉しさに俺は、コクコクと満面の笑みを浮かべて頷いた。

 それから3人揃って飴をのんびりと食べた。

 街の全体を見尽くしたからそろそろ帰ろうということになった。

 馬車乗り場まで向かおうと歩き出した時のことだった。

 「「ギャーーーーー」」

 驚いて振り返ると緑色の肌をした子供ぐらいの身長のおぞましい生命体が人々に襲いかかっていた。

 俺が立っているところからはだいぶ距離があるようでまだこちらには到達しないと感じられた。

 その様子を確認した父は、俺と母の手を引いて馬車を待たせている場所まで走った。

「あれはゴブリンだ。武器を持っていない 今の状態では対処ができない。だから避難を優先する。ただし、少しでも早くこの問題を収めるために騎士団のところに寄っていく。」

 父は焦った様子で口早に説明を終えた。

 母は、何も言わずに頷いた。母の手は少し震えていた。

 3人で急いで場所に乗り込んだ。

 乗ったと同時に馬車が先ほどとは比べ物にならない速さで動き出した。

 速度を出しているせいか場所はガタガタと音を出して揺れながら進み出した。

「怪我をしないようにどこかにしっかり掴まっているんだぞ。」

 父が俺たちの様子を見かねたようで心配したように声をかけてくれた。

 母は俺が怪我しないようにと俺を抱きしめて馬車の部分をがっちりとつかんでいた。

 馬車から外に視線を向けると数えきれないほどのゴブリンが街を荒らしていた。

 その様子を見た俺は、困っている人々に何も役に立つことのできない自分の無力さんが憎かった。あまりの悔しさに涙を流した。

 両親は俺が怖がって泣いていると思っている様子だ。

 それから数分が経過して騎士団が在中している建物に着いた。

 建物の周りでは、多くの騎士が馬の準備をして今にも出発しようとしている様子だった。

 騎士団の様子を一瞥した父は、騎士の中でも特に豪華な鎧を着た先頭の男性の元へと近づいた。騎士団の中での責任者のような人だろうか。危機迫る顔をして2人で話を始めた。

 しばらく経過して話しが終わった様子で父が戻ってきた。

 現場のゴブリンによる荒らされた状態を騎士団の作戦を立てる人物に伝えたと教えてくれた。

 父は、私たちにできることはもう無くここにいると騎士団の邪魔になってしまうから早く帰ろうと言った。

 俺は、自分の無力さを悔しく思いながらも父の提案に従った。

 俺は馬車の中からゴブリンに無残に荒らされていく街の姿を見た。

 荒らされている街には、先ほど見た絵画の中から飛び出すほどの美しさはもう残っていなかった。

 この時、俺はこの地を今後、収める後継者として市民を守ることのできる世界で最強の剣士になりたいと強く胸に誓った。

 それから家に着き、父は今回の問題の事務作業に追われていた。 

 父から聞いた話によると忌々しいゴブリンの群れを全て駆除し終わったのは深夜になった頃だったと教えてもらった。

 後で分かった話だが父の治めるノンフォークという街は、周りを深い森林に囲まれていてゴブリンの群れが侵入してきやすい立地であると分かった。

 ゲームの世界では最弱と扱われるゴブリンであるがこの世界では低レベルではあるもの とても弱いという扱いではないらしい。

 だから、武力を持たない一般市民にとっては大きな脅威になりうる存在だということが分かった。

 この話を聞いて俺は、1日も早く強い剣士になって街の人たちを守りたいと改めて思った。

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