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魔王討伐①

「皆、準備は良いか?」

 寮のエントランスに集まったハビィネス達に俺は聞いた。

 マルが少し強張った表情で答えた。

「もちろんです!」

 新調した剣を持ちながらハビィネスが答えた。

「バッチリ良い武器用意してきたよ。」

 強い意志を宿した瞳を向けながらハイビーは答えた。

「おれーしゃ、頑張ります!」

「俺も準備はバッチリだ。よし、行くぞ!!」

 頬を叩き気合いを入れると、秘密の部屋の扉を開けた――。

ーーー

 ゲートを通ると広がっていた世界は禍々しかった。禍々しい。たった一言。この言葉が似あう世界など魔界以外存在しないだろう、そう思うほどに魔界は恐ろしく未知の世界だった。木々には紫色の霧がかかり、草花は毒に侵されたかのように色を悪くしていた。後ろを振り返れば、扉の白い枠が残っているだけで、寮は見えなくなっていた。


 「ひ、ひぃぃいい。」

隣を見ればマルがぶるぶると震えている。杖にしがみついて居ないと立っていられない様だった。

「や、や、やっぱり引き返しませんか?ぼ、ぼく、むりぃぃぃ。」

「あ、失神しちゃった。」

泡を吹いて倒れたマルをハビィネスが抱きしめた。


(美女に抱きしめられるイベントが発生したのに、失神してたら意味ないだろ……。)


 失神していなかったら、手でも繋いで貰えたかもしれないのに何してんだよ。と思う。でも失神してしまったなら仕方ない。ため息をつくとハビィネスに指示を出した。


 「ハビィネス。マルを貸してくれ。魔物に見つかる前に、ハイビーの家に移動する。」


 マルからは「事前に失神したら無理やり連れて行って。」と言われているので、引き返す選択肢は元々無い。魔物に見つからないように移動すると、一階建ての家に着いた。かなり前から建っているのか、所々崩れて居る所がある。扉は閉まっていなかった。


「お母さん居る?」

 ハイビーが聞くが、返事は返ってこない様子だ。家の中を一通り見たハイビーから安全の合図を貰うと、中に入った。鍋が置いたままの台所。洗い物が沢山溜まっている。横を見れば、扉が半分開いた棚があった。中には桃色と青色のマグカップが置いてあった。二つでハートの上半分が出来るようになっていた。


 四人がけの机の上には、置き手紙が置いてあった。


【もう一人の息子へ。貴方が私の事を覚えているかは分かりません。でも、きっと覚えてくれてると信じてこの手紙を残します。手紙は見たら燃やしてください。棚に入っているマグカップを床にある溝にはめてみて。きっと、貴方にとって良いことが起こるわ。貴方の事……ハイビスカスを魔界一愛している母親より。来世は人間に生まれ変わりたい、なんて最近思っています。頑張ってね。】


 ポタポタと手紙に涙が染み込んで染みを作っていく。机に手をついたままハイビーは静かに、静かに泣いた。


 「ごめんですーしゃ。マグカップはめるですーしゃ。」

 目元を真っ赤に腫らしたハイビーがマグカップを二つ、棚から取り出した。机の近くにあった溝にはめる。すると、溝の先が開くようになった。蓋を持ちずらすと中には地図が入っていた。


「これは……なんですか?」

目覚めたマルが首を傾げた。

「――っ、これは……魔王城の地図ですーしゃ。」

「え? でも、魔族って皆魔王の事好きなんじゃないの?どうして裏切るような事……」

「普通はそうなんです。でも、おれーしゃ達は暴力とかで人間を支配しようとしているのが好きじゃなくて。来世は人間になりたいって話す事もあったんです。魔族って生まれ変わっても魔族にしか基本的になれなくて……記憶を持って生まれ変わるんです。だから……! きっといつかおれーしゃが魔王を倒して今の制度を変えてくれるのを、待ってくれていたんだと思うんですーしゃ。」

「そっか。」


それだけ言うとハビィネスがハイビーの頭を撫でた。

「じゃあ、なおさら倒さないとね。私達に魔王は任せなさい! 貴方はお母さん達を探して。ここに居ないってことは捕まってる可能性が高いのでしょう?」

「そうですーしゃ。ありがとう。ハビィネス。」


ーーー

「何があるかこの先分からない。でも、一番優先してほしいのは自分の命だ。危なくなれば逃げ出して良い。俺が言えるのはそれだけだ。」

「分かったわ。リョータ……」

「どうした?」

「ううん。何でもない。ごめんね。」

そう言って目尻を下げるハビィネスは言いたい事を我慢しているようにも見えた。


「じゃあ、魔王城に移動する。準備はいいな?」

「もちろんですーしゃ。」

「後は作戦通りに行動する。行くぞっ!!」

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