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村の様子は昔と変わりなく

リョータ視点

作戦会議をした翌日の昼ごろ、村に着いた。本来なら戦闘の跡が残っているはずの村。建物は壊れておらず、むしろ新築のようだった。建物が全て壊されていたと、ハビィネスから説明を受けていた俺達は建物が壊れていない状況に困惑していた。

「おかしい…こんなふうに建物が建ってるはず無いのに」

村の広場と思われる場所にある噴水の前で、ハビィネスは顔色を悪くしている。

「誰かが建てた可能性は?」

一応聞いてみるが、ハビィネスは「あり得ない」と断言した。

「だって一度魔物に襲われた村で、村人が一人も居ないのに建物を建てるわけないよ。」

罠の可能性も考えて、周りを警戒しながら慎重に村の奥へと進んでいく。

ナトリー様から資料を貰っていたので、その資料を片手に、ヒューマ・レディゴの巣が近くにないかの確認を行った。

ナトリ―様によると、ヒューマ・レディゴが昔に出たと言うことは、近くに巣を作っている可能性が高く、大量に繁殖していることも考えられるのだそう。ヒューマ・レディゴの巣があれば、一度戻り、報告して欲しいとのことだった。


俺が担当したのは村の中で、一軒一軒中を覗いた。どの家の中にもある台所や部屋も新品で、汚れ一つない。ハビィネスが建物が壊れたと嘘を付く理由は無いはずなので、何で汚れ一つない家ばかりなのか、俺は理由が分からなかった。全ての家の中をみると、村の中心にある噴水の広場に集まった。この噴水も汚れ一つない純白だった。

噴水の前には既にハビィネスが立っていた。


「こっちは居ないよ!」

ハビィネスが担当したのは森の手前。

次に森の中を担当したマルが戻ってきた。

「こちらも居ないです!」

「二人ともご苦労さん。」

四方向に別れたが、森の奥深くを担当したハイビーが戻って来ていない。

スキルを使って状況を聞こうと思うとハイビーが走って戻って来た。

「リョータ!ここ駄目だ!早く戻ろう!」

「どうした?何があった。」

明らかに何かに怯えているハイビー。顔は真っ白で、走ってきたからか息が上がっている。

「早くしないと、俺ーしゃ達が吞まれる!」

急いでこの村を離れようとするハイビーに俺が事情を聞こうとする。


ハイビーがこちらを向き話そうとした時、漆黒の何かが姿を現した。


「おいしい、おいしいよ!ふふ、人はどこ?ああ食べたい、食べたいよ!」


その何かはヒューマ・レディゴだ。でも、雰囲気が明らかに違う。漆黒の体は日光を反射し、光沢が出ている。光沢のある体が放つ、魂が竦むような気配に鳥肌が立つ。


隣に居るハビィネスが震え始めた。震える腕でヒューマ・レディゴを指差すとハビィネスは言った。

「あ、あいつ…あいつよ!この村を壊したのは!」

ヒューマ・レディゴゆっくり、不気味に笑いながら近づいてくる。

「あいつがこの村を…!!」

ハビィネスの故郷をめちゃくちゃにしたヒューマ・レディゴに怒りが湧いてくるが、その怒りもヒューマ・レディゴの咆哮と共に何処かにいってしまった。


だって…


「あの量は何ですか…!」

咆哮を聞いたヒューマ・レディゴが百体以上姿を現した。

ここまで来てようやく、ハイビーの言っていた言葉の意味が分かった。

(ハイビーが言ってた、吞まれるってそういうことか!)

こんだけの数のヒューマ・レディゴが居れば、俺達はあっという間に圧迫死してしまうだろう。

そして、大量のヒューマ・レディゴがこの村の外に出たら大変なことになる。来る途中にあった村にも被害が出るし、王国の中も危ないかもしれない。


ここはどうにかして、ヒューマ・レディゴを止めないと…!!

何か攻撃手段を考えていると、後ろから声が聞こえた。

「君たち!ここで何をしている!」

後ろに居たのは片腕の無い女騎士と、その騎士の仲間と思われる騎士が居た。鎧の放つ聖なる空気は彼女たちが見方であることを教えてくれた。


「ヴァーさん!」


女騎士に反応したのは意外にもハビィネスだった。

「ハビィネス!とうしてここに?危ないから早く下がりなさい。」

女騎士がハビィネスの言っていた恩人だと言うことに気付いた俺。

こちらに来るように言う、ヴァーさんの指示をハビィネスは聞かなかった。


俺がハビィネスに指示を聞くように言っても首を頑なに縦に振らない。


ハビィネスは俺達の近くに来たヴァーさんの目を見て叫んだ。

「嫌だよ!このままじゃ皆死んじゃう。もう誰にも死んでほしくない!」

叫ぶとハビィネスは、ヒューマ・レディゴの群に突っ込んでいった。明らかに自暴自棄になっている。


「ハビィネス戻りなさいっ!」

ヴァ―さんの言葉も無視して剣を片手に駆けるハビィネス。

(まずい。周りが見えていない。)

俺はすぐさま動いた。未習得のスキル一覧から強そうなスキルを探す。

(何かいいスキルはないかっ。)

多くあるスキルから選んだのは、【魔力増強】だ。とにかく強そうなのであればなんでも良かった。


(やれる。今の俺なら…!!)

列車の中で読んだ魔法についての本。そこにあった魔法ならこの状況を変えられる。

タイムリミットはハビィネスがヒューマ・レディゴに剣を振るまでの数十秒。

(意識を手先に集中しろ。失敗したら、きっと皆死ぬ。)

皆が死ぬかもしれない極限の状態で目を瞑った俺。そこで俺は何かを掴んだ。それは闇の中にある、触れるだけで切れてしまうような細い細い白い糸。この糸には限りなく大きな力が秘められているのが分かった。


指先でそっと触れれば、糸は白く発光した。


目を開ければ、手先が光っていた。光から風が生まれ、髪が舞い上がる。


「白く光輝く柱。己の掌からうち給え。(コウ)(キラ)(ルイ)砲撃(バーズ)

「くらえ!光り輝く(エターナル)白柱の砲撃(ライトニングバーズ)!」


バチッ。手元で白い火花が弾けた。

ヒューマ・レディゴに向けられた掌から白く輝く光が勢いよく出た。

それは、一瞬のことだった。光でヒューマ・レディゴの群は、はじけ飛んだ。

光が弱まると、ヒューマ・レディゴは全滅していた。


走っていたハビィネスの動きが止まった。髪の一部が強風で煽られ、未だ空中をゆっくりと下降している。

俺はハビィネスの元に駆け寄った。こちらを向いたハビィネスは光を宿していない瞳で俺を見た。


「嘘…うそよ。」

「ハビィネス?」

「信じらんない。」


一筋の涙がハビィネスの瞳から零れ落ちた。


「こんな凄い魔法を使える人がいるなら…この村はこんな事になんてならなかった!私がその力を持っていればっ!!なんでどうして!?私は何でこんなにも弱いの…。自分一人だけ助かって、その命も仲間のためにならなくて…こんな凄い人が近くにいるなら、私なんてただの足手まといじゃない。私。冒険者なんてやらなければ良かった……あの時、何で死ななかったの……」

「ハビィネス…」


なんて声を掛けたら良いか分からなかった。きっと今はどんな言葉を掛けても、心には響かない。そう感じてしまったから。重い沈黙を破ったのはヴァーさんだった。


「ハビィネス。私は貴方の選んだ道に何か言ったりはしたくない。でもこれだけは聞いて欲しい。」


一息分の間の後。ヴァーさんは言った。


「卒業式の日、皆を助けた時ハビィネスは私のヒーローになったの。あれだけ小さかった子が大きくなって誰かを守っている。その姿を見ただけで、今まで命をかけて戦って良かったって思えたんだ。あの日の貴方の姿は、私の生きる意味。だからハビィネス。自信を持って。貴方が生きているだけで私は嬉しいの。貴方は誰かの事を助けられている。私という仲間(家族)()になってるんだよ。」


手をぎゅっと握りしめたヴァーさんは豪快に笑った。


「ヴァーさ゛ぁん。わ゛だし、どうしだら、いいかわかんなくて、あのね、そのね、私、生きてていいの?私、一人だけ生き残っちゃったけど、生きててもいいの?」

「うん。良いんだよ。ハビィネスはここにいて(生きていて)良いんだよ。」

「あ、あぁぁ、、いい゛んだ。いきて、て。いいんだっ!」

ヴァーさんの胸元で泣き続けたハビィネス。


俺は、後ろを振り返った。

核が大量に落ちている。回収が大変そうだが、ハイビーが拾い始めているので俺も拾うことにした。

村はいつの間にか荒れた状態になっていて、綺麗だった村の様子が幻だったことに気付いた。

(魔法がかけられていたから綺麗になっていたのか。全てはヒューマ・レディゴのせいだったってわけか。)

ハビィネスの泣き声が聞こえる中、百以上ある大きい核を俺は淡々と拾っていった。

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