覚醒
ハビィネス視点
「はぁはぁはぁ。」
剣を振り上げ襲いかかってくる魔獣をひたすらに斬るが、数が多くキリがない。それもそのはず、魔獣の数は百体以上。準Sランクといえども一人で相手をするのは無理がある。
誰か助けて…!
と願わずにはいられなかった。
体は攻撃を受けボロボロで、剣を振るのと火を消すために魔法を使うのを同時に行っていたため、体力、魔力共に消費が激しく剣を振るうのも限界が近づいていた。
さっき、リョータが攻撃を受けているのを見えてはいた、でも魔獣を食い止めないと逃げた人々が襲われるため助けに行くことが出来なかった。
だから、助けてと願ったけれどまさかリョータが助けに来るとは思いもしなかった。
だって、魔法について知らなかった彼がSランク冒険者に引けを取らない強さを持っているなんて思いもしなかったから。
限界が近づいた時、後ろからリョータの声が聞こえた。
「ハビィネスさん!助けに来ました!ハイビー、ハビィネスさんのそばにいてあげて。」
「はいーしゃ!」
ハイビーが私にポーションを持ってきた。
「リョータ君、危ないよ!」
ハイビーに支えられながら私は必死にリョータ君の事を止める。
「大丈夫です。考えがありますから大丈夫です。」
大丈夫だと彼は言うが大丈夫だろうか。
私が彼をこれほどまでに心配するのは魔獣などとは無縁な異世界から来た人間だと思っているからだ。魔法について知らなかった時点で彼が召喚された異世界の人間であることはなんとなく想像がついた。そして、昔迷宮を攻略した時に勇者についての本がありそこに召喚術と異世界人について載っていた。
【魔法と魔物、魔獣が存在しない世界からやってくる異世界の人間。異世界の人間は勇者に負けぬほどの身体能力を持ち厄災から人々を救う。】
と書いてあったのだ。
だから、私は魔法の存在を知らなかった彼の事を異世界の人間なのでは?とずっと思っていた。
そして、私の予想が合っていれば、リョータ君は恐らくこの世界に来てからあまり日にちが経っていないはずだ。
だから、私は心配だった。
彼が魔獣相手に戦えるのか、と。
でも、そんな心配はすぐに驚きへと変わった。
タイガーに襲われていた彼は、魔獣から殴られ続けていた彼は、そこにはいなかった。
「嘘、信じられない。」
彼が剣を振るうたびに、魔獣が綺麗に3等分されていく。
右に左に振られた剣は早すぎるあまり見えない。
切り口があまりにも綺麗すぎるため体が切られてもなおズレずにいる。
少ししてからドサドサと音を立てて落ちていく胴体たち。切り口からは血が溢れた。
――――
リョータ視点
【スキル【神速】を獲得しました。】
「スキル発動!」
【神速】―高速で動くことが出来る―を発動した俺の動きはさらに早くなっていく。
右に斬撃を飛ばしすぐに左を向くと襲ってくる魔獣を真っ二つに斬る。
返り血なんて気にせずにひたすらに斬ると同時にスキルを獲得していく。
ハイビーが戦っている時に獲得できるスキルの能力を調べてたので名前を言いスキルを次々と獲得することが出来た。
スキル【華冠】を発動し花で俺の姿を隠し、後ろから首を切断すると体を捻り、体のデカい魔獣の首と胴を切り飛ばす。
襲い来る五体の魔獣を見えない程の速さで斬ると短剣を鞘にしまった。
門が見えない程に居た魔獣はリョータの手によって一瞬にして倒された。
「ハビィネス、大丈夫か?」
「うん。リョータ君が用意してくれたポーションのお陰で傷は大丈夫だよ。」
「良かった~。」
ハビィネスの頬を触り生きていることを確認すると力が抜け俺は地面に座り込む。
「本当に、無事でよかったよ。」
まだ、心配な俺はハビィネスの頬を頭をなで続けている。
ふれるたびに感じる体温が俺に彼女が生きていることを教えてくれた。
「心配してくれてありがとう。」
そこで、言葉を区切ると彼女はこう続けた。
「ねぇ、リョータ君。」
「ん?どうした?」
「私とパーティーを組んでくれない?」
彼女の口から出てきた言葉は予想していないものだった。
Sランクのハビィネスからの誘い。
友達からパーティーとはお互いに命を預けるから特別なもの、だと聞いたことがある俺は少しの間、パーティーを組むことについて真剣に考えた。
本当にハビィネスに命を預けられるのか、信用できるのか、スパイだと言うことを隠せるのか、考えた結果俺の答えは――
「勿論だ。よろしく、ハビィネス!」
「嬉しい!よろしくねリョータ。」
ハビィネスなら大丈夫という安心感からパーティーを組むことを決めた。
そして、無事に魔獣を倒した俺たちはギルドに報告をしに向かった。
建物が焼け焦げ臭いにおいがまだ残っている露店の前から広場の方に向かうと段々とギルドが見えてきた。
ギルドの前には冒険者が剣を構え立っており、建物の中には人々が体を寄せ合って避難をしていた。
「大丈夫か!?」
俺たちの姿を見るなり近寄ってきたのはマスターだった。
「もう、心配しなくて大丈夫ですよ。魔獣は全て倒しました。」
「三人でか?」
驚いた顔をしながら問うマスターに俺たちは顔を見合わせると
「「「はい。」」」
と答えた。
その瞬間ギルドに居る人たちから「ワァアア!」と歓喜の声が上がった。
――――
すっかり日も暮れ暗くなった頃、俺たちのいる【帝国・一地区】はお祭り騒ぎだった。
「リョータ、凄いね。ここの皆、昼間に絶望するレベルの被害を受けたのに私達に、主にリョータに感謝してお祭りを開いちゃうなんて。」
「あぁ、本当にすごいよ。」
皆がお酒を飲み、肉を食い、談笑している。
「ハイビーも楽しんでるみたいだし今はこれでもいいのかもな。」
「そうだね。きっとまた明日からはつらい現実に引き戻されてしまうだろうから今は、、、亡くなった人たち、壊れた建物そんなこと気にしないで楽しんで欲しいわ。」
「そうだな。」
お祭り始まった六時ごろまで、亡くなった人の葬式や、片付けがここでは行われていた。
だから、今だけでも楽しんで欲しい。
グラスに注がれたジュースを飲むと下から声を掛けられた。
「ねぇ、ねぇ!リョータお兄ちゃん。一緒に遊ぼ!」
声を掛けてきたのは、六歳ぐらいの子供三人だった。
「お、いいぞ!じゃあ、お兄ちゃんと一緒に勝負だ。」
「やったぁあーー!」
こうして、一地区で行われたお祭りは夜遅くまで続いた――。




