スパイ
「え? スパイ・・・ですか?」
「あぁ、そうだ。」
国王にスパイをやってくれないかと言われたが、俺はとっても混乱していた。俺は嘘を付けない。だから、スパイなどの潜入捜査は絶対に不向きだ。嘘をつかなきゃいけない場面で嘘を付けないのはとても致命的だ。
「あの、俺、嘘をつくことが出来ないんです。だから俺にはスパイなんて不向きだと思います。」
「なんと、嘘を付けないのか、うーむ・・・。」
「なんか、すみません。俺、本当に嘘を付けなくて。」
申し訳ない。と、俯くと上から、
「問題ない。」
と、いたって普通の声色で言われた。
「え?」
どういうことだ? 問題なんて大ありだろう。例えば、変装して医者になったとする。スパイとかはきっと、私は医者です。と言えるだろう。でも、俺は「私は医者じゃないです。」としか言えない。だから問題なんて大ありじゃ……
「嘘をつかずに素直なままでいればいい。それでも問題が起こらないように私たちが何とかしよう。少年を今から元の世界に戻すには1年、いやそれ以上の時間がかかるかもしれない。だから今すぐには返すことは出来ない。たとえかえす方法があっても少年のような能力値が高い人間を手放すのは惜しい。」
「もとの世界に帰れる方法があるんですか?あと俺の能力値が高いとはどういうことでしょうか?」
「あぁ、元の世界には戻ることは可能だ。それと、君の能力値は勇者と同等かそれ以上のものだ。」
勇者と同等……この俺が? とても信じられないが、国王の言うことは信用できそうなのであとで詳細を見れないか聞いてみよう。でも、元の世界に戻るには1年ほどはかかると言っていたけれど、具体的にはどうやって?
「具体的にどうしたら元の世界に帰れるんですか?」
「それは……」
国王が言葉に詰まっているのを見てナトリーと呼ばれた銀髪の男が口を開いた。
「我々、魔術師団が召喚術の実践と記録を行っている。詳しいことは話せないが、元の世界に戻りたいなら、1年ほど待ってほしい。本当は一週間で返してやりたいのだが、今一周間で少年を返すことになると、大量の魔力を消費してしまい、国の防御がおろそかになってしまう。だから、召喚者が言うことではないかもしれないが、もう少し待って欲しい。一年、いや一年以内に帰すことを約束しよう。」
「一年で帰れる……俺、皆には会いたいです。」
パパ、ママ、それに友達にも会いたい。今頃心配してくれているのだろうか? きっと、俺のことを探してくれると信じて。
だから
「決めました。俺、スパイになります。」
「そうか、分かったぞ。もしも、気持ちが変わりこの世界にいたいと思うことがあったらその時は言ってくれ。」
国王は薄く微笑んだ。
「はい!」
俺は元気よく返事をした。
これからの生活がどうなっていくのかは分からない。でも、俺はこの世界で……
『生きてやる。』




