ハイビーと牛乳
「こちらが、報酬の銅貨十五枚と、追加報酬の金貨二枚です。」
「ありがとうございます。」
お礼を言い金貨と銅貨を受け取る。盗まれないようにすぐ財布の中に硬貨を入れると宿に向かった。
「戻りました。」
宿屋の扉を開け中に入ると、女将さんが机の上を片付けていた。
「おかえり!」
ニコッと笑った女将さんの顔に安心を覚えていると、後ろから肩をバシッと叩かれた。
「おう、青年。」
青年に少年、俺って二つの呼ばれ方しているけどそんなに幼く見えるのか!? と、一人ショックを受けたが、気を取り直してバシバシと肩を叩かれている状況に苦笑いしながら後ろにいる人物を見上げた。
でっかい…
最初に感じたのはでかいだった。後ろにいた男は身長190cmぐらいあり、髭の生えた顔からは力強さを感じる。腰に剣がさされているので恐らく冒険者だろう。苦笑いしている俺に話しかける男。
「Sランクの薬草を採ったんだって? すごいな! 俺のパーティーに入らないか?」
「えっと、遠慮しときます。」
まさかの勧誘だった。勧誘か、流石に今知り合ったばかりの名前も知らない男とパーティーを組む勇気は俺にはなかった。スパイの仕事もあるので、仲間にするなら、信頼出来る奴の方が良い。
「流石に初対面で仲間になる奴は、余程声かけた側が有名じゃない限りねーよな。声かけて悪かったな。」
「あ、いえ。なんかこちらこそすいません。」
俺がとっさに謝ると大柄の男は「気にすんな」と言って階段を上がっていった。
「ご飯食べるかい?」
机の片付けが終わった女将さんがカウンターの奥から聞いてきた。
「食べたいです!」
《たべたいーしゃ!》
俺が手を挙げるとハイビーも俺の真似をして一緒に手を挙げて答えた。
「じゃあ、座って待ってて!今作るからねー。」
そういうと厨房の奥へと女将さんの姿が消えていった。
《ハイビー、明日、魔物狩りに行こうと思うんだ。》
椅子に座るとハイビーも椅子に載せてあげ、話しかける。
《はいーしゃ!でも、どうやってたおすんですーしゃ?》
《武器屋によってナイフを買って、スキルで体を強化して戦おうと思ってる。鑑定スキルで魔物の種類を見て、狩る。》
《なるほどですーしゃ!》
二人で話をしていると、女将さんが「お待たせ、地下鶏焼きだよ。熱いから気をつけて。」とご飯を持って来てくれた。テカテカと輝いている地下鶏からは湯気が出ていて、焼き立てなのが見てすぐ分かった。
「はい、ありがとうございます。」
俺は手を合わせ、感謝の言葉を述べた。
「今日も私達に食べ物を恵んでくださったことを感謝して、いただきます。」
《今日も私達に食べ物を恵んでくださったことを感謝して、いただきますーしゃ。》
フォークを手に持つとハイビー用に鶏を小さく分けた。女将さんに言って、小皿をもらうとハイビーと一緒に地下鶏焼きを食べていく。
「ん~!美味しい!このたれが旨い。」
《うまいーしゃ。》
ハイビーの口周りに付いたたれを拭いていると、女将さんがデザートを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
「お腹いっぱいになるまで食べていっていいからね。おかわりはいつでもいってちょうだい。」と女将さんは言ってくれた。
《ハイビーはお腹空いていない?》
俺はハイビーに腹の空き具合を聞く。
《いっぱいですーしゃ!》
《そっか、じゃあ俺が食べ終わったら部屋行こうな。》
《はいーしゃ!》
残りの地下鶏焼きを食べ終わると、ごちそうさまをし、食器をカウンターの所へと持って行った。
「ごちそうさまでした。」
「あいよ!」
女将さんの返事を聞くと俺は部屋へと向かった。
部屋に着くとバスタオルと、下着を取り、一階の浴室へと向かった。ハイビーは部屋に付いている小さ目のお風呂に入ることになったので一人で浴室へと向かう。浴室はそこまでの広さはなく、脱衣所は男が三人入ったら埋まってしまうぐらいの広さだった。服を脱いでカゴへ入れ、扉を開けた。俺はシャワーで体を流すと、湯船につかった。
薬草が入っているのかお湯の色は緑でとてもいい香り――薬草の香りがした。
リラックスしながら入っているとあっという間に時間が過ぎ、のぼせそうなので上がることにした。服を着ると部屋へと戻った。
「はぁ~、気持ちよかったー。」
《気持ちいかったですーしゃ。》
ハイビーも俺が風呂に行っている間に一人で入れたようだ。脱衣所に牛乳が置いてあったので女将さんに聞いたらサービスだよ! と言われたので一本貰ってハイビーの分をコップに移して二人で飲んだ。
《やっぱり、お風呂上がりの牛乳は格別だな。》
《ですーしゃ!》
飲み終わった瓶を洗うと、コップも洗い、ベットに寝っ転がった。
《ハイビー、おやすみぃ――zzz》
《おやすみーしゃ。》
布団を掛けると俺はすぐに眠りについた。
ーーー
「良太のお父さんだぞ!」
安心する声。
「ふふっ。本当に可愛いね。良太は。」
いい匂い。
「もちろん。そして、君も可愛いよ。」
暖かい眼差し。
「ありがとう。あ、こっち見て。笑ったわ。」
「本当だな。」
ん?夢か?ここは……あぁ、小さい頃の記憶か。前もなんか見たな。会いたいな、皆に――
ーーー
「リョータ!リョータ!おきーしゃ!」
「ん?ハイビー?」
俺は、ハイビーの返事を待たずに抱き着こうとする。
「うん、おれーしゃだよ!」
「大きくなったね……ってえええぇええぇぇ!」
脳じゃなくて、耳に直接届く声を不思議に思い目を開けると目の前には――なんか、裸の人がいた!――裸の男が膝立ちで俺の隣に居た。まさかと思い目の前の男に問う。
「ハイビーか?」
「うん、おれーしゃだよ!」
まじか。ハイビーが人間になった。正確には人型になった、か。角とかも生えてるし人間ではないな。
「まず、服を着ようか。」
「はい!」
チェックのシャツと半ズボンをハイビーに渡した。
~着替え中~
「それで、どうして人型になったんだ?」
推定身長150㎝、耳にかかるぐらいの、人型になる前の毛と同じ色の少し長い髪。まん丸の目。完全なる可愛い系男子になったハイビーに、改めて事情を聴く俺。
「牛乳を飲んだからだと思う。」
いたって真面目な顔で話始めるハイビー。
(よく、牛乳を飲むと背が伸びるって言うけど、効くのが早すぎないか?)
昨日の夜に牛乳を飲んで、翌日に人型に進化する。あり得なくもないの、か? 冷静じゃない俺はあり得なくもないと思い始めていた。未だ、頭の中には沢山の疑問が飛んでいた。
「いったん冷静になろう。」
「?」
ほっぺをぱちんと叩く。
少し冷静になって考えてみると、ハイビーが元のまん丸な姿に戻れるのか気になってきた。
「ハイビー、人型以外にはなれるのか?」
「もちろんですーしゃ!」
そういうと、ボフンと音がして、丸い姿に変身した。
《凄いなハイビー!あ、戻っていいぞ。》
《はいですーしゃ!》
人型に戻ったハイビー。服は着たままだ。よかった、脱げなくて。ハイビーに俺は言った。
「ハイビー、どの姿で過ごしてもいいからな?」
「分かったですーしゃ!だったら、このままでもいいですか?」
「もちろんだ。」
こうして、ハイビーは牛乳を飲んで人型に進化をした。




